太乙剣訣(タイイツ・ソード・ロジック)
「再構築……」
アナスタシアはその奇妙な響きを持つ言葉を、口の中で細々と噛み締めた。その極光のごとく眩い瞳には、信じがたいほどの震撼が満ちていた。
朝の光は錆びついたナイフのように、鉄錆城の上空に垂れ込める厚重な煤煙の雲を辛うじて切り裂いていた。
チャン・ヨウシーは古城の一階にある、片脚の折れた肘掛け椅子に腰掛け、手の中に握った血紅色の招待状を裏表に返しながら端切に眺めていた。箔押しの文字が微かな日の光の下で冷冽な輝きを放っている。それはまるで、精緻にパッケージングされた『新規公開株の目論見書』のようだった。
「闘神学院、第三十七回聖騎士選抜大会……」
闘神学院――大異変の後、教廷の出資によって設立された公式の武道学府。名目上は衆生を守護する聖騎士を育成する場所とされているが、その実態は、教廷が各神殿のために『基金经理』を選抜するための昇進ルート(キャリアパス)に過ぎない。三年に一度の選抜大会は、貴族の血統を持つ者にしか、この箔押しの招待状は届かない。参加者は舞台の上での願力を用いた実戦考核を経て、教廷の授与する『聖徒免許』を奪い合う。それは、正式な信仰口座のアップグレード権限、初級聖遺物の分配資格、そして教廷の核心圏へと進むための入場券を意味していた。
豊穣の城の上層部(富裕層)にとって、これは人材の『IPO(新規公開株)』であり、没落貴族にとっては、人生を逆転させる唯一のチャンスだった。
その時、大門が何者かの蹴りによって乱暴に開け放たれた。
ブラント・ブラックティースが六人の打手を引き連れて押し入り、革ブーツが最初から緩んでいた床タイルを踏み砕いた。
彼の手には、見覚えのあるあの長剣が握られており、その顔には隠そうともしない強欲が張り付いている。
「イファン、闘神学院の招待状を受け取ったそうだな?」ブラントは濁った黄色い歯を剥き出してニヤついた。「お前のような飯も満足に食えない破産者が持っていても宝の持ち腐れだ。それを差し出せ。そうすれば、五十金貨分の借金を減免してやんねえこともないぞ」
チャン・ヨウシーは目を上げ、まるで回収不能な不良債権(貸倒金)を見るかのような、静まり返った眼差しで彼を見つめた。
「招待状は教廷の公務部からヒューズ家に直接送付されたものだ。そこには貴族紋章の認証コードが刻印されている。あんたがそれを奪い取ったところで、競技場のゲートすら通過できないぞ」
「それに――」
チャン・ヨウシーはそこで言葉を区切った。
「あんたに対する俺の債務は、とっくに帳消し(相殺)のはずだ」
「四の五の言うな!」
ブラントが一歩踏み出し、剣先をチャン・ヨウシーの鼻先に突きつけた。
「そんな小賢しい小細工で帳簿が隠せると思ってんのか? 甘すぎるんだよ! 豊穣の城の誰もが、ヒューズ家は完全に終わった(破綻した)と知っている。一階聖徒にすら届かないゴミが舞台に上がれば、待っているのは即時清算(死)だけだ。その手紙を俺に渡せ。それが最も有効な資産活用(物尽其用)って奴だろ」
チャン・ヨウシーは立ち上がり、ゆっくりとした手つきで袖口の皺を伸ばした。
その動作は極めて緩慢であったが、ブラントを奇妙にいら立たせるほどの、絶対的な従容(余裕)をまとっていた。
「ブラント先生、あんたは闘神学院の選拔大会が、なぜ貴族だけに発行されるか知っているか?」
「あぁん?」
「教廷は、願力システムを裏付けるための『身元のはっきりした個人投資家(有身份的散户)』を必要としているからだ。貴族の爵位すら持たないギャングのチンピラが、万が一その招待状を手に入れたところで、教廷の監査官は一分以内に血統の不一致を検知する。その時、お前に下されるのは貴族文書偽造罪。地下牢で生涯を終える(減価償却される)には十分な刑期だ。あんた一人どころか、鉄砧会そのものが根こそぎ清算されることになるぞ」
ブラントの顔色が目に見えて変わった。
チャン・ヨウシーはさらに半歩、前に出た。
「今すぐここを出て左に曲がれば、まだ損切り(撤退)は間に合う」
「てめえ、誰を脅してやがるッ!」
ブラントは怒号とともに長剣を振り下ろした。
チャン・ヨウシーは身体を側面に開き、懐の中にある温潤な銅の指輪を指先で弾いた。
指轮の表面に刻まれた金貨の図案が緩やかに回転し、願力が指輪から彼の体内へと流入していく。
チャン・ヨウシーは二本の指を突き出し、ブラントの剣先が襲い来るその刹那、剣身の側面に軽やかに触れた。
――チィィン!
刃と指が接触した瞬間、澄んだ金属音が鳴り響いた。
『太上玄元造化玉冊』が駆動し、暗色の因果の糸が剣身に沿って逆流(逆コンパイル)を始め、ブラントの体内にある、闇市場の願力薬品で強引に呼び覚まされた闘気の核心へとダイレクトに接触した。
「闘気は浮薄、根基は不安定、外強中干(見掛け倒し)。典型的な粗悪なノーブランド品(地摊货)だな」
チャン・ヨウシーは無表情にその査定(宣判)を下すと、指先を微かに震わせた。
ブラントは、普段なら体内で滑らかに循環しているはずの闘気が突如として暴走し、まるで怯えた野良犬の群れが経絡の中を四方八方に激突し始めたかのような衝撃を覚えた。彼は悶絶の声を漏らし、三歩後退した。剣を握る手は激しく震え、危うく柄を落とすところだった。
「お前……一体何をしやがった!?」
チャン・ヨウシーは指を引き戻した。
「あんたの闘気の供給源には重大な欠陥がある。闇市場で劣悪な願力抽出剤を購入し、強引に注入(レバレッジを適用)したな。その程度の誤魔化しは、教廷の監視魔方陣(監査システム)の前では完全に筒抜けだ。俺が監査役なら、人の招待状を強奪する暇があるなら、今すぐアジトに戻って在庫の不良医薬品をすべて破棄することを勧めるがね」
ブラントの顔面は死灰と化した。
彼は確かに、自組織が流通させている闇市場の薬品を使用していた。
どのギャングも闇薬品の密売に手を染めており、普段なら教廷も上納金さえ滞らなければ見逃して(監査をスルーして)いた。しかし、これが表沙汰になれば、鉄砧会は間違いなく根こそぎ市場から退場(強制解散)させられる。
「覚えてやがれ……っ!」ブラントは歯を剥き出しにして手を振ると、打手たちを連れて慌てふためきながら退散していった。
大門が再び閉じられた。
階段の踊り場から、微かな足音が聞こえてきた。
アナスタシアが斑駁な壁を支えにしながら下りてきた。その身には依然として、チャン・ヨウシーの大きすぎるコートが纏われている。
一晩の休息を経て、彼女の血色は幾分か回復していたが、その歩き方は未だに脚の使い方を覚えたばかりの磁器の人形のように覚束ない。
「なぜ、あの男を直接始末しなかった?」彼女は尋ねた。
チャン・ヨウシーは椅子に戻り、再び招待状を手に取った。
「彼には生きて戻って伝言をしてもらう必要がある。『ヒューズ家の人間は、誰彼構わず上門討债(取り立て)ができるような案件ではない』とな」
アナスタシアは彼の前に進み、その視線を箔押しの手紙へと落とした。
「闘神学院……本当に、行くつもりなのか?」
「必須だ(マストだ)」
チャン・ヨウシーは顔を上げた。その眼差しは、底知れぬ古井戸のように清徹だった。
「闘神学院は、教廷の願力システムの核心的なノード(サーバー)の一つだ。毎回の選抜大会には、教廷から高等執事が現場の監視に派遣される。つまり、彼らの聖遺物監視ネットワーク(インサイダー監視網)が競技場全体でフル稼働するということだ。そこへ行って初めて、俺は教廷の『信仰証券取引所』のリアルタイム取引データ(板情報)を観測できる」
彼は一呼吸置き、口元を微かに吊り上げた。
「カイル・フォン・ラインハルト。三階大剣士にして、富の神殿の首席保薦人。教廷内務部が本年度、重点的に育成している『最優良資産』。彼が、舞台における最大の胴元になるはずだ」
「狂ったのか!?」アナスタシアは焦燥を露わにした。「今のあなたの身体状況では、一階聖徒にすら届かない。カイルの手にかかれば、一撃でお前など真っ二つ(強制清算)にされる!」
「だからこそ、市場が開く(開盤)前にテクニカル分析(技術分析)が必要なんだ」
チャン・ヨウシーは立ち上がり、彼女の目の前まで歩み寄ると、右手を伸ばして掌を上に向けた。
「合伙人、あんたの神核を借りたい」
「何をする気だ?」
「修炼だ」
――太乙剣訣。
『太上玄元造化玉冊』に記された残篇の一つであり、功徳を燃料とし、一剣を繰り出せば、あらゆる虚妄を切り裂く特効法決。
チャン・ヨウシーはこの術式の獲得を狙っていた。
アナスタシアは一瞬躊躇したが、最終的には緩やかに手を伸ばした。
彼女の指先は冷たく、凡人のものとは思えないほど繊細な触感を宿している。
チャン・ヨウシーはその手首を掴み、もう一方の手で懐からあの『富の神』の蓄能環を取り出した。
「この指輪に貯蔵されているのは願力だ。純度が低く、不純物が多い。これを直接『太乙剣訣』の駆動に使うのは、ジェットエンジンに粗悪な軽油を注ぐようなものだ。点火しないばかりか、エンジンごと爆破する。だが、もしこれをあんたの神核に残留している、あの純正な願力と結合させれば、俺の制御下に置くことができる」
アナスタシアの顔色が変わった。「吾の神核から願力を引き出すというのか?」
「引き出すんじゃない。置換するんだ」
チャン・ヨウシーは訂正した。「あんたの神核にある願力は教廷の鎖によって汚染されている。残しておいてもただの不良債権(塩漬け株)だ。今からそれを根こそぎ引き抜き、代わりに功徳(新規資本)を再注入(増资)する。プロセスはかなり苦痛を伴うが、これは必要な『減損処理(コア減損の計上)』だ」
刹那、アナスタシアは自分の神核が、凍てつくような氷の手で鷲掴みにされたかのような感覚に襲われた。
元々は彼女自身のものだったはずの、残存する願力が、神格の亀裂から強引に引き剥がされていく。
それと同時に、銅の指轮から抽出された濁った願力も混ざり合い、二つの力が彼女の経絡の中で激突、反発し、そしてさらに高階な力によって強制的に融和されていった。
「くっ、うあぁぁッ――!」
アナスタシアは激痛のあまり身を折り曲げ、額をチャン・ヨウシーの肩へと押し当てて全身を激しく震わせた。
彼女は、自身の神核が最後の願力という支えを失ったことで、亀裂が急激に拡大していくのをリアルタイムに感知していた。
元々は蜘蛛の巣程度だったひび割れが、今は重槌で叩き割られた氷面のように、四方八方へと狂ったように伝播していく。
「わたしの……神核が……砕ける……っ」
「分かっている」
チャン・ヨウシーの声は、四半期決算の財務報告(決算発表)を読み上げるかのように冷徹で冷静だった。
「教廷が植え付けた願力の鎖が、お前の根基をすでに空洞化(債務超過に)させていたんだ。その爛帳(過去の負債)をすべてクリア(減損)しなければ、功徳という新規資本は注入できない。不破不立(破壊なくして創造なし)、スクラップ・アンド・ビルドだ」
「だけど、もしわたしが耐えきれなかったら……」
「お前は耐える」
チャン・ヨウシーは目を開き、その眼差しはナイフの刃のように鋭く彼女を射抜いた。
「なぜならあんたは、このチャン・ヨウシーの名義下にある独占的合伙人だからだ。俺が破産を承認するまでは、誰であれお前を上場廃止にはさせない」
その言葉が落ちた瞬間、玉冊が猛然と一震した。
強制的に融和された二つの願力は、古巻の圧倒的なプロセッシングによって、ついにその性質の逆転を完了した。
一筋の金青色の光芒が、チャン・ヨウシーの指先に凝縮され、形を成した。
その光は極めて淡かったが、空間そのものを切り刻むかのような、肌を刺すほどの鋒鋭を宿していた。
「完了だ」
チャン・ヨウシーは手を離して一歩下がり、古城の後山の方角に佇む、何年放置されているかも分からない残破な石碑に向けて、軽やかに指を振るった。
髪の毛ほどの細さでありながら、目を焼くほどに眩い金青色の光線が彼の指先から激射され、虚空に一直線の軌跡を描きながら、瞬時に百歩の距離を貫通した。
――ツ、ゥ(嗤)
微かな風切り音。
大人の身長の二倍はあるその青石の石碑が、真ん中から綺麗に両断され、その切断面は鏡のように滑らかだった。上半分の巨石が鈍い地鳴りを立てて崩落し、猛烈な土煙を巻き上げた。
「これを『太乙剣気』と呼ぶ。相手がどんなポートフォリオ(変化)を組んでこようとも、俺はこの一剣であらゆるバグを打ち破る」
アナスタシアは自身の神核の亀裂の拡大を忘れるほどに呆然とし、喃喃と自失した。
「聖遺物を介さずに、エネルギーの外部放出を可能にするなんて……!!!」
この世界において、エネルギーを体外に放出するためには、あらゆる聖遺物を媒介にするのが絶対のルールだった。
聖遺物の形状によって放出されるエネルギーの指向性が決まり、最も一般的な媒介が「剣」だったのだ。
チャン・ヨウシーは一面の砕石を見つめ、満足そうに頷いた。
「リソースの消費効率(燃費)はやや悪いが、速度と出力は一級品だな」
彼は言葉を止め、口元に危険な弧を描いた。
「カイル・フォン・ラインハルト。三階大剣士、彼の『裁罪の刃』の下には無数の人命が眠っている。――彼の帳簿(これまでの歩み)は、さぞかし見応えがあるだろうな」
……
三日後、闘神学院競技場。
豊穣の城の内城区の境界に位置するこの巨大な建造物は、大異変の後に教廷が出資して再建した、象徴的なメガプロジェクト(标志性工程)の一つだった。
青石で築かれた円形の観客席は五千人を収容可能であり、現在は文字通りの満員御礼(座无虚席)だった。
貴族、大商人、教廷の執事、そして一獲千金を夢見る無数の平民の少年たちが、この会場を水漏れする隙もないほどに埋め尽くしている。
空気中には、汗、香水、そして願力薬品の混ざり合った異様な臭気が充満していた。
チャン・ヨウシーは、鉄砧会の打手から剥ぎ取った、辛うじて清潔な灰色のレザーアーマーを身に纏い、選手用通路から選抜エリアへと緩慢な歩調で足を踏み入れた。
彼の出現は、まるで静かな湖面に投げ込まれた一個の石石のようであり、観客席からは一瞬にして騒がしい野次と議論の嵐が巻き起こった。
「あれ、ヒューズ家のあの廃物(粗大ゴミ)じゃないか?」
「噂じゃ、完全にイカれちまったらしいぞ!」
「あんな皮と骨だけのガリガリ野郎が、よくもまあ選抜大会(IPO)に顔を出せたもんだな!」




