駆け出す道と赤い糸手毬11
所望された茶を運んできた義高は、自分の部屋から高坂が忽然と姿を消したのを知った。
急ぎ大姫の部屋へと向かう。
「御無礼っ、大姫さまっ!高坂殿は……っ!」
何時も大事に抱えている糸手毬もなく、血相を変えた義高が、門へと走り門番を問い詰めた。
「大姫さまと高坂殿を見なかったか?」
「義高さまのご友人と大姫さまなら、あちらの方へ向かって行かれました。大姫さまは、ご友人の御背に負ぶさっていらっしゃいました」
「何か言って居ったか?」
「いえ、何も聞いてはおりません。どちらへ向かわれるか、ご存じなかったのですか?」
「すまぬが、急ぎ城へ使いをやって、大姫さまがかどわかされたとご家老に申しあげてくれ。わたしは、大姫さまを追う!」
人見知りの大姫が、高坂一颯を見て一瞬怖気づいたのを、義高は目の端で認めていた。
初めて会った高坂に付いてゆくような快活な大津ではなかった。
「わたしのせいだ」
先日も自分の失態で、大津を川で溺れさせたばかりだった。
不覚にも二人から目を離した自分の迂闊さに腹が立ち、義高はぎりりと奥歯を噛んだ。臣従の質という我が身の立場に甘んじ、ただ時を稼いでいた己のぬるさが愛しい人を危機に晒してしまった。
内心、油断ならないやつだと思っていながら、勝手知ったる屋敷内だと思い油断して目を離してしまった。かどわかされた大津の身に、もしも何かあったら紛れもなく自分の責任だと思う。
義高は、いっそう早く道を駆けた。
「大姫さま!ご無事で……どうか、どうか」
人質の身分に卑屈になっていないで、一刻も早く国許へ文を送り、家老様にすべてを打ち明けて逃げるべきだった。
いっそ、藩主に目通りを願い出て、包み隠さず本心を打ち明けるべきだったろうか。
父と年の変わらぬ藩主なら、義高の気持ちを理解してくれたかもしれない。
まだそれほど遠くには行くまいと、必死に義高は後を追った。
「あ!あれは……」
人馬しか通らぬ細道に、ころりと見覚えのある紅い糸手毬が転がっているのを見つけた。
「これは……、大姫さまのものだ」
小さな糸手毬は大津のお気に入りで、いつも懐に忍ばせているものだった。右手には急こう配の石段が有り、祭り以外ほとんど詣でるものもない神社があった。
おそらく大津が意図して落としたものに違いない。
石段を駆け上がると、古びて朽ちかけた祠の扉が少し開き風に揺れている。義高は確かに自分を呼ぶ、大津の声を聞いた。
「大姫さまっ!」
義高はその場の光景に、わが目を疑った。




