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52/55

52.そう言えば……

香辛料屋の誰かが、殺し屋を雇ってまで取り返したかった

ヴァニラの小袋……。


その中身が今、開封された。


ヴァニラビーンズの束の中心に、何か紙のようなものが

小さく折りたたまれて入っていた。


それを取り出して読んでみた。


“ネズミは5匹。

近日中に施設に追い込んで駆除すべし。

引き続き赤き猫に監視させ、連れて来い。

黄金のネズミは、宝石箱に移動させた“


「どういうことでしょうか?」


レナルド達は頭をひねっていた。


その中で、ただ1人だけこの暗号の意味が分かる男がいた。


「これは……」


と、アダラードが話し出そうとした時だった。


アダラードの右半身に刻まれた文様が青く光りだした。


「ぐぁぁぁぁぁ!!」


悲痛な叫び声をあげながら、その場に立膝をついた。


「いかん!服従の紋章が発動しかけている!」


レナルドがすぐに、鎮静魔法をアダラードに打ち込んだ。


「はぁ……はぁ……すまねぇ。

これは……あんたたちを……

誘い込む……ぐぁぁぁぁ……罠だ!

がぁぁぁ……神殿こそ……悪……」


そういうと吐血した。


「これ以上、喋るな……死にますよ」


レナルドは、魔力を流しながらたしなめるが

アダラードはやめなかった。


「ゲホォォ……恐らく赤い髪の男がスパイだ……

気をつけろ……」


そういって、盛大に吐血するとその場に倒れた。


「いかん、心臓が止まりかけている。

内臓の損傷も激しい、私1人の魔力では追いつかん。

誰か、ユリアを呼んできてくれ」


そのままリガロが走って義母を呼びに行き

なんとか一命はとりとめた。


知らなかったが、義母は回復魔法の上級魔法の保持者らしい。

そういう家系らしく、それもあって我が家に嫁いできたとの事だった。


回復魔法持ちは少ないもんね。

それりゃあ権力がある家なら、欲しい人材よね。


って、ことは私か兄上にはその素質があるのかしら?

ふとそんなことを考えてしまった。




客室のベッドにアダラードを運んだ。

まだよだんを許さない状況だ。


通常なら、耐えられないくらいの激痛なのに

それを精神力だけで凌駕して……

命をかけて罠だと教えてくれたアダラード。


「お父様、私……

アダラード様の勇気ある行動に報いたいですわ。

この服従の魔法を解ける方を探します。

それが、本当にお兄様をみつけられる最短の道

のような気がします」


ヴァイオレットは、アダラードの右手を握りながら

決意の籠った瞳でレナルドをみた。


「私は、私のできることをやろう。

恐らくネズミとは私たちの事だと思う。

神殿に潜入する予定のものは、私とディアーク殿を

ふくめて5人……」


「その中に赤い髪の男はいるのですか?」


フェリックスがそうきいた。


「あぁ……。

隣国出身の元騎士だという気のいい男だ。

まさかあいつが2重スパイだったとはな」


少し残念そうにレナルドは目を伏せた。


「あとは、黄金のネズミは、宝石箱に移動させた

の意味だけが謎のままですね」


「そうだな……」


結局みんなで、さんざん考えたがわからなかった。




レナルド達が帰っていき……

ヴァイオレットは、アダラードの傍についていた。


呼吸は落ち着いたが、真っ青な顔をして

苦しそうな表情のアダラードの顔をただ見つめていた。


この人はどんな過酷な人生を生きてきたのだろう。


こんな姿になってまで、この国に潜んで

第三王子を救出する為に、生きながらえてきたのだろうか?


強力な魔法を打ち破るのは、その術者を倒すか……

それ以上の力をもった術者に解いて貰うしかない。


私がとれる方法は、後者の方だ。


たしか、このゲームの攻略対象者に魔法使いがいたな。

名前は何だっけ……。


ぼんやりとしか思い出せない。


そこにリガロが紅茶とクロックムッシュを持って入ってきた。


「お嬢様、少し休憩なされはいかがですか?

おふくろがお嬢様にと作ったので食べてください」


食べ物のいい香りをかいだら、急にお腹がへってきた。


「ありがとうリガロ、いただくわ。

後でダリアさんにもお礼を言っておいて」


「はい」


ヴァイオレットは、思いっきりクロックムッシュに齧り付いた。


「お嬢様、そのままでよろしいので聞いてください。

明日の“ブロムベルグ”様のご予約なのですが……

少しお風邪を召したとの事で、キャンセルをお願いしたいと

おつきの方から連絡がきたのですが」


そう言って、少し困ったように眉尻をさげた。


「ですが?」


「はい、どうしてもこちらにお越しになりたいと

言ってきかないそうなのです。

なので、もし可能ならば家の方に来てくれないかと……」


「…………」


本当にリガロの事を気に入っているのだなぁ……。


美しき白虎さんっていつも呼んで、リガロ以外の人に

目もくれない程通ってくださっているし。


どうしようかしら……

確かにブロムベルグ様は、ご高齢の方だし無理はさせられない。


かなり常連のいいお客様だということもわかっている。

今後の為にもぜひお付き合いしたい方だ。


しかし一度このような、特例を作ってしまうと。

それが噂を呼び、うちもうちもとなったら困るな。


ヴァイオレットの脳裏にそんな考えが過った。


「いかがいたしましょうか。

ブロムベルグ様は、上得意さまですし」


そうよね……。


「ん?」


ちょっと待って、さっきからさらっと何回も言っているけど


あの高貴なお方!!

苗字がブロムベルグだよね!!


ブロムベルグって!!

あの攻略対象の魔術師の名前と一緒じゃない……。


フルバード=ブロムベルグだ!!

ようやく名前を思い出した。


確か代々魔術師を輩出していて、王家付きの超エリート一家。

先代は、確か稀代の魔術師だった気がする。


これは、チャンスかもしれない。


もし違っても、おそらく一族には違いない。

紹介してもらおう。


ヴァイオレットは、急遽フェリックスに新作のマカロンを

作るようにお願いした。


「リガロ、明日……

ブロムベルグ様のお見舞いに行くわよ」


「えっ?

よろしいのですか?」


リガロは驚いたように獣耳としっぽをピンと立てた。


「えぇ、お願いしたいことがあるの。

リガロ、マカロン以外でブロムベルグ様がお好きなものって

何かしら?」


ヴァイオレットは、食い気味にリガロに詰め寄った。




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