2:召喚
ここは、俺が考えていたとおり、異世界なのだろう。いや、もうこの世界にいる俺からすれば、あちらが異世界か。もちろんそういう物語が好きな俺としては、こんな世界に行きたくなかったわけではない。だがしかし、突然の状況転換にはついていけないのが人間だ。
「すいませ〜ん、状況を説明してもらえるとありがたいんですが」
一応言っておくと、そんな人間の中では、緊張には強いほうだと思う。緊張というよりは不測の事態というべきか。
「おおっ、勇者様が話された」
「我らと同じ言語とは素晴らしい」
それぞれ感動の言葉を口にしている。一見すると変な人たちに見えるのかもしれないがその姿をよく見ればその理由がわかるだろ。かなり疲れた様子をしている。勇者を召喚するというのはそれだけ力を使うことなんだろう。
そんな中一番偉そうな老人が一人まえに出てくる。
「それにつきましては魔王さまから説明があります」
「………」
「どうかなさいましたか?」
「いや、ちょっと信じられない言葉が聞こえたもので…
それじゃここは魔王城ですか?」
いやほんとに信じられない。いろんな本やアニメを見てきたが、魔族に味方する勇者というのはあっても魔族が勇者を召喚するというのは聞いたことがない。ちょっと面白くなりそうだ。ここで面白くなりそうだ、と思うのは不謹慎なのかもしれないが、胸が躍るのは仕方ない。
「これから、魔王さまのところへ案内します。私について来てください」
そう言って初老の男性一人だけが歩き出す。他の人が気になったが、とりあえず大人しくついて行くことにして広場から出る。
途中で窓からそとを見ると、石造りの建物がたくさん並んでいる。さすがは魔王城と言ったところか。現代の巨大な建造物を見てきた俺でも気圧されてしまいそうな大きさ、そして緻密さだ。そして魔王城といえば必ずついてくる邪気とかそういったものは一切感じない。もちろん、俺にはそういったものを感じる力がないのかもしれないが、召喚されたのだ。それぐらいの力は与えてほしい。そんな俺からすれば、あまり邪悪な感じはせず、ほんとに魔王城か疑いたくなる。そんなことを考えながら歩いていると、前を歩いていた男性がこちらを歩きながら話しかけてくる。その際横に並んでくれたことから、ずいぶんと細かいところまで考えてくれていることがわかる。
「ここが珍しいですかな?勇者様」
「まあ、珍しいですね。俺の居た世界にはこんな建物そんなに無かったですし」
「もう一つ聞かせてください」
そう言うと彼は足を止めてこちらを向く。それにつられて俺も足を止める。
「あなたは…魔族は嫌いですか?」
唐突にそういった彼は俺の本当の考えを知りたい、というように目をそらすことを許さない。
「嫌いっていうか、俺にはあなた達が魔人だということがまだ信じられませんよ。あまり俺の知っている人間と変わらない」
そう、人間と変わらない。むしろ、人間よりも優しいのではないか。
「そうですか…ですが確かに違うところはありますよ」
そう言って俺に手鏡を差し出す。顔を見ろということだろう。
そして鏡を覗き込んだ俺は絶句した。
自分の目の黒いはずのところが、血のような赤に染まっていることに。
「こ、れは…」
「それが魔族と人間の違いです。あなたは魔族に伝わる召喚術により呼ばれた。だから、その体も召喚の際に、我等と同じ、魔族になっています」
それを聞いて少し焦る。しかしよく考えれば、特に変わったことはない。今までどうりの俺が、ここにいる。何も困ることはない。
「さっきの質問、今ならはっきり答えられますね。俺は魔族は嫌いじゃないです」
そもそも、俺のような人間が、自分を嫌いになれるわけがない。
しかし、老人の感想は違ったようだ。
「変わったお方だ」
苦笑しながらそう言われた。
「あと、一つお願いです」
そう切り出した俺に不思議そうな顔を向ける老人。
「俺は天尾 駆って名前です。勇者様じゃなくてそう呼んでください、恥ずかしいので」
意表を突かれたように目を見開く老人。人の驚く顔を見るのってちょっと楽しいな。それに、年上から様付けは、ちょっと気恥しいのも事実だ。
「わかりましたよ、駆殿」
う〜ん、様じゃなければいいってわけではないんだが。
「では、もうすぐです。行きましょう」
まだ会ってすぐだが、俺はこの老人を尊敬するようになっている。年齢のなせる業だろうか。
そこからしばらく歩くと大きな扉が見えてくる。ずいぶんと頑丈そうな石造りの扉だ。その前に立っていた衛兵は俺たちを見ると道を開けてくれた。
「さあ、この中です。心の準備はいいですか?」
「召喚されたときには出来てなかったんです。なくて大丈夫です」
「では参りましょう」
そう言って扉を開ける老人。さあ、どんな人が魔王だろうか。
編集しました(7月25日)




