53.マカロン最強説
新作のマカロン詰め合わせセットは持った!
今回はフェリックスの自信作だ!
マカロンの表面部分に加工を施したのだ。
虎と熊と猫とウサギとハスキー犬になっている。
もちろん、リガロとフェリックスとキャロットと
シャルとジェイ、そしてエリアスを意識して作って貰った。
味にもこだわった。
見た目を裏切らない味にしたかった。
白い虎マカロンは、ココナッツ味。
熊のマカロンは、チョコレート味。
ウサギのマカロンは、チェリー味。
猫マカロンは、キャラメル味。
ハスキー犬マカロンが、一番難しかったが……
ゴマ味に挑戦してみた。
そして、とどめに王都以外であまり手に入らない
オレンジティーの茶葉を一緒に持っていくつもりだ。
そして街の大通りから一本入った閑静な住宅街にある
ブロムベルグ家の屋敷をリガロと共に訪れた。
執事に案内され……
庭に面したサンルームへと案内された。
ヴァイオレットはお茶を飲んで、ブロムベルグ様が
やってくるのを待っていた。
リガロは、マカロンと茶葉が詰まったバスケットを抱え
後ろに控えて立っていた。
すると、いつものおつきの女性と共に
ブロムベルグ様が部屋に入ってきた。
「今日は、わがままいってごめんなさいね。
どうしても美しいトラさんの入れたお茶とマカロンが
食べたかったの」
そういって微笑みながら、ヴァイオレットの向かいに座った。
リガロが持ってきたバスケットを、おつきの女性に渡すと
すぐにブロムベルグ様の横にいき、片膝をついて胸に手をあてて言った。
「マダム……お加減はいかがですか?
お風邪を召したとの事で心配しております」
「フフフ……。
あなたの美しい毛並みを見ていたら元気になったわ」
そう言って嬉しそうにリガロを見つめた。
「もったいないお言葉でございます」
リガロは、そっと夫人の手を取ってとびきりの笑顔で微笑んだ。
(うぉぉぉぉ!!
普段こんな甘い笑顔で接客してるんだ)
ヴァイオレットは内心驚いていた。
あんな笑顔、一度だって私にはしてくれた事はないのに。
ちょっぴり焼きもちを焼いてしまうヴァイオレットだった。
そこに、執事がマカロンと紅茶セットをワゴンで運んできた。
「お手数ですが、これから先はお頼みしてよろしいですか?」
そうリガロに言うと、リガロは頷いた。
「マダム、今回は新作を持ってきました。
フェリックスの自信作でございます」
「まぁ……かわいらしい。
ウフフフ……これはあなたね。
他の子も全員いるのね。
なんだか食べるのがもったいないわ」
そう言いながら、虎のマカロンを摘まんで
しげしげと見つめていた。
おつきの方は、やはり熊のマカロンにくぎ付けだった。
流石フェリックス推しの方だ……。
「紅茶もいい香りね。
オレンジティー、久しぶりに頂くわ」
そう言いながら、リガロの注いだ紅茶を一口飲んで
ほうっと一息ついた。
そんな様子を見ながら、ヴァイオレットは密かに
目の前のブロムベルグ様を観察していた。
この穏やかなご高齢のご婦人が、稀代の魔法使いなのだろうか?
とてもそうとは思えない。
確か設定では、かなりたくさんの魔物を倒し
国に貢献したとかで……。
攻略キャラのフルバード様の憧れの存在だったはず。
しかし緩い感じで、マカロンを頬張る姿をみると
とてもそうだとは……。
と、思っていると
後ろから何か食器が割れる音がした。
何事かと振り返ると、ワゴンを引き取りにきたメイドだろうか
どうやら力加減を間違えて、ティーカップを落として
割ってしまったらしい。
もうそれは、気の毒になるくらい真っ青になっている。
「大奥様、申し訳ございません」
両手でエプロンのぎゅっと握りしめて、目には大粒の涙が
浮かんでいた。
まだ年端もいかない少女だった。
新人だろうか……。
あのティーカップはかなり高価な一品だ。
とてもメイドの給料では、弁償できないだろう。
するとブロムベルグ様は、怒りもせずさらりと言った。
「大丈夫よ、誰でも失敗はあるわ。
次からは気を付けるのですよ」
そう言って、指をパチンと一つ鳴らした。
すると、床に粉々になって砕けていたティーカップの
破片がみるみるうちに舞い上がり、元の形に戻った。
(これは!!)
ヴァイオレットとリガロは目をあわせて頷いた。
「お騒がせして、ごめんなさいね」
「いえ……」
ヴァイオレットは、どう切り出そうか悩んでいた。
魔術師様ですよね?
とは聞きづらいし……。
かといって、いきなりアダラード様の話をするのも
意味不明だし……うーん。
それはリガロも同じようだった。
立場的にもっと難しいだろう。
すると急に、ブロムベルグ様はこんなことを言った。
「お嬢様、今日は本当にありがとう。
とてもかわいらしいお菓子とお茶。
それに美しいトラさんを連れてきてくれてありがとう」
「いいえ、こちらこそ。
いつも御贔屓にして頂き、感謝の念に堪えません」
ヴァイオレットは深く頭を下げた。
リガロもしかりだ。
「ウフフ……若いのにできたお嬢さんね。
そこで今日のお礼に何か一つ差し上げたいのだけれども
何がいいかしら?」
「…………!!」
渡りに船とはこの事だろう。
どう答えるのが正解だろうか。
一見穏やかに微笑んでいるようにも見えるが
その瞳の奥の中に、何かが潜んでいるように思えてならない。
いったん断るのが正しい選択だろうか。
ヴァイオレットが、断りを入れようと口を開きかけたが
先に言葉を発せられてしまった。
「遠慮はいらないのよ。
セバスからも何かあったら、力になってほしいと
言われているの」
そう言って、ウィンクをしてきた。
セバス……。
うちのあのセバスチャンの事だよね……。
本当に何者なのあの人。
このご婦人とどういう関係なのよ。
思いっきり顔に出ていたのだろうか……
ブロムベルグ様は、心底楽し気にこう告げた。
「元彼なのよ、セバスは」
「…………」
ヴァイオレットとリガロは一瞬呼吸が止まりかけた。
はっ?
いまこの上品なご婦人がなんと申しました?
元彼?
へっ?誰が?誰の?えっ?えぇぇえぇぇえぇぇえ!!
ヴァイオレットとリガロはぽかんと目を見開いて
しばらくその場に固まっていた。
「フフフフフ……。
冗談ですよ、セバスは私の恩人なの」
そう言って、いたずらが成功した子供のような表情で
コロコロ笑っていた。
冗談かい!
本当にやめて……心臓に悪いから。
ヴァイオレットとリガロはへたり込みそうになった。
「だから今度は、私が力になるわ」
ブロムベルグ様は、優しい瞳で私とリガロをみていた。




