3:出会い
「我が国へよく来てくださいました。本当にありがとうございます、勇者様」
魔王は俺が想像していたどんな人物とも違っていた。歴戦の勇士みたいなのを想像していたのだが、見た目はお姫様そのものだった。金の髪に白い肌。人間と違うのは、ここまで案内してくれた老人や俺と同じ真紅の目だけだ。
とりあえず、今の言葉を聞いて思ったことを言わせてもらおう。
「俺は自分の意志で来たわけではないので、そこのところは理解していてください」
召喚の時に、召喚される側の意志はほとんど関係ない。有無を言わさずに対象を巻き込む。それが召喚というものだ。なんかの小説には、召喚人をバックステップで避けた登場人物もいたが。
「そ、それは…」
俺の言葉に面白いように動揺する魔王さま。面白いは余計だな。だが、この魔王は威圧感がないので、前に立って目を合わせても、そんなに怖くない。だからこそ、ついつい軽口が出てしまう。
「姫さま」
そのとき魔王さまの隣に控えていた人が魔王さまに助け舟を出す。見た目は執事とかのそれではなく、戦士、いや傭兵だろうか。粗野という意味ではなく、戦いが身に沁みついている、そんな感じだ。
そんな印象とは裏腹に、言葉丁寧だが。
「私が代わりに説明しましょうか?」
「すまな…すみませんエルダラム、頼…お願いします」
今噛んだよな。もしかしてこの魔王は、普段と違った自分を演技しているのだろうか。というか100%そうだろう。本来、魔王ともあろうものが、敬語を使う相手がいるわけがない。
「ということですので、ここからは俺が説明させてもらう。敬語とかは苦手なんだ。かまわないだろう?」
俺を試すようにこちらを見ている。もちろん、俺としては大歓迎である。魔王ならともかく、見た目で年上とわかる相手から敬語を使われると、違和感が大きい。
「おい、エルダラム!?」
しかし俺はいいと思っても、それを気にする者がいた。魔王さまその人だ。予想どおり魔王は無理をしていたようだ。
「まおうさま、どうせいつかはバレるんですし初めからバラしちまえばいいじゃないですか」
そして、魔王の努力を無駄だと断じる無慈悲な言葉。配下なのに家族のような親しさだ。
「それ、は、そうだが…わかった私が説明する。勇者殿、私は魔王イスルリア・レイ・デモニックだ。そしてこの国は魔国キオラルという」
そこで一息ついて頭の中を整理するように一度目を閉じる魔王、いやイスルリア。俺は人をその地位の名前で呼ぶのは苦手なのだ。大統領補佐官とか、誰が誰だかわからなくなる。魔王など一人しかいないだろうが、自分の言葉に矛盾が出てほしくない。魔王も許してくれるだろう。
「この世界には獣人国、人間国、そして我ら魔国の3つの国がある。そして我ら魔人は古くから他の国との仲があまり良くなかったのだ」
典型的な戦争パターン。俺の最も好きで嫌いな戦いだ。戦争は、心を震わせない。心など関係なく、多くの命を飲み込む。その代り戦争には、もっとも偉大な目的がある。仲間を、家族を、国の未来を守り、繋ぎ、輝かせるという目的が。だから俺は、戦争を嫌いになれない。
そして、異世界の戦争といえば必ず絡んでくるものが一つ。そう
「そこに今回の出来事、というわけか」
「ああ、人間と獣人による勇者召喚だ」
勇者という、歪な存在だ。




