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大姫の憂い6

門番の知らせで、侍女が血相を変えて走って来た。


「姫さま!大姫さま、いかがなされたのです!お怪我はございませぬか?」


大姫はにっこりと、義高の背中から笑いかけた。


「怪我はしておりませぬ。それよりも、橋から落ちた大津を助けてくれた義高さまにお礼を言っておくれ。」


「……えっ!橋から!?」


しかし、義高に向けられたのは、恐ろしいほどの激高だった。


「義高殿っ!あなた様がついて居ながら、一体どういう事です。このように御髪まで濡らしてしまって……姫さまに何かあったら、あなたはどう責任を取るおつもりですか」


「違うの。違うの。義高さまは来てはいけないとおっしゃったの。大津はげんまんしたのに、付いて行ったの。義高さまは悪くないの……婆や。大津がいけないの……うっ……うっ……義高さまを怒っちゃいや」


義高の背中にかきついて泣く大姫に、結局侍女はどうすることもできなかった。困り果てているところに、大津の母親が現れ助け舟を出した。


「菊や。義高殿に、早く湯を沸かして差し上げて。大姫も川に落ちたのでしたら、早く体を温めないと、またすぐに熱が出ます。部屋を暖めて、お薬湯の準備をしておいてください。髪も早く拭かなければ。お医師も呼んだ方が良いでしょう」


「はい。はい、ただいま。お医師には、直ぐに迎えの駕籠をやりまする」


頭を下げて侍女は下がり、義高はほっと一息ついた。家まで送り届けてから、出かけるべきだったと自分でも思う。

義高は手をつき直も深く頭を下げた。


「申し訳ございませぬ。義高が短慮でした。もう少し、気配りをすべきでしたのに、うかつでした」


「いいえ……義高殿のせいではありませぬ。いつも家の中ばかりで過ごさせていますから、あの子も他の子と同じように外遊びがしてみたかったのでしょう。旦那様がお城からお戻りになりましたら、大切なお話があります。夕餉を済ませてからになると思いますから、あなたはもうお部屋にお戻りなさい」


「はっ。その前に大姫さまの御様子を伺ってまいります」


帰宅してまだ時は経っていなかったが、既に大姫は発熱し床の中にいた。


「義高さま。ごめんなさい」


布団の中で、しょんぼりとしおれた花のようになった大姫に、義高は努めて明るい顔を向けた。


「はは……菊殿に怒られてしまいました。でも、大姫さまに食べていただくように鮎は持って帰りましたから、お熱が下がりましたら後ほど戴きましょう」


「……怒ってない?」


怒ってなど居りませんと、義高は繰り返した。

額に触れると、ほろほろと熱ましい。

驚くほどひ弱な大姫だった。


秘密を知って驚いたが、心から大姫が無事で良かったと思う事に変わりはなかった。

奥方の大切な話というのは、おそらく大姫の秘密に違いないと、すでに義高は悟っていた。

本人に何も告げず、男子を女子と偽って育てた意味を、その夜遅く義高は国家老に告げられることになる。


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