第七十五話『蜂蜜』
その後、話はスムーズに進んで正式な手続きをし、私達はお母さんに引き取られることになった。
で、此処でこの人達ともお別れ出来たら良かったんだけど……。
「これからはお母さんとずっと一緒にいられるんだね!」
「一緒に住めるの嬉しい!」
「お母さんも嬉しいです!2人を置いて行って本当にごめんねです、これからはちゃんと守るです」
「へへ、お母さんの変なです久しぶりに聞いた!面白いー!」
「2人でも全然楽しかったよ!」
「面白いと言ってくれて嬉しいなです。……柊、2人でも楽しかったのは複雑だなぁです」
それはごめんだけど、しょうがないよ。
施設での生活はしんどい事とか大変な事だらけだったけど、頑張った分楽しかった事も多かったもん。
「お母さん、柊達どこで暮らすの?」
「えっと、取り敢えずはルゥさんの家にお世話になろうかなって思ってて、お金が貯まったらお引越ししようかなです」
「ルゥさん?」
「…ルゥ?」
「ルゥさんはお母さんがお世話になってる魔法国にいる魔法使いさんです。でも、ずっとお世話になりっぱなしなのにこれからもお世話になる訳にはいかないので、これからお母さんいっぱい働いてお金ジャンジャン稼ぐからです!」
「無理しないでね?雛菊も色々頑張る!」
「柊も頑張るよ!」
「2人ともありがとです!」
ルゥの名前をついに出してしまったか……。
まぁ、お世話になっていた人の名前を知らないとかあり得ないし、教えられないって言うのも怪しいからしょうがないね。
偽名言ってボロ出るの面倒いし。
これからルゥの事に関して余計なこと言って墓穴掘らない様に気を付けよ。
私達3人の話を聞いていた総一郎さんが咳払いを1つして話しかけてきた。
「ここに住んだら良いんじゃないか?」
「え?」
「ここなら部屋は有り余るほどあるし、ゆっくり資金を貯めて遊べる金が貯まるくらい余裕が出てから引っ越しても、良いんじゃないか?」
「でも、ご迷惑をお掛けする訳には……」
「迷惑でもない」
迷惑だと遠慮をするお母さんにさっき「あぁ」の一言喋っただけの保弘さんが話し始めた。
「俺達は雛菊達と出会って日は浅いが、2人の明るさに癒されている。急に居なくなるのは組の人間も悲しむだろう。勝手で申し訳ないが、俺達に別れを惜しむ自分の時間をくれないか」
明るさに救われてる…なんて保弘さんが思ってるとは夢にも思わなかった。
別れを惜しむ時間って言ったのは、お母さんの遠慮している気持ちを軽くしようとして言ってくれたのかな?
嘘でも、保弘さんだけしか思っていなかったとしてもちょっと嬉しいな。
「あの、そう言われましても……です」
「お母さん!雛菊もまだお兄さん達と一緒にいたい!」
「施設から一緒に来たお友達も心配だから、ここにいたい!」
「う〜ん……でも…これ以上は、です?」
「「お母さん!お願い!」」
「……分かったです、2人がそこまで言うなら」
そうお母さんが折れてくれて、総一郎さん達の方を見る。
「……ご迷惑と思いますが、少しの間お言葉に甘えてお世話になってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、少しと言わずにいつまでも居てくれて構わないからな」
「「ありがとう!総お兄さん『ちゃん』!」」
「…ありがとうございますです」
総一郎さんの優しい言葉に私達は正座をして、畳に頭が付くように深々と頭を下げた。
お母さんちょっと緊張が解けてきたのかな?
丁寧な敬語に変なですが混ざり始めてる……面白。
「と言うわけで、これからここで暮らす事になった雛菊達の母親の一花さんだ。お前ら丁重に扱えよ?」
「一花と申しますです!ご迷惑をお掛けすると思いますが、娘共々よろしくお願いしますです!」
「よろしくー!」
「超美人じゃね?」
「2人の母親には見えないよな、姉って方がまだ納得感ある」
「いくつなんだろ?」
晩御飯前に広間で挨拶をしたお母さんに広間内は騒然とした。
今までにないくらいうるさいかも。
でも、お母さん褒められるのはすごく嬉しい。
私達のお母さん、美人でしょ〜可愛いでしょ〜羨ましいでしょ〜。
雛菊と同じくらいの愛らしいんだからちょっとなら見て良いよ。ガン見は許さん、惚れるのも許さん。
「野郎どもうるさい!一花ちゃんにちょっかいかけて迷惑掛けないでよ!」
「「「了解です!!心得てます!!」」」
ザワザワとしている広間を絞めたのは仁美さんで、ヤクザ達は嘘くさい返事をしていた。
ちょっかいかけたら、少し痛い目見てもらうから大丈夫だよ仁美さん。
「本当に分かってんの?適当に返事しないでよ!」
「いや、あの、ご迷惑を掛けるのは私の方なので……です」
「何言ってんの!子供と安全に暮らす為にここにいるんでしょ!迷惑なんて事絶対にないから!」
「………ありがとうございますです」
遠慮をし続けるお母さんに仁美さんは気にするなと喝を入れた。
その言葉にお母さんは目に涙を浮かべながら、嬉しそうに笑ってお礼を言っている。
クルミさんに続いて泣き虫が増えたな、ふふ愉快。
その日の晩御飯はめちゃめちゃ張り切った銀次郎さん達料理人の手によって、豪華な料理が山の様に運ばれてきた。
その中には私の好きな寿司と雛菊が好きなショートケーキなども用意されていて、雛菊はとても喜んでいた。
もちろん、私も喜んだよ?
「わーい!お母さんと寝るの久しぶりで嬉しい!」
「お母さん真ん中ね」
「うん、分かったです。お母さんもまたこうして、2人と一緒に寝れて嬉しいです」
部屋に戻って寝る準備をして、私達はお母さんを挟む形で川の字になり寝っ転がった。
のだが、せっかく3人分布団を敷いたのに雛菊がお母さんの布団に潜り込んだので私も一緒に潜り込んでおく。
「お母さん、これからはずっといっしょ?」
「うん、一緒です。2人を置いて行って本当にごめんねです、2人を守れる様にお母さんもっと強くなるです!」
「じゃあ雛菊もお母さんと柊を守れる様に強くなる!」
「私も、もっともっと強くなる。2人を守れる様に」
「ーーーッ2人とも可愛いなぁです!ありがとう、3人で頑張って行こうです!」
3人で頑張って行く、今は総一郎さん達に甘えてしまっているけど甘えた分を返せるくらいには頑張るつもりだから。
3人で色んな話をしているうちにとうに夜中は過ぎ去っていて、雛菊は寝息を立てて寝てしまった。
それを見計らって私は小声でお母さんに話しかける。
「お母さん……」
「ん?柊、どうしたです?」
「……私の目のせいで、いっぱい苦しい思いさせてごめん」
「…ふはっ柊は何にも悪くないでしょ?です」
「ッでも」
でも、私がもっと賢かったら上手い立ち回りが出来ていたら、2人を危ない目に遭わせる事も辛い思いをさせる事も苦しい思いをさせる事も無かったのに……。
そんな思いをさせずに解決出来たかもしれないのに。
「……お母さんは、柊の蜂蜜色の目が大好きだよです」
「私は、嫌い。お母さんの言う蜂蜜色は大好きだけど、あの人たちの言う黄金色は嫌い」
厳密には私の瞳の色は黄金の様に輝いてはいない。
自分で言うのもなんだけど、蜂蜜の様にトロッとした様などちらかと言ったら琥珀に近い不思議な色をしている。
当主の色だという黄金は嫌い、愛しい色だという蜂蜜は好き。
「それは、あの人達の願望がそう見せてるだけだよです」
「願望…」
「そう、お父さんが黄金色じゃ無かったから近い色をしている柊に全部託そうとしてるのかもねです」
全部託されても迷惑だ、私はそんなの望んでない。
「顔は同じなのに、なんで私だけ」
「うーん、ちょっと周りが見えていないのかもね?です。いつか心が落ち着いたら、あの人達の見え方も考え方も変わるかもです」
「あんだけ歳いってて変わってないなら無理だと思うけど…」
「こらこら、そんな悪い言葉使わないのです」
「事実だもん」
「まったく。どっちにしても柊が悪い事なんて1つもないから、謝らなくて良いよです」
「うん、分かった。ありがとうお母さん」
「ううん、さっ早く寝ないと朝になっちゃうから寝ようかです?」
「うん、おやすみ」
私が必ず2人を守るよ……もちろん自分の事を犠牲にしたりなんてしない、そこは安心してほしい。
2人も幸せにして、私もついでに幸せになれば2人は絶対に喜んでくれる。
私はそれを目指す、誰も不幸にはしない…犠牲にしない。
今度こそ絶対に守ってみせるよ!
見てるか分かんないけど……応援しててよ姉さん、天音!
魔法国某地域、大きな町の小さな住居にて。
「ねぇこれ見て!あの施設潰れたって!」
「本当だ!……湊崎組って、兄さん達がやってくれたんだ」
「もしかして、コウくんを探して施設に行ったんじゃ…」
「それもあるとは思うけど、俺だけを理由に行ったりしないよ。てか、施設に囚われてる人達を助けるついでに俺の捜索もしとこうって感じだよ。きっと」
幸太郎は自分の兄の性格を考え、卑屈とかではなく事実として考えを述べた。
嬉しそうに笑ってはいたけど。
「そう、かな?でもこれで隠れて生活しなくて良くなるね!」
「だね、柊にも施設が潰れたら家に帰って問題ないって言われてたし」
「そうだね!コウくんの地元帰ったらお兄さん達に挨拶して、雛菊と柊にお礼言いに行かなきゃね!」
「一生かかっても返せない恩があるもんね」
「うん、あ〜早く会いたいなぁ!」
「帰る支度したらルゥさん達にも挨拶に行こう」
「そうだね、ここの人達にもたっくさんお世話になったお礼しなきゃ」
問題が一つ解決すると新しい問題がやってくるのは、物語のあるあるだよねー
本当に切実に1年くらいゆっくり休ませて欲しい。
これにて『シオンの涙雲(改訂版)』第1章は、完結となります!
第1章を最後まで読んでくださり、本当に、本っ当にありがとうございました!!m(_ _)m
少し間を空ける予定ですが、第2章も必ず書きますので楽しみにしていただけたら嬉しいです!
拙い文章で、少しでも楽しんで頂けていたらと思い書いていた小説が、ランキングにも入ることが出来て本当に幸せです。
読んでくださっている読者様のお陰です!
読者様とか1回使ってみたかった言葉言っちゃってちょっと照れます。(//∇//)
これからも駄文を書いていきますので、気が向いたらまたここにお越しください。
皆様の生活の楽しみのほんの一部として頂けたら嬉しく思います!
それではまた第2章、または別の作品でお会いしましょう!
本当にありがとうございました!




