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異世界に転生しちゃったので週刊少年ジャンプを作ってみた  作者: 羽越世雌
第2章:海を越える『ジャンプ』と世代交代
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第14話:海を越えた密航計画、鉄の掟を破るインク

次世代の編集者としてアルスとルナが新たな才能を次々と開花させる中、編集長室で忙しくペンを走らせていたツヨシの元へ、一人の奇妙な来訪者が現れた。

ボロボロのコートを纏い、全身から潮の香りを漂わせた男は、周囲を警戒するように窓の外を確認すると、懐から一通の濡れた手紙を取り出した。


「……海を越えた、西の大陸『グランド・グレイス帝国』からの密航者です。これを、どうしても編集長に渡してほしいと頼まれましてね」


男が差し出した手紙を広げると、そこには震える文字でこう書かれていた。

『我が国では、皇帝の厳格な統制により、すべての物語や娯楽が「思想を乱す毒」として禁じられています。ですが、私たち民衆の心は、絶望的なまでに乾ききっています。どうか、私たちの街にも、あのジャンプの光を届けてください』


西の大陸、グランド・グレイス帝国。

そこは、絶対的な皇帝が統治し、あらゆる「笑い」や「フィクション」を徹底的な検閲で排除した、完全なる管理社会だった。娯楽は一冊の教訓書を除いてすべて違法であり、隠れて物語を読んだ者は「思想犯」として投獄されるという。


手紙を読み終えたツヨシは、ふっと小さく笑った。

「物語を禁止する国、か……。一番燃える展開じゃないか」


アルスとルナが駆けつけてきた。

「編集長、まさかこの手紙に本気じゃないでしょうね? 西の帝国は軍事国家よ。秘密警察が網の目のように目を光らせているわ。そんなところにジャンプを持ち込むなんて、一歩間違えば全員処刑よ!」ルナが青い顔をして反対する。

「だが、面白そうだぜ」アルスは不敵に笑い、剣の柄に手をかけた。「民が飢えているなら、俺たちが一番うまい飯を届けてやるのが『ジャンプ』の流儀だろ?」


三人は会議を重ね、一大スペクタクル・カパー計画を立案した。名付けて――「大陸横断・週刊化ミッション」。


最大の壁は、厳重な検閲網をどうやってすり抜けるかだった。物理的な雑誌のままでは、国境の魔導検問所で一網打尽にされてしまう。

そこでミナの魔力を借り、ツヨシたちはある「仕掛け」を開発した。表向きはただの無害な「商用の帳簿」や「農業のレシピ集」に見せかけ、その紙の繊維の奥深くに、『感情共鳴魔石』の波長を利用した隠しインクでジャンプのデータを焼き付ける。帝国に入国した後、特定の「合言葉」を唱えることで、初めて文字と絵が浮かび上がる仕組みだ。


潜入の実行役として選ばれたのは、かつて密航を成功させた腕利きの商人と、アルス、そしてルナの三人だった。


数日後、深い霧に包まれた帝国の港町に、彼らは商人に化けて潜入した。

街の空気は異様だった。往来を行き交う人々は一様にうつむき、笑顔一つ見せない。街のあちこちに監視の魔導ドローンが飛び交い、ちょっとでも楽しげな話し声を上げようものなら、すぐに秘密警察が飛んでくる。


「なんて息の詰まる街だ……」アルスが歯を噛み締める。

「これが、物語を奪われた世界の姿なのね」ルナは胸元に隠した原稿の束を強く握りしめた。


彼らは治安の目を盗み、街の最底辺にある労働者たちの宿舎にたどり着いた。そこには、日々の過酷な労働に疲弊し、生きる希望を失った若者たちが肩を寄せ合っていた。


「……すまない、こんな夜中に」

ルナは、宿舎の隅で震えていた一人の少年――手紙を送った張本人であるレイの前にそっと歩み寄り、その「帳簿」を差し出した。


「これは……?」

「合言葉を唱えてみて。君がずっと見たかった、世界がひっくり返るような『秘密の遊び』が詰まっているから」


レイが震える手でその冊子を開き、ツヨシから教わった合言葉を呟いた瞬間――。

地味な帳簿の文字が鮮やかな赤と黒のインクに変わり、ページの間から、アルスの描く熱いバトルと、ルナの描くユーモア溢れる世界が、ふわりと淡い魔法の光を放ちながら浮かび上がった。


宿舎の薄暗い部屋に、かつてない鮮やかな光が満ちる。

レイはページをめくる手を止められなかった。そこに描かれていたのは、理不尽な権力に立ち向かい、仲間と笑い合い、泥まみれになりながらも明日へ走る主人公たちの姿だった。


「あ……あぁ……」

レイの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。声を押し殺し、ただひたすらにページをめくる。

部屋にいた他の労働者たちも次々と集まり、その小さな光の周りに群がった。誰もが一言も発せず、しかしその胸の中では、凍りついていた感情の炎が音を立てて燃え上がり始めていた。


「どうだ?」宿舎の外で見張りをしていたアルスが、インカム越しに低く呟く。

「大成功よ、アルス」ルナの声がわずかに震えていた。「……光が、灯ったわ」


しかし、その感動の波紋は、あまりにも急速に広がりすぎた。

翌日、帝国の秘密警察がその宿舎の異変を察知し、凄まじい勢いで包囲網を敷いたのだ。

「そこまでだ! 思想統制法違反だ、全員拘束する!」


冷徹な指揮官が扉を蹴破って突入してきた。絶体絶命のピンチ。

だが、アルスとルナは動じなかった。彼らの背後には、ジャンプのページを開き、初めて「明日への希望」を知った帝国の民衆たちの、熱い眼差しがあった。


「逃げる必要はないさ」

アルスはニヤリと笑い、懐から一冊の「最新号」を取り出した。


鉄の掟に縛られた帝国の首都で、今、禁じられた笑いと感動の火種が、静かに、しかし確実に爆発しようとしていた。大陸を揺るがす「週刊化計画」の本当の戦いは、まさにここから始まろうとしていた。

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