魔女の呪いの正体
クロン村に足を踏み入れると、何処か村全体がピリピリとした警戒心と不穏な空気に包まれた。
馬車を降りてすぐ、重装備の衛兵がこちらへ駆け寄ってくる。
「グレン村からの使者、イツキ様でございますか?」
「そうです」
「領主アルフレッド様がお待ちです。屋敷へと案内致しますので、こちらへ」
イツキとエマは衛兵についていき屋敷の中へと案内された。
応接室に通され、用意された茶を前に少し待っていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえドアが開いた。
「遅れて申し訳ない……!其方がレオンの言っていた薬師のイツキ殿か?しっかりとおもてなしが出来ず申し訳ない」
姿を現したアルフレッドは、目の下に濃いクマを作っていた。
「いえいえ。アルフレッドさんも大変でしょうからお気になさらずに」
イツキは穏やかに返した。すると急にアルフレッドは身を乗り出して聞いてきた。
「単刀直入に聞かせて欲しい……。本当にこれは、魔女の呪いではないのだな……?」
「はい。魔女の呪いなどと言うつまらない迷信で何の罪もない人を殺す必要はないです」
はっきりと口にしてからイツキはハッとふと我に帰り、ふっと息を吐いた。
「……すいません。感情的になってしまいました」
「では、なんだと言うのだ。様々な治療法は試した!!でも全て無駄だったんだ……。」
「手紙だけである程度の予想はついていますが、確証を得るために患者さんたちに合わせていただけませんか」
「あぁかまわない。ついてきてくれ」
イツキとエマはアルフレッドの後を続き、患者たちが集められた部屋に向かった。
案内された部屋は、病人特有の不快な匂いとアルコールの匂いが漂っていた。
部屋の掃除はいき渡っており病室としては100点満点の部屋だった。
やれる事を全てやったというアルフレッドの言葉に嘘はなかった。
イツキは一人一人の患者を見た。
手足が黒く変色している患者や何も無い虚空を見つめながら何かに怯える患者。全て手紙に書かれている通りだった。
「アルフレッドさんオオムギを置いている食料庫を見せていただけませんか?」
「あぁかまわない」
アルフレッドに食料庫を開けてもらい中のオオムギに手を伸ばす。
そして、手に取ったオオムギから黒いツノ状の物体を見つけ出した。
「分かりました。『魔女の呪い』の正体が!!」
「ほ……本当か!」
アルフレッドが驚いたように聞く。
「これが原因です」
イツキは、黒いツノ状の物体がついたオオムギを見せながら言う。
「……普通のオオムギじゃないの?」
エマは不思議そうに覗き込む。
「よく見てください。このオオムギには黒いツノ状の物体がついています。これを麦角と言います。要するにカビ毒です」
「しっかり衛生管理をしていたのに何故カビたんだ……」
アルフレッドは落胆まじりに言う。
「これは、作物の生育の途中で付着する物です。雨の多い時期などに穂へ感染する菌ですから、倉庫の管理の問題ではありません」
イツキは優しくいい添えてから、2人の目を見て言葉を続けた。
「このカビに含まれる毒素は、体内の血管を強く縮め塞いでしまう作用があります。末梢の血流が止まることで、手足が火で焼かれたような激痛に襲われ、最悪の場合は壊死して腐り落ちてしまう。さらに、脳の神経にも直接作用するため、強い幻覚や幻聴を引き起こすんです」
説得力のある解説にアルフレッドは目を見開いたまま言葉を失っている。
「手足の激痛と幻覚……これが同時に発生したことで村の中がパニックになった。これが『魔女の呪い』の正体です」
「そうだったのか……。ワシは無実の者を殺してしまう所だったのか……」
アルフレッドは膝から崩れ落ちそうになりながら、絞り出すように呟いた。
「原因さえ分かれば、対処は可能です。すぐに汚染された穀物の分別と、患者たちの治療へ掛かりましょう」




