4:相談
「人間と獣人が勇者を召喚するとあっては、黙って見ている訳にはいかない」
それは、そうだろう。喧嘩の最中に相手にだけナイフを渡すようなもんだ。勇者の力が、どれほどかわからないので、ナイフなのかミサイルなのかはわからないが。
「だから俺たち魔族は、それに対抗するための手段を探していた。だが、どうにもその方法、つまり勇者を召喚する方法がみつからなくてな。仕方なく敵さんの召喚に割り込んだ」
魔法の使い手である魔族が召喚術の知識がないのはおかしなことだが、人間の召喚に割り込んだのは流石魔族といったところか。
それにしてもおかしい。
「なんでこの国にだけ、その方法が残ってなかったんです?」
「そもそも全ての種族は勇者を召喚できた。だがそうすると、地力で勝る魔人が圧倒的に有利になってしまってな、それを見かねた神様がついに介入してきたのさ。」
神の介入って、具体的に何があったんだろうか。むしろ神の介入があったという情報が残っているほうが驚きだが。普通神の介入なら記憶まで消されそうなものだ。この人何者だろうか。聞きたいが、聞くと怖そうだ。また今度にしよう。とにかくその結果俺一人だけがこの国に呼ばれたということだ。ということは、他の7人もそれぞれ別の国に召喚されてるのだろう。そのうちあいつらと殺し合いになったりしてな。割と本当になりそうなのが質が悪い。その時、俺は剣を振れるか?
まあいい。その時に考えよう。
「それで、結局俺に何をさせたいんですか?」
「とりあえず、というか他の勇者に勝てるぐらい強くなってほしい。」
それは、俺が召喚された結果見込まれるものの最低条件。せっかく呼んだ勇者が、弱くてはどうしようもない。俺が聞きたいのはそこではなく、もっと先の、強くなった後にすべきことの話。
「強くなってその後は?」
「この国を守ってくれ」
「何から?」
「他の種族からに決まっているではないか!」
何が決まっているのだろうか。ほかの種族が悪とは限らない。同時に魔族が悪とは限らない。俺は何も知らない。この世界についても。自分についても、あいつらについても。
「じゃあまだそうするかは、決められない。俺に考えられる時間をくれ。俺が自らこの世界を知れるような時間を」
「なぜだ!?」
俺の言葉に叫ぶイスルリア。
「俺はこの国についてもこの世界についても何も知らないそれなのに誰を助けるとかは、決められない。決めたくない自分が何を守るのか、何を目指すのか。それも知らずに頑張れるほど真面目じゃないんですよ」
「しかし…」
「いいんじゃねえの」
イスルリアはなおも逡巡しているようだが、エルダラムさんは、俺の考えを尊重してくれたようだ。
「魔王さま、まだそこまで状況は悪くなってねえし、こいつの気がすむまでやらせてみればいい。ただし」
そこで言葉を切って俺の方を向く。
「1ヶ月の間は戦闘訓練をしてもらう。のたれ死なれたりしたら困るからな]
「わかりました。その代わり、一番強い人が教えて下さい」
どうせやるなら、上を目指したいものだ。
「…わかった、俺が教えてやる」
俺の言葉にそう答えるエルだラムさん。予想通りだ。
「やっぱりあなたが一番つよかったんですね」
「ああ、だから敵に回ったら、たたき切るぜ?」
同時に放たれる信じれないほどの殺気。気配の読めない俺でもわかる。いくら強くなっても、俺はこの人に勝てない。そう感じさせるほどの殺気。これがこの人の本性。この人の根幹をなすものだろう。
そういうとイスルリアに一言断ってから扉の方へ俺を連れて行く。
「さあ行くぞ」
こうして俺の、異世界での生活が始まった。




