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策略

今回は、お糸の策略です。最後まで読んで頂けるとうれしいです。

 何故私は、こんなところにいるんだろう・・・


 本当なら、上様の側室になっているはずだったのに!


 お糸は、突然持ち場が変更になるからといわれ、江戸城を出て、よくわからないお屋敷に連れてこられた。そこで、今は女中として働いている。

 持ち場が変更になるということは、側室へ上がるのだと思っていたのに・・・


 私の計画は失敗に終わったの?


 私は魚屋の一人娘として産まれた。魚屋とはいっても、貧乏長屋で細々とやっと食べていけるくらいだった。それでも、周りの子どもたちもみんなそうだったから、気にもしていなかった。幼いころから仲の良かった、お(よし)ちゃんと、いつもおやつの芋を半分ずつにしたり、お駄賃稼ぎのために、一緒に近所の人たちの手伝いをしたりしていた。

 ある時を境に、お吉ちゃんを遠くに感じるようになった。私たちは寺子屋に通う時間があれば手伝いをしろと言われていたから、寺子屋には通っていなかったのに、お吉ちゃんが急に寺子屋に通い出した。それに、着ている着物が少し華やかになった。私が遊ぼうと誘いに行っても、家の人に今日は無理だと断られたりもした。急に引っ越しが決まったある日、お吉ちゃんが私の家まで来てくれた。私は嬉しくて、走って近付いたとき、お吉ちゃんが後ずさりした。


 「お吉ちゃん?」


 「お糸ちゃん、私ね、もうお糸ちゃんとは遊べないの・・・おとっちゃんに、もう長屋の人たちとは格が違うから関わってはいけないと言われたの・・・ごめんね」


 下を向きながら、それだけ言うとお吉ちゃんは走っていった。


 私は、何故そんなことを言われるのかわからないまま、家に入った。


 おとっちゃんに、「お吉ちゃんに、もう遊べないと言われた」と泣きながら言った。


 すると、おとっちゃんは苦虫を噛みつぶしたような顔をして話してくれた。


 「ああ、お吉ちゃんの姉さんを知ってるだろう?」


 「うん、とても綺麗な人だったよ」


 「その姉さんが、大奥へ奉公にあがっていたんだけど、今度側室になったんだって。なんでも、上様のお手付きになったらしくてな。あの家も娘のおかげで、この貧乏長屋ともおさらばだな」


 最後は、吐き捨てるように言った。


 私は、その時はまだ幼くて意味がわからなかったけど、だんだんと理解できる年頃になった。そんなことで、この貧乏長屋からおさらばできるのかと・・・格がちがうほど・・・

 私は、なんとか大奥へ奉公にあがりたいと、親戚や魚を買いに来たお客を捕まえては伝手を探した。そして、やっと奉公へあがれる話がきたのだ。私は、絶対に側室になってやる! そして、私から離れていったお吉ちゃんを見返してやる! そう固く決意して、お城へ入った。


 そして3日目・・・お清の方様とかいうえらい人が、御膳所に入ってきてお里さんにお夕の方様への伝言を頼んでいた。私は、これだ!と思った。

 それでも、お里さんはいつも午前中から夕方までは御膳所におらず、なかなか近付く機会がなかった。2ケ月ぐらいすると、昼過ぎくらいには御膳所に戻ってくることが増えた。そこで、お常さんに頼んでみることにした。


 「お里さんは、いつも仕事が早くお常さんの言われる前に仕事をされていて・・・私もお里さんに仕事を習ってみたい」と・・・

 お里さんは、丁寧に仕事を教えてくれた。人当たりもよく、とても優しい人だった。ある意味、私は懐にすぐに入ることができた。そこで、お夕の方様の部屋を見たいとお願いしてみたのだ。

 まず、上様に近付くにはお夕の方様に気に入られないといけない。お夕の方様に気に入られたおかげで、お里さんは一度だけ、上様の寝間にあがったと聞いている。結果は・・・だったみたいだけど。


 初めて、お夕の方様を見た時は、その綺麗さに驚いた。それに、お里さんを信頼されているのが空気で伝わってきた。でも、私はそんなゆっくり信頼関係を作っている余裕なんてない。なんとしても、一度だけでもお手付きになれれば・・・ただただ、そのことだけを考えていた。だから、計画を強行した。


 その日、お里さんには今日は一緒に仕事が出来ないと言っておいた。お里さんは、午前中は別の仕事をする予定だと聞いていたから、今日しかない・・・


 意を決して、お夕の方様の部屋へ行った・・・襖が開いていたから、失礼いたしますとそのまま声をかけて、顔を上げた。そこにおられたのは、男性だった。前回、お里さんとここへ来た時は、菊之助様というお付きの方がおられたから・・・このお方は上様に違いない!! 上様は、お夕の方様のところへ通われていると、この間お清様が言っていた。


  私はなんてついているのだろう・・・と胸が躍った。

 

 とりあえず、部屋に入る口実を並べて、無理やり部屋に入った。上様は、女子(おなご)であれば、お手を付けられると聞いているから(そういえば、なぜお里さんは? よっぽど、魅力がなかったのかしら)、少しせまれば・・・そう考えて、上様を棚の近くまで呼び出し、思い切り抱き付いた。一瞬上様が固まられた。この調子・・・私は心の中でニヤリとした。が・・・


 「何をする!無礼者!」と私を突き放そうとされた。私は、「上様!」ともう一度抱き付こうとしたとき、足が滑ってしまった。上様に抱き付いた手を離さないまま、後ろに倒れてしまった。そのとき、「失礼いたします」とお里さんが入ってきた。


 私は、チェッと心の中で思った。でも、すぐに機転をきかし、わざと着物をはだけさして、それを直しながら部屋を出て行った。とにかく、私がお手付きになりそうだったことさえ、伝われば・・・そう思っていた。

 しばらくして、戻ってきたお里さんにも、何かあったような言い方をしたし・・・お里さんは、口外はしないと言ったけど、真面目な人だから・・・明日にはお常さんに報告してくれるはず・・・そう思うと、その夜は楽しみで寝られなかった。


 次の日、お里さんとお常さんが、お常さんの部屋へ入ってなかなか出てこなかったのを見て、私の事を報告しているのだと確信した。

 しばらくして出てきたお里さんは、顔色も悪く、泣いていたみたいだった。お夕の方様に申し訳ないとでも落ち込んでいるのだと思っていた。


 それからは、お里さんと一緒に仕事をすることはなくお常さんの下で働いた。お里さんもお夕の方様の手前、私とは一緒に居づらいのだと・・・

 そして、やっと別のお役目へとの報告がきた。誰にも、ここを離れるということは言ってはいけないと、お偉そうな方に言われた。やっと、側室にあがれる! 私が今まで、やってきたことが、報われる・・・これで、あのお吉ちゃんをみかえしてやれる! そう、意気揚々と御膳所をでたはずなのに・・・・


 私はいったいどこで間違ったのかしら・・・



ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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