40.会いたかった……
ヴァイオレットは道なき道を進んでいた。
前にはディアーク、そして後ろにはフェリックスが続いた。
先日ディアークからもたらされた両親の生存情報。
今日はそれをこの目で確かめに行くのだ。
相手方の条件は、最低人数で来ること。
けっして場所を悟られない事だ。
この条件を破ったら二度と会ってはくれないだろう。
まだ日が昇らないうちから行動を開始した。
慎重に3人は約束の場所へと向かっていた。
森の中をぐるぐると歩き……
川を越えて……また森の中へと入った。
「こう歩きまわらせられると方向感覚が狂うな」
獣人の彼らでさえちょっぴり辟易している様子だった。
「確かにな、この地図がないと確実に遭難する」
かなり慎重な相手のようだ。
そしてしばらく歩いて行くと、大きな樹木の所にでた。
恐らく樹齢100年以上は経っているだろう。
「ふぁ……凄いおおきな木ねぇ……
精霊とかが宿っていそうだわ……とても綺麗な空気が流れている」
ヴァイオレットは見上げながら感嘆の声を上げた。
「あんた……人間なのになかなかいい感性してるな」
木の上からそのような言葉と共に、1人の青年が降ってきた。
見たところ梟獣人の男だった。
背中には立派な茶色の羽がついていた。
「久しぶりだな、ディアーク」
「おう」
二人は知り合いのようだ。
なんだか嬉しそうに拳を交わしている。
そしてヴァイオレット達に気がつくと
梟獣人は2人を上から下まで見た。
(めちゃくちゃみられてる……)
梟獣人は薄っすらと微笑みを浮かべると
「ついてきな」
そう言って男はなんと大きな木の幹の部分に飛び込んだ。
「えっ!?」
まさかそこが通り抜けできる部分だと認識していなかったので
ヴァイオレットは一瞬躊躇した。
しかしディアークは何も疑問を持たず飛び込んだ。
「どうした、お嬢……怖いのか?
俺が抱いていってやろうか?」
半分揶揄う様にフェリックスは両手を広げた。
「うぅ……」
ヴァイオレットは唸りながら目をしろくろさせていた。
「ぷ……なんちゅう顔をしてるんだ」
「だって、普通木の幹は通り抜けできる部分じゃないでしょう?
だから頭ではわかっていても体がついていかないの」
半分切れ気味で叫んだ。
埒があかないと思ったのだろう
フェリックスはひょいとヴァイオレットを横抱きにすると
そのまま木の幹に飛び込んだ。
(ひぃぇぇぇぇぇ……わかっていても怖い)
ヴァイオレットは思わず目をぎゅっとつぶり
フェリックスの服が伸びるのではないかくらいきつく握りしめた。
時間にしたら数十秒だろう……。
フェリックスが地面に着地した音が聞こえた。
「お嬢……着いたぞ」
おそるおそる目を開けると……
そこには村が広がっていた。
「村……?」
目の前にはニヤついたディアークと梟の獣人がいた。
「お嬢はやっぱりまだまだおこちゃまだな」
「ディアーク!!」
ヴァイオレットは拗ねたように頬を膨らませた。
「長が待ってる、こっちだ」
男は村の中心に向かって歩き出した。
至る所に木で作られたログハウスのようなものが建っていた。
何故かどの家も地面からかなり高い所にあった。
いちおう入り口のところまで梯子のようなものが掛けられている。
が、見ている限りでは、住人たちはそのまま飛行して
家の中へと入っているようだった。
(高床式倉庫みたいだな……。
ここは鳥種族の住人の村かな……?)
あらゆる鳥獣人が空を飛行していた。
しかも何故か全員歓迎ムードだ。
目が合うたびに優しく微笑んでくれている。
不思議な気分だ……
この国ではあまりお目にかかれない光景だった。
ヴァイオレットはその疑問の答えを後程知ることになる。
村の中心にひときわ大きいログハウスがあった。
屋根の上には大きな色とりどりの羽が飾ってあり
建物自体も緻密な図柄が彫られ、ひときわ豪華な建物だった。
もちろんかなり高い位置に入り口はある……。
(この梯子を上っていくのは正直怖い……
というか無理!!)
ヴァイオレットは何を隠そう高所恐怖症だった。
「お嬢様、失礼します」
そういうと梟獣人の青年は、ヴァイオレットを横抱きにして
そのままポーンと軽く飛んだ。
「ひゃ……」
驚く間もなく、扉の前に着地した。
ディアーク達は自力で梯子を登ってきたようだった。
そのまま3人は促されるように建物の中に入ると
部屋の中心に年老いた鷲獣人のご夫妻が座っていた。
「ようこそおいでなすった。
まぁ……座ってお茶でも飲みなさい……」
そう言って、暖かい花の香りがする飲み物を振舞ってくれた。
その間にもヴァイオレットは両親の事が気になり
ソワソワしていた。
しかしいきなりその話を切り出すのは無作法だ。
はやる気持ちを抑えながらお茶を頂いていた。
「さて……お嬢さん方……
わしはこの村の長の“アードラ”だ。
そしてこちらが妻の“ラーラ”」
「ヴァイオレットと申します。
このような機会を作ってくださりありがとうございます」
ヴァイオレットは綺麗なカテーシーをしながら挨拶を返した。
「さて……あなた方はどこまで知っておられるかな?」
そう言って鋭い猛禽類の目が心の奥を見透かすように光った。
「正直申し上げます。
何も知らないのです……
今……何が起きているのか、もしくは起きようとしているのか
私自身なぜこのような事になったのかわかりません」
ヴァイオレットは困ったように眉尻を下げた。
「そうか……。
ではもう1つ……後ろに控えているトラ獣人とクマ獣人は
あなたにとってどういうものですか?」
(いきなりなに?
藪から棒に何をきいてくるのだろう……)
「…………。
そうですね、フェリックス達は私にとって“家族”です」
「…………」
そこにいた獣人達が全員息をのんだ。
「種族が違うのに家族ですか?
番でもないのに家族なのですか?」
アードラ達は信じられないようなものを見る目で
ヴァイオレットを見つめていた。
「確かにそういう意味では本当の家族ではないのかもしれませんが
それくらい私にとっては大事な人達なのです。
そこに種族などは関係ありません」
ヴァイオレットはきっぱりとそう言った。
「なるほど……
あなたは間違いなくレナルド殿のお子さんですな」
そう言ってアードラは豪快に笑った。
「今……なんとおっしゃいましたか」
ヴァイオレットは震える声で聞きなおした。
すると部屋の奥からその人は現れた。
少しやつれてはいるが、ちゃんとその人は存在していた。
「父様……」
ヴァイオレットはよろけながらも立ち上がって
その人の元に必死に足を進めた。
「ヴァイオレット……」
レナルドも娘の姿をみて泣き出しそうな顔をしていた。
「父様……父……さ……ま…………っ」
そのまま胸へと飛び込んだ。
(本当に生きていた……)
「心配したんだから…………っ」
娘の震えた涙のにじむ声をきいて堪らなくなったのだろう。
「すまない……」
ヴァイオレットの背に腕をまわしてきつく抱きしめた。
しばらく二人はそのままお互いの無事を噛み締めていたが
ディアークの遠慮がちな咳払いがきこえた。
二人はハッとして顔をあげた。
「ごめんなさい……」
「いや……親子の再会に水を差して悪いんだが
話を進めなくてはならないからな」
ディアークは申し訳なさそうに獣耳をペタンとさげた。




