38 謎の行商人
無事に馬車小屋に馬車を停めることが出来た。
大型化しても問題無く格納出来た。
以前同様のサイズの馬車を作った方が良いだろうか。
それとも、ブラックホースの相棒になる荷馬を探すか。
でも、ブラックホースは優秀な荷馬だし、相性を考えると、その辺りをうろついているはずもない。
ブラックホース専用の荷馬車を作り、2頭牽きの馬車は、追々馬を見付けるとするしか無いか。
あ、この場合は馬車小屋を増築しなきゃいけない。
また木と岩の採取をしなきゃな。
岩の採取は、周辺の森ではほとんど取りつくしてしまったからな。
やはり、魔境方面の森に行くしか無いか。
岩は重いから、あまり効率よく採取出来ないのが難点なんだけど、これからこの拠点を充実させていくには、岩、石材の確保は優先しておくべきだろう。
城壁攻撃を受けた際のリペア用に確保してあるが、あれには手を付けたくない。
さてと、使えない炭置き小屋に荷物を保管するか。
「まぁ、既に使えないバスターソードにハルバートとかも置いてるし、木も集めて、棚とか箱を作らなきゃ行けないな」
だからまぁ、今は直置きするしか無いか。
とりあえず、加工予定の皮の類と、骨格等の素材を保管しておく。
肉は貴重な食料なのでバックパックから出せない。
野菜も出しておきたいところだが、肉程では無いが、腐敗もするし、じゃがいもに関しては芽が出てしまい、可食部分が減ってしまう。
よって、リペア用に欠けた短剣を数本持っていれば事足りる。
「ロイ様ー。貼り紙してきました!」
「ありがとう」
バンには貼り紙のお願いをした。
バン1人では城門の隠し通路を通るのは困難な為、面倒だが、ロープで昇り降りして貰った。
貼り紙の内容としては、
『滞在中。鐘を鳴らして頂ければ、開門します』
呼び鈴は城門前に設置済みだ。
しばらくは、武装の充実を進めたいので、ある程度は森へ出掛ける予定は無い。
工芸職人なら矢は作れるが、鍛冶師の様な武装は作ることが出来ない。
鍛冶師の職業の取得条件としては、武具を作ることによって、見習い鍛冶師が発現するとされるが、手作業でやらなければならないか、建築で作っても良いのかは、よく分からない為、検証予定だ。
職業を都市設計士から工芸職人にして、城塞設計士を兵器職人、見習い魔法使いを発明家にしておく。
兵器職人は、工芸職人と発明家の発現が条件になっていた為、効率よく鍛冶師の発現も目指したいところだ。
「さて、作りたい物は決まってるんだよねぇ」
既存の矢は先を尖らせ、焼いて固めたものだが、骨を使って、返しの付いた鏃矢の変換作製。
返しの付いた鏃矢用の矢束軸の作製。
矢束軸は通常の矢筒に比べて、携帯量が減ってしまうが、その問題は、バンにマジックバックを矢束軸専用にして持たせれば解決する。
バンの弓技量からすれば野生動物や小型のモンスターには過剰な威力になるが、オークやそれ以上になってくると、攻めきれず、矢を抜く行動をとる可能性も出てくる。
当然、返しの無い鏃矢も作る。
後は、ホーンラビットの角を利用した槍の作製。
ホーンラビット自身が突進をする性質があることから、刺突性に優れるはずだ。
ただまぁ、刺突優先なので、薙ぎ払いには向かないのは仕方ない。
ただ、鉄不足から鉄製の槍よりも、整備性に優れるのが一番だ。
建築を使えば楽に作れるが、地味な作業には変わりない。
矢軸束とホーンラビットの槍はその日の内に完成した。
だが、鏃矢は単調過ぎて中々捗らない。
普通の矢を作った時は意気揚々と大量生産したが、変換作成は既存の矢を5本ずつ並べて、作っては並べ、の繰り返しであり、適宜矢軸束にセットする必要がある。
座り仕事は面倒になったので、バンに矢を5本ずつ等間隔に並べて貰い、変換作成。
矢の列を中腰で流れ作業し、効率は良くなったが、腰が痛い。
最後には矢軸束にセットする作業をバンと一緒に行い、何とか作業は終了出来た。
あれ?別に2日で終わるべき仕事では無かったのでは?
何分、昔から一度始めると凝り性なのか、途中で止めると言うのが苦手だ。
だから夢想家なんて職業が発現したのかな?
夕食中にバンが聞いて来た。
「誰が来るんですかね?」
「多分、ミラードの使者だとは思うんだけど」
「でも、普通、3日後、とか7日後とか書き残すなら、野営して待ちませんか?」
バンも同じ考えを持っていた。
確かに使者なら、書状なり伝言を伝えるのが仕事なので、一旦帰る、と言う選択は無いはずだ。
そこが気がかりである。
ミラード開拓都市からは、馬車で大体2ヵ月は掛かる。
使者が使う早馬でも、休憩を挟んでも3週間は掛かるだろう。
そしてこの距離が正確に分かっていないはず、それなりの編成で、単騎では無い。
そしてその痕跡は無かった。
歩き?
更にそれはあり得ない。
まぁ、考えても仕方が無い。
7日後が何日後になるのか分からない以上、まぁ、6日は滞在しよう。
さて、久々に水浴びをして寝たいところだ。
「夏とは言え、池の水は冷たいですね」
「うーん、そうだね。冬はさすがにこんな感じで入れないなぁ。湯船でも作ろうかな」
石材で作ることになるから、沸かすのには……焼き石投入?
南端からの帰還道中、オークの脂身は結構な量が確保出来た。
石鹸が作れるが、純粋動物性の油脂の石鹸は、あまり身体洗いに向いていないと言うのもあることだし、植物性油脂も混ぜて作りたい。
が、そんな植物はこの拠点周辺には無かった。
欲しい物は言い出したらキリがない。
それにその欲しい物や素材は魔境で手に入る可能性が高いとは言い切れない。
「まぁ、夢は地道に叶えていくしか無いよね」
カラン!カラン!
え、気長に待とうと思ってたら、結構すぐ来た?!
「朝食は一旦中止!城壁に登るよ!」
「はい!」
バンは弓とマジックバックを下げて走る。
持久とか速度とかバンより高いはずなのに、何故かバンの動きの方が速い。
城壁に登り、呼び鈴付近を見ると、1人の男が立っていた。
大きなバックを背負い、腰には剣、旅人には見えない。
「どちら様でしょうかー」
「あ、いた!!えっとナイル・フォードだよー!旅の行商人をしてまーす」
「行商人?確かにそう、見えなくも無いけど。何処を拠点にされてる方ですかー」
「拠点と言う場所は特に決めてないけど、倉庫なら各国に置いてるよー」
国を跨ぐ、行商人?
確か、行商人って、商業ギルドに登録して、最初のランクだ。
でも、倉庫を置くのには、それなりのランクでなければ出来ないはず。
ニコッ!
「城門開けるので少し待っててくださーい」
怪しい気もするが、いざとなれば、城壁からバンの援護を指示し、視線が逸れたら隠密を発動すれば何も問題は無い。
かんぬきを搬入し、片門を搬入する。
「おっと?!立派な城門の開け閉めはマジックバック運用?入って良い?」
「どうぞ」
年齢的には20代後半から30代前半、と言ったとこだろう。
細すぎず、筋骨隆々と言う訳でも無く、戦士程度の力を持つ行商人、と言う感じ。
しかし、何故、1人?
「えーっと、で。城主様はどちらに?」
「城主?居ませんよ?ここには城はありません」
「え?!こんな立派な城壁と防衛陣地が有って城が無い?」
「現状、必要性を感じませんので」
「ここは冒険者の拠点?」
「冒険者は居ません。ここに住んでるのは、僕と、彼だけです」
行商人のナイルは指差す城壁のバンを見る。
「子供じゃん!!」
「僕は15歳ですよ」
「お、親御さんは?」
「ここには居ません」
「まさか2人だけとか言わないよね?」
「2人と、馬1頭と、鳥が7羽います」
「2人だけじゃーん!!」
膝から崩れ落ちるナイル。
何か騒がしい人だな。
「ナイルさんは、どうやってここに来たんですか?歩きには見えませんが」
「あぁ、僕の職業は空間魔術師なんだよ。遠く離れた場所を瞬時に移動できるんだよ。まぁ、制約はあるけどね」
空間魔術師?知らない職業だな、珍しい職業なのかな?
離れた場所を瞬時に移動出来るって凄いな。
「凄いスキルをお持ちなんですね。でも、何で、こんな辺境に?王都に行けば良くないですか?」
「王都?スイール王国の王都?ダメだね。俺のスキル、ランダムポイントジャンプは、大体の位置と人があまりいない場所にしか飛べないから」
「大体って、どれくらいですか?」
「まぁ、100㎞の円形かな?正確に測ったこと無いけど」
人がいない場所で100㎞って、最寄りの都市に行くのにかなり不便な様な……。
「未開拓の国に商機を見出そうとして、スイール王国を目指したんだよ。よくある森の中とか、平原のど真ん中とかは良くあるし、モンスターの食卓にお邪魔したりすることは覚悟できてたんだけどね」
モンスターの食卓にって、人はダメでもモンスターは良いのか、ってかなり危険な橋を渡ってるなぁ。
「んで、今回も色々覚悟して、ジャンプしてみたらなんと目の前に立派な城門があった!ってな訳よ。盗賊の拠点にしては立派過ぎるし、それでも人の気配は無い、んで、とりあえずピンを置いて、出直した訳」
「ピン?」
ナイルは背負った荷物を下ろすと、大きな紙を取り出した。何だか上質な紙だ。
「スキルのこと、秘密に出来る?」
「まぁ、僕のスキルも秘密が多いので、詮索しなければ、詮索も言い触らしもしません。まぁ、バンくんには言うかもしれませんが、口止めしときます」
「バンくんって、あの子供?」
「そうです、一応警戒してますから、剣に手を掛けると、手を射貫かれますよ」
「鋭い殺気は感じるけど、あの距離で?!」
距離は大体20m、射ち下ろしの位置からして、バンなら可能だろう。
「じゃ、じゃあ、悪いけど、俺の腰の剣を君が取ってくれる?狙われたくないから」
「賢明ですね」
ナイルからゆっくりと剣を預からせてもらう。
「ふぅ、刺すような殺気は紛れたかな。さて、この紙広げていい?」
「どうぞ」
ナイルが広げた紙は大陸の地図だった。それもかなり精巧に描かれた地図だ。
国名は勿論、主要都市や山や森、平原、街道の名称までもが記載されている。
そこに小さな赤い丸印がある。
よく見ると、スイール王国の南部にも丸印がある。
全部で8個の丸印。
「この丸が、そこの城門前だよ」
やっぱりそうか。
それにしても他の丸印が全て、この大陸有数の大国ばかりだ。
「何でスイール王国を選んだんですか?ってか、スイール王国がどう呼ばれてるか知ってますよね?」
「この大陸一の最貧国で、大陸一の大魔境隣接国」
「そこまで知ってるなら、この国の王都でも大した販路は無いことも分かるんじゃないですか?」
「ブフッ、販路って。君、歳の割に結構、頭良いんだね」
「それなりに諸外国の本は読みました。それに一応、知力は1000を超えてますから」
「はぁ?!1000越え?!学者以上じゃん!!」
1000越えは世界でも学者以上になるのか。
まぁ、複数の職業で合算だけど、嘘は言っていない。
「…………。まぁ、嘘って訳でも無さそうだね」
「嘘ではありません」
そう、嘘ではない。
「ま、いっか。俺は基本、行商人だけど、金儲けが2割、8割は面白いこと。面白いことが結構重要なのだよ。ってことで、この面白そうな城壁内を見せてはくれないかい?」




