39 取引の始まり
行商人ナイルに言われるがまま、城壁内の案内をした。
一つ一つを入念に調べるナイル。
朝からずっと検分しており、遅い昼食を取ることになった。
「いや、建築物の精度の割に、食事は冒険者って感じだね」
「これが現状です」
「いやでもまぁ、冒険者に随伴してる料理人って感じかな?」
褒めてくれているのかな?
「まぁ、深くは詮索しないけど、ここはちょっと異常だな。ほとんどの石材、木材が、あり得ない加工法だ。出来なくは無いけど、絶対にやらない、と言うか、無駄過ぎる労力だよな。良い造りにはなってるけど」
多分、これは褒め、微妙な所だ。
「所々、気になることがあるんだけど、聞いていい?」
「なんでしょう」
「魔石はどうやって都合してるの?」
「えっと、モンスターから集めてますね。まぁ、小さいのは消えちゃうんですけど」
「消える?」
「はい、手にすると、消えちゃうんです。大きいのは直ぐにマジックバックにしまって保管してますけど」
「それ、透明じゃない?」
「そうですね」
「それね、消えるんじゃなくて、吸収されてるんだよ。経験値として」
透明の魔石は、経験値に変換される?
初耳だ。
「じゃあ、火の魔石、水の魔石とかはどうしてるの?」
「それはこれから、魔境で手に入れば嬉しいなぁ、ってところですね」
「お、おぅ。んで、先にガワを造ったと」
「ガワ?」
「建物のこと。全部魔石運用を前提としてるよね?」
魔石運用?
「魔石で動くんですか?」
「え?まぁ、魔石を使わなくても使えるだろうけど、それだと相当な手間になるけど。どう見ても魔石運用の構造だったよ?」
魔石運用?もしかして、最適解?
「あー、僕のスキルの弊害ってところですね」
「はぁ~。ロイ君や。売れる物はあるかい?」
「大したものは無いですね。強いて言うなら、狼、ウルフ、グレイウルフの毛皮くらいですね」
「物を見せてくれたら、属性魔石と物々交換しても良いよ」
あ、毛皮より、使い道の無い金塊にした方がいいかな?
「ちょっと待っててもらえます?」
炭置き小屋、もとい、倉庫に行き、マジックバックに純金のインゴットを全て収納する。
なんとなく、バックパックではなく、マジックバックの方が良い気がする。
「これ何かどれ位の価値になりますか?」
とりあえず、1本だけ出す。
「ほー、インゴットか。これはどこで?」
「ここは元々、ゴブリンの集落だったんです。ホブゴブリン達が宝として持っていた物を回収した形です」
「ホブのお宝かぁ~。随分と貴重な物だねぇ~」
ナイルはインゴットを手にしてじっくり観察し始める。
「ふぅ~ん、ブアルの刻印か。見た目と重さからして、金なのは間違いないね」
「よくある、中身が鉛で外側だけが金、とかありえますか?」
純金なのは鑑定済みだが、ちょっとズレたところのある姿を見せてみよう。
「いや、これ純金だね。一応俺は金属鑑定のスキルがあるから、紛い物は見分けられるよ」
あら?騙したりしてこなかった。
「今、世界的に金の価格は上がってるからね。ブアルの刻印は信用度も高いし、換金手数料も安くなるはずだよ。そうだなぁ、これ1本だけ?」
「どうしてですか?」
「複数あれば、複数の国で換金できるから、貨幣価値や扱える特産品の幅を広げることも出来るし、安くすることも出来るからね」
「為替の分散と言うことですか?」
「よ、良く知ってるねぇ。まぁ、そう言うことだよ。1つの国の貨幣しか持ってないと、安く買える物が、別の国の貨幣に換金しなきゃいけなくなって両替手数料が掛かる。それに関税も掛かる。俺は色んな国に倉庫を置いて、そこの通貨で商売してるから、自国民として現地の値段で物が買えるのだよ」
関税が掛からないのは、商業ギルド的にどうなんだろう。
密輸とか脱税にならないのかな?
でも、いろんな場所に瞬時に飛べるナイルなら、バレない方法はいくらでもあるかもしれない。
行商人と言うより、闇商人じゃないか?
「おススメの国はありますか?」
「欲しい物による、ってのが正直なところだな」
欲しい物か、とりあえず鉱石かな?
後は属性魔石か。
んー。魔法具も欲しい。
人材、は無理か。
あ、植物の種とか苗が欲しいな。
「とりあえず、鉱石全般が欲しいです」
「なら、この刻印元のブアルが良いね。あそこは鉱山の国だからね。他は?」
「属性魔石が欲しいです」
「なら、ピューレル共和国だね。鉱石は少ないけど、結構な属性魔石産出国だから」
「後は、魔法具が欲しいです」
「魔法具?魔導具じゃなくて?」
え、魔導具って何?
「どんな違いがあるんですか?」
「魔法具はダンジョンで発見される物。魔導具はそれを使いやすいように人の手を加えた物、って感じかな」
人の手が加えられた物か、じゃあバックパックも魔法具じゃなくて、魔導具である可能性もあるってことか。
でも魔導具なんて聞いたこと無いし、宝箱の中身の時代から考えると、魔法具?
「まぁ、魔導具を作るのにも魔法具を輸入してる国がザード魔導国だね。あ、属性魔石はピューレル共和国って言ったけど、あそこはザード魔導国の実質植民地みたいなもんだから、ピューレル共和国は止めた方がいいね」
「じゃあ、ザード魔導国の方がお買い得ってことですか?」
「うん、そう。ザード魔導国がピューレル共和国から徴収してるから」
徴収って、ホントに植民地みたいだな。
でも、正確なピューレル共和国の歴史本を読んだことがある訳じゃ無いし、植民地支配ってこの大陸では無いはずだけど、ナイルの言うような実質植民地、と言うのが暗黙であったりするのかもしれない。
「今の所、2国だけど、何本持ってるの?」
「まぁ、あと少しなら」
全部で32本もあるとは言わない。
言わないことは嘘になるのかな?
嘘を吐くと商人に嫌われるって感じだし。
「まぁ、財産を全て明かせとは言わないから。他に欲しい物は?」
「この土地で育ちそうな植物の種や苗、苗木とかが欲しいです」
「なら、フィル王国だね」
隣の国だ。
やっぱり農業大国ってのは伊達じゃないんだな。
「現状はそんなところでしょうか」
とりあえず、インゴットを2本追加で出す。
「うん、これも純金だな」
「あ、生活雑貨とかで、良い国ってどこですか?」
「生活雑貨?物の幅が広すぎる言い方だけど、まぁ、ザード魔導国は豊かだし、それなりの物も高級品も流通してるよ」
「帝国とかじゃないんですか?」
「帝国?あー、ダメダメ。確かに帝国は物が溢れてるけど基本的に自国産業がダンジョン以外無いから、物の大半は輸入。帝国は何でも手に入るけど、何でも高い。これは覚えておいた方がいいよ」
ナイルはかなり事情通だし、説得力がある。
商人には情報が大切ってことか。
「教えて貰ってありがとうございます。とりあえず、この3本を3国でお願いします」
「いやいや、純金のインゴット、確かにお預かりします。あ、そうだ、換金手数料に多分、10%~20%掛かるんだけど、俺の利益として、換金額の10%貰って良い?」
「それは勿論構いません。特別なスキルで商売されてるんですから」
「おぉ即決とは、ロイ君、中々商才があるね」
商人の職業は持っていないけど。
「じゃあ、まぁ、持ち逃げの心配をさせたくないから、これ、置いてくね」
ナイルが手をかざすと黒い大きな空間が現れ、その空間から大きな物が広場に広がった。
まるで、露店市の様な光景、じゃなくて、本当の露店市が出現した。
「これは空間魔術師の最初のスキル、アイテムボックスだよ。MPを注ぎ込むことによって収納能力が上がるんだよ。まぁ、今はこれで満足して拡張はしてないけど」
「じゃあ、背負ってたのには何が入ってるんですか?」
あれも入れればかなり身軽になれるはず。
「これは基本的な旅人が持つ物を入れてるだけ。使わないけど、旅人としての姿をしないと、逆に怪しまれるでしょ?」
確かに、街の出入りの際に、手ぶらでは怪しまれるか。
「まぁ、出したのは好きにしていいよ。まぁ、初回特典兼大口取引のお礼と言うことで、さすがに全部ってのは止めて欲しいけど。今後とも宜しく!」
ちょっと変わってはいるが、行商人のナイルと出会えたのは、良い方向に向かっている気がする。




