第四十五話
「お前、今日ずーっとタブレット見てるよな。誰かとメッセージでも送り合ってるのか?」
どんな抜け穴使ってんのか教えてくれよー、などと言っているクラスメイトの桐生は、一応、おれの友人だ。
「まぁ、そんなとこだ。」
言いたくないかのように、曖昧な返事を返す。
実際、こいつに言いたくないというのは事実なのだが。
「えっ、まじでメッセージ送り合ってんの?相手は彼女?小夜ちゃ…じゃなかった、三日月さんとか?」
ほとんど言ってるのだから最後まで言い切ってしまえばいいものを、と思いつつ、口には出さない。
「いや。メッセージじゃない。あと念の為言っとくが小夜はまだ彼女じゃないからな。」
言ってから、無駄な情報を与えてしまった、と後悔するがもう遅い。
「まだ、ってことはこれから付き合う予定でもあるのか?」
だとしたら大スクープ…という思いが瞳から漏れ出ている。
こいつは記者とか向いてそうだよなぁ、などと思うものの、そうはならないことも分かっている。
おれは医者になるんだ!とか言ってた記憶がある。
医者は医者でも、獣医ということらしいが。
こいつなんかにできるのかな、と思っていたら、メキメキと成績を上げてきていたことに驚いたのは記憶に新しい。
それでも、今の成績だと厳しいらしいが。
「ノーコメント。お前に言う義理はない。」
こいつに対する必勝法。黙秘権の行使。
「はー、いつも通り冷てぇなぁ。まあいいけどよ。」
それより、と続けてくる。
「メッセージじゃないならなんでそんなにタブレットと見つめ合ってるんだよ。視力悪くなるぞ?」
ただでさえ悪い視力が更に悪くなるのは困る。
けれど、このまま授業2時間+給食時間を過ごすのも厳しい。
それでも、調べてしまえば小夜に何か言われるのも確実だ。
おれの意図しないところで、口は勝手に動いてしまう。
「お前、桜の花言葉知ってるか?」
どうせ知らないんだろうな、と思いつつも、言われてしまったら…とも思う。
「いきなりどうした?俺は知らないぜ!」
知らない、という返答にほっとしつつも、落胆するおれもいた。
桐生が教えてくれたら、こんな悩みから解放されたのにな、と。
こんなことで悩む自分が嫌になる。
誰にも言えないのにな、と。
友達に言ったら、「お似合いじゃん」
姉さんに言ったら、「恋煩いじゃない?」
母さんに言ったら、「熱でもあるの?」
父さんに至っては無反応。
どうしたら、この苦しみを理解してもらえるんだろうな、と思いつつ、まずは目先の問題から処理することにした。
「じゃあいいわ。つーか、2分前だぞ。着席しなくていいのか?」
動揺を悟られないように。努めて平静を装う。
「あっ、やべ!ありがとな!」
目先の喧騒製造マシーンは、そのひとことを置いておれの元から去っていった。




