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最終話 こんなハーレムラブコメも悪くない

「あれ~。まーくんどこ行くの?」


 土曜日の夕方。

 玄関で靴を履いていると、寝起きの姉貴が声をかけてきた。しっかり昼夜が逆転しているらしく、この時間でも寝間着姿で髪もボサボサだ。


「どこって……友だちとご飯だけど」

「え~誰と~?」

「誰でもいいだろ」

「気~に~な~る~。ねぇ、今日は誰とデートなの? 咲月ちゃん? 陽菜ちゃん? 雪ちゃん?」

「放っておいてくれ」


 ちゃっかりみんなの名前を覚えているし……。


「てかついて行って良い? お姉ちゃんも可愛いJKと遊びた~い」

「うんわかったまた今度ね行ってきます」

「ちょっとまーーくーーん」


 俺は姉貴のダル絡みを振り切り、駅に向かって駆け出した。


※


 駅前にある焼き鳥屋。

 事前に予約しておいた広いテーブル席に、俺といつもの3人、そして先日結ばれた桐谷&佐藤カップルが座っている。


「それでは~、カップル成立おめでとうパーティーと言うことで~、2人の門出を祝しましょ~。かんぱ~い」

「「かんぱーい」」


三森の音頭でみんながグラスを重ねる。あまり外野が騒ぐのもどうかとは思うけど、それはそうと焼き鳥が美味しそう。


「門出って、なんだか結婚するみたいね」

「えっ、そうですか?」

「というか三森より氷護先輩が挨拶した方が良かったんじゃないか? バド部の先輩だし」

「……私は……そういうの……苦手……やりたくない」

「えっと。とにかく皆さんありがとうございます!」


 桐谷くんは立ち上がり、深々と頭を下げた。フォーマルな格好を意識したのか、みんな私服なのに彼だけ制服。やっぱり真面目だ。


「ずばり桐谷さん! お付き合いの決め手はなんですか?」

「き、決め手ですか」

「そうです決め手です。まさか彼女に告白だけさせて、自分は何もなしなんてことありませんよね?」

「ありませんよね?」


 三森に便乗し、佐藤さんも茶目っ気のある顔を彼氏に見せる。下手なこと言うと総スカン食らうやつだ。頑張れ桐谷くん。


「……その、俺。今まで彼女とかいたことなくて。だから正直、交際ってあんまりイメージできなかったんですけど。佐藤先輩に告白された時、なぜか頭に、2人で笑いあう将来が鮮明に浮かんだんですよね」

「──!?」


 佐藤さんは耳まで真っ赤になり、完全に乙女な表情だ。うん、これは門出でも間違いじゃないな。早く結婚してください。

 

「……な~んか人の惚気って、あんまり見て気持ちの良いものじゃないですね」

「いや聞いたの三森だろ」

「3人のプロポーズを保留にした誰かさんとは大違いね」

「ご、ごめん」


 心なしか俺への当たりが強い気がする。氷護先輩はマイペースにひな皮を食べ続けてるけど。


「ところで花守先輩、海外に行かれるんですね」

「そうよ。斗真と私は、次に再会するその日まで、互いにパートナーを作らない約束をしたの。それがどうかした? 元(・)カ(・)ノ(・)さ(・)ん(・)」

「いや~、頭がお花畑で羨ましいです~。遠距離恋愛はいつも、カップルが別れる理由トップ3に食い込むのに」

「……なんですって」


 たしかに聞いたことはある。特に高校生カップルの場合、大学が違うとかなりの確率で別れてしまうとか。


「で、でも私。ドイツに行っても斗真に毎日電話するし……」


 いや初耳なのだが。

 海外から電話って通話代がすごいのでは? 時差もあるし。


「ほんっとに甘いですね~、花守先輩は」

「甘い?」

「はい甘々です。少なくともあたしは先輩と違って、来年1年はとーまくんを独り占めすることが確定してるんですよ~。ついでにその後は、同じH大にも入学しますし~。ねっ? とーまくん♡」

「聞いてないぞ……」


 どう考えても、今の学習状況で旧帝大を目指す方が遥かに甘いと思う。まずは定期テストで平均点を取ろう。うち自称の進学校だし。


「なんにせよ。こ~んな可愛い子がず~っと隣にいたら、さすがにとーまくんもハニトラで落ちますね。NTRはあたしの愛ですから」

「……俺に聞かれたらトラップにならないだろ」

「元カノの分際で好き勝手なことを……」

「交際もしないで彼女面の方が恥ずかしいですけどね~」


 三森と陽菜がバチバチと火花を散らす。しばらく距離を置きたい。


「……ねぇ……ご主人様」


 周りには聞こえない小さな声で、氷護先輩は俺を呼んだ。


「は、はい。なんですか」

「この後……2人で……二次会しない……?」

「二次会、ですか」

「……うん……メス豚……罵りSMパーティー」

「しません!」


 久しぶりに聞いたな、氷護先輩の過激発言。というか豚さんを名乗るには身体が細すぎるだろ。


「ちょっと氷護先輩、抜け駆けはだめですよ。あたしも混ぜてください」

「え……出たいの……メス豚罵r」

「なんでもなーーい! なんでもないからなーーー」


 俺は必死に誤魔化したが……遅かったらしい。


「……斗真」

「……とーまくん」


 2人から向けられる軽蔑の眼差し。ちょっと嬉しそうな氷護先輩。そして俺たちに構わず勝手にイチャイチャしている新生カップル。

 ハーレムを語るにはあまりに理不尽な状況。ヒロインを語るにはあまりに性癖が歪んだヒロインたち。

 けどそれでも、今の俺は思うのだ。


 ──こんなハーレムラブコメも悪くない、と。


(完)

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