番外編:優等生たちのハロウィーン
バーチャル・ワールド、カフェ・アンドロメダで、ハロウィン・パーティをすることになっていた。カイは、ハインやソレアとの待ち合わせのため、急いでカフェへと向かっている。
「シーラ、もう時間ギリギリになっちゃったね。」カイは、バーチャルシティ・トライアングルの噴水広場に降り立つと、様々な仮装をした人々のアバターが行き来していた。
バーチャルシティ・トライアングルも、今日はハロウィン1色で、至る所にハロウィンの装飾がされ、白いお化けのホログラムが空中を漂っている。
―そうですね、みなさん、とっくに集合しているようですよ。
―キュキュ!
シーラの言葉に、アルファが答えるように元気に鳴いて、カイたちはマップからカフェ・アンドロメダへとワープした。
「えっと、みんなはどこだろう。」カフェ・アンドロメダは、少し前までよりもまた少し内装がパワーアップしていて、上空には惑星やサテライトの浮かぶ宇宙空間、その下には大小様々なお化けカボチャのランタンが、光をまとってふわふわと浮かんでいる。
―あ、カイ、あちらではないですか?
「カイー!こっちよ!」少し遠くの方から、ソレアの呼ぶ声が聞こえてきた。
「ほんとだ。」カイは、腕の中にアルファを抱いて、ソレアたちの方へと向かっていく。
小さなお化けやカボチャのランタンとすれ違いながら歩いていくと、ソファのある大きめのローテーブルの周りにはすでに何人かの人が待っていた。
「カイ、遅い!みんなもう待ちくたびれちゃったわよ!」黒猫のカチューシャをつけたソレアが、腰に手を当てながらそう言った。
「まぁまぁ、やっときてくれたんだからいいじゃねぇか。」ハインは狼の耳をつけている。
「ねぇ〜、仮装はいいけど、なんで俺は悪魔なの?……もっと可愛いのがよかったぁ。」すでに椅子に座っているジェイが、悪魔の角を触りながら不服そうな顔をしている。
「はぁ、なぜこのような騒がしい場所に……。」
「そんなこと言って、結局来てるのそっちじゃん。」ゾンビのようなフェイスペイントを施したバートに、ジェイがそう言った。
「わ、みんな仮装してる……。」カイが驚いていると、ソレアが言った。
「私がやってってお願いしたの!……カイもやるのよ?」ソレアの目が、きらりと光ったようにカイは感じた。
「なぁ、ドリンクはどうすんだ?」ハインはソレアの方には付き合わず、ジェイとバートにドリンクの注文を促している。
―ふふっ、賑やかでいいですね。……私も何か、すべきでしょうか。
シーラは楽しそうに目を細めると、くるりと回って天使のような姿にチェンジした。
「ねぇ、シーラさんは天使じゃなくて、魔女がいいんじゃない?」それを見ていたジェイが揶揄う。
―あら?そうでしたか?
「真に受けなくていいよ、シーラ。そっちの方が、可愛いよ!」
―キュキュ!
ソレアの言葉に被せるように、アルファが鳴いた。
「こっちはドリンク決まったぜ?そっちはどうすんだ?」ハインがソレアとカイに尋ねる。
「あ、ちょっと待って!……カイはこれね?」
―ピロン!
ソレアからリンク・スフィアに送られてきたのは、吸血鬼セットというアバター・アクセサリだった。
「ね、それつけて?」ソレアの上目遣いのお願いに、カイは軽く首を傾げたが、大人しく吸血鬼セットを身につけることにした。
「どう?変わった?」カイから見えるのは大きくて黒いマントだけで、口元に何か牙のようなものがついている。
「お、いいじゃねぇか。お前も早くソファに座れよ。」
「すっごくいい!ありがとう!」カイの姿を見て、ハインとソレアが口々に言う。
カイは「ありがとう。」と一言返して、4人とともにソファに座る。ローテーブルの上には、小さな猫とお化けのテーブルライトが乗っている。それぞれのドリンクを注文し終えると、カイは尋ねた。
「そういえば、ジェイとバートはどうしてここに?」
「あれ、聞いてなかったの?……俺たちもソレアさんに誘われたんだ。ね?バートくん。」
「そうですね。……色々とあった後ですし、断ろうとは思ったのですが。」
「そんなことする前に俺が承認って言っちゃった。」
「堂々と人の端末をハッキングしないでください。」
「え〜!バートくん人のこと言えんの?」状況は理解できたのだが、ジェイとバートが口々に言い合っているのでカイは笑った。
「まぁ、あっちは放っておいて……、あ、ドリンクがきたわよ!」ソレアの言葉に見てみると、そこにはカボチャ型のドローンがふよふよと浮いてやってきた。
5人はそれぞれ自分の頼んだドリンクを取り、お互いに顔を見合わせる。
「おい、誰か先導しろよ。」ハインが言うと、ジェイが「君がやったら?」とニヤリと笑った。
「こういう時は、カイくんがやるのが筋ではないですか?」
「私もそう思う!」バートとソレアはカイを推している。
「お、それいいな!やってくれよ、カイ!」
「え?」ハインにも推されて、カイは戸惑ったようにシーラを見る。
―あら、やったらいいではないですか。お友達からの推薦ですよ?
シーラは微笑ましそうな顔で、カイを見つめた。
―ふふ、カイは緊張しているんですね。……では、私がお膳立てしてあげましょうか。
シーラはそう言うと、その場からカフェ・アンドロメダの中空へ向かって泳いで行った。
「え?あれシーラじゃない?」
「ほんとだ、すげぇ!」
「え、なんで?」カイたち以外のユーザが、シーラを見上げて口々に騒ぐ。
―さて、みなさん、楽しんでいらっしゃいますか?
シーラが呼びかけると、ユーザたちが口笛を吹いたり、歓声をあげたりして答え、カフェは一気に騒がしくなった。
―ふふ、いいですね。……それでは、私からみなさんにプレゼントです。ハッピーハロウィン!!
シーラは言葉に合わせて一回転し、空中に両手を広げた。シーラの手から光の粒が放出し、それはユーザたちの上へお菓子となって降り注ぐ。
「ハッピーハロウィン!!」そのお菓子の雨に歓喜しながら、ユーザたちは手を伸ばし、ドリンクを掲げる。
―さぁ、カイ、あなたもどうぞ?
いつの間にか戻ってきたシーラが、カイの隣でそう言った。カイがハッとして周りを見ると、ハインやソレアだけでなく、ジェイとバートも期待するようにこちらを見ている。
「あ、えっと……、ハッピーハロウィン!」
「ハッピーハロウィン!」
―キュキュッ!
カイの言葉に呼応するように、シーラを含めた6人はグラスをカチンと鳴らした。
ここまで『アンドロイド・シープは夢をみる』をお読みいただき、ありがとうございました。
本編、エピローグ、そして今回のハロウィン番外編をもって、本作はひとまず完結となります。
カイやハイン、ソレア、シーラたちの物語を最後まで見届けてくださったこと、本当に嬉しく思います。
連載中に読んでくださった方、リアクションやコメント、評価をくださった方にも、改めてお礼申し上げます。(まだの方はぜひ)
少し不思議で、少し未来の世界で、それでも誰かと繋がりながら生きていく彼らの姿を楽しんでいただけていたなら幸いです。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




