41.きっかけ
父様達に無事に再会できた!!
ヴァイオレットの喜びもひとしおだった。
義母も思ったよりも元気で……
獣人の子供たちを膝に乗せ、絵本を読んであげていた。
(以外に子煩悩な方だったんだな……)
想像以上にこの村に溶け込んでいた。
安堵したのも束の間で……
その後に父様から聞いた話の内容はかなり衝撃的であった。
父様達が隣国へと入る直前の事だ。
渓谷の道を馬車で走っていたら、隊商だろうか……
2台の馬車が脱輪の為に立ち往生していたらしい。
そこで父様達は、その隊商を助けるために馬車を止めて
手を貸すことにした。
その人は恰幅がよく、人のよさそうな顔をした商人だった。
他に男たちが3人ほど付き添っていた。
隣国へ商品を届ける途中だと話した。
宝飾品などを主に扱っていると言っていたが
どうも何か生き物のような鳴き声がした。
気になったので、周りの景色を見物するふりをして
後ろの荷台の中をそっと覗くと……
ちょうど傷だらけの梟獣人の少年が馬車から転げ落ちてきた。
無理やり鎖を引きちぎったのか血まみれだった。
少年は父の姿をみて青ざめて後ずさりをしたらしい。
それに気がついた下男の1人がムチを持って
血走った眼をしながら怒鳴り散らしてきた。
「お前……なぜここにいる!早く中に戻れ!
旦那……すみません見苦しいものをみせちまって」
そう言ってへこへこお辞儀をしながらもその少年を捕まえようと
鞭を振いそうになった。
「ちょっと待て……。
このこをどうするつもりだ」
父様はその少年を後ろに庇いながらそう問うた。
その頃には父様の従者も駆けつけていた。
それはジャンの兄である“ブレン”だった。
実質上、父様の右腕であり護衛騎士だった。
庇われた少年は戸惑っていたが、ぎゅっと父様の足に
しがみついていたそうだ。
「何って異なことをおっしゃる。
商品ですよ、そいつらは……お貴族さまならわかるでしょう」
そう言って男はいやらしく笑った。
騒ぎを聞きつけたのか……
商人もやってきて信じられない事を口にした。
「おやおやこれは……
助けて頂いたお礼に隣国に持ち込む前にあなた様に
特別にお譲りしてもよろしいですよ、おい」
そう言って下男に目配せをして荷台の布をはずさせた。
そこには、檻に入れられた鳥獣人の少年2人と幼い少女が2人。
更に狼の少年2人と少女が1人入れられていた。
父様達は言葉を失った。
「なんて卑劣な……」
父様は怒りのあまり魔法を発動させて檻を壊した。
そのまま隷属の首輪にも魔力を流してショートさせた。
「お貴族様!!なんてことをするのです。
大事な商品なんですよ」
商人は人が変わったように父様に詰め寄ろうとしたが
ブレンに切り伏せられた。
他の者も父様の残りの護衛にすべて捉えられていた。
その間に父様は獣人達に言った。
「今のうちに逃げなさい」
獣人達は急な出来事に固まっていたが……
一番年上と思われる狼獣人の少年を中心に一目散に逃げた。
さすが獣人と言うべきか……
人では絶対に飛べないであろう反対の崖に全員避難した。
「なんてひどい連中だ……。
他の商品もすべてご禁制品でしたよ……」
ブレンがそう言って顔を顰めた。
「残りの連中は、国境の村に送って裁きを受けてもらおう。
誰か知らせに言ってくれないか?」
そう言って父様が残りの護衛に声を掛けると
その中の1人の若い護衛が信じられない言葉を吐いた。
その男は王家から派遣されていた新しい護衛騎士だった。
「その必要はありませんよ……。
ちょうどいいお膳立てが揃いました」
そう言って、残りの商人達の下男を全員切って殺した。
「お前……何をしたんだ?」
父様が怒りの為に魔術を発動させようと構えたが……
男は嘲笑をこめて口元を歪ませた。
「奥様の為にも大人しくしてください」
「あなた……」
その男の後ろには、女性の護衛が自分の妻の首元に
ナイフを突きつけている姿が見えた。
「どういうつもりだ……」
「あるお方からあなた達の暗殺依頼を受けましてね。
このまま隣国に行ってから消息不明になって頂く予定でしたが
ちょうどいい機会が訪れましたので……」
そう言って男は、レナルドと義母とブレンの手に
魔法を発動できない魔具をつけて崖まで追い詰めた。
「あなたたちは、この道で盗賊に襲われて命を散らしたと
いう筋書きになります」
男は狂気に満ちた表情を浮かべ楽しそうに笑った。
「一体なぜこんなことを……」
「さぁ……詳しい事は知りませんが
あなた達が生きていると都合が悪い方がいるのでしょう。
この国は変わりますよ……ククク……。
まず手始めにあなた達……いや違うな王子と側近だったかな」
「なんだと!」
「おっとおしゃべりが過ぎました。
まぁ……その目で国が変わりゆく様を見られない事が残念ですね。
では、そろそろ終わりにしましょうか」
男は言い終えるとに3人を崖から突き落とそうとした……。
が……その男はその前にこと切れた。
「…………!!」
なぜなら……
その男の後ろには狼獣人が爪を血に濡らし立っていたからだ。
「君は……」
目の前の出来事にあんぐりと口をあけたまま視線をなげると
そこには先ほど逃がしたはずの狼獣人の少年がいた。
「オオーン……ワォーーーン」
たくさんの狼の遠吠えが聞こえてくる。
そしてどこからともなく大人の獣人がやってきた。
数人の狼獣人と鷲獣人だった。
「子供達を助けてくれたそうだな、礼を言う。
今度は俺たちがあなた達を助けます」
そう言って、事故の偽装工作を行ってくれた上に
自分たちの村に匿ってくれて、今現在に至るという事だった。
「何か恐ろしい事が起ころうとしているのですね」
ヴァイオレットはギュッと父様の手を握った。
「あぁ、恐らくこの国の力を持った誰かが……
隣国と手を組んでよからぬ事を企んでいることは
間違いないだろう」
レナルドは忌々し気な顔をした。
「お兄様もやはりその件で巻き込まれたと考えていますか?」
「あぁ……」
今度は苦渋にみちた表情を浮かべた。
「最近……
この付近で年若い獣人が行方不明になる事件が増えています
恐らく隣国へと連れ去られているようです」
アードラは怒りの籠った静かな声でそう言った。
「何故そのような事をする必要があるのですか?」
ヴァイオレットがそう言うと
今度はレナルドが言いにくそうに呟いた。
「おそらく戦争の兵器として使うためだよ。
獣人はあらゆる能力に秀でているからね……」
「それならばなぜ抵抗しないのですか」
「まだ子供のうちは力が弱いんだよ。
だから幼い者を攫って、魔具をつけて従わせるんだ」
ディアークが冷たい声で淡々と語った。
「信じられない……」
ヴァイオレットはなんとか動揺を収めようとしていたが
その後のディアークの言葉に更に衝撃を受けた。
「しかもそれをかなり上位の貴族が後押しをしているんだ」
(この国は終わっているわ……)
「かなりの速度でその計画を進めるために力があり
常識的で潔癖なレナルド様が邪魔になったのでしょう」
ヴァイオレットは唖然とした。
言葉が出てこなかった……許容範囲を超えている!!
かなり上位の貴族……
もしくは王族の誰かの陰謀なのかもしれないな。
早くなんとかしてお兄様の消息を掴まないと……。
自分が知っている世界ではもうないかもしれないが
ここが私の生きる場所なのだ。
ヴァイオレットは自分ができる戦いの方法でいこうと
改めて腹を括った。




