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39.一筋の光

周りのお屋敷や近くの商店の皆さんへの挨拶周りも済んだし……

食材の発注も完璧と……。


ヴァイオレットは、来週から始まる“執事喫茶”への準備に

余念がなかった。


そんな折に、ディアークが久しぶりに訪ねてきた。


「お嬢、今いいか?」


「久しぶりね、ディアーク。

ダリアさんならキッチンでランチの用意をしているはずだけど」


「いや、今日はあんたに話があってきた」


神妙な面持ちだったので、ヴァイオレットは目でソファーに

座る様に促した。


そこに偶然リガロが執事服姿でやってきた。


「お嬢様……苺の発注の件なのですが……

って……親父!?」


まさか自分の父親がそこにいるとは思わなかったので

その姿を見て一瞬にして固まった。


「よぉ……色男……元気そうだな。

白い執事服が映えてるじゃねぇか」


リガロの姿をみてディアークはにやにやとした笑みを深めた。


「なっ……」


完全に面白がっているディアークの口調にリガロが狼狽えると

ますます楽しげに口角をあげた。


「お嬢様もメロメロになっちまうくらい男をあげたな」


「くっ……」


リガロはぐっと眉間にしわをよせた。


「その辺にしておいてあげて」


ヴァイオレットはディアークを窘めるように言った。


「わりぃ……ついな、息子が可愛くて」


「けっ……」


未だに納得をしていない様子だったがひとまずこの話は終了だ。


もちろんディアークもその空気をよんで

うって変わってまじめな顔でヴァイオレットに向き直った。


「話の腰を折っちまったな……すまねぇ。

今日はお嬢に大事に話があってきた。

ご両親の事だ……」


「えっ…………」


両親の事だと言われた瞬間から……

ヴァイオレットはあっという間に落ち着きがなくなり

ためらいがちな眼差しをディアークにむけた。


そして震える声で言った。


「何かわかったの……?」


覚悟を決めたようにぎゅっと両手を握った。


「あぁ……」


「っ……」


ヴァイオレットはかすかに息をのんだ。


聞きたいのに聞きたくない……

真実を知るのが怖かった。


ヴァイオレットの瞳が動揺に揺れていた。


そんな時、ヴァイオレットの横にすっとリガロが座った。

そしてそっとヴァイオレットの手を自分の両手で優しく包んだ。


「リガロ……」


ヴァイオレットは驚いたように金色の瞳を見張ったが

その後安心したように笑顔をこぼした。


リガロは力強く頷いた後、柔らかく目を細めた。


そんな二人の様子にディアークは心底驚いていたが

やがて温かい目でそのやりとりを見つめていた。


(あの人間嫌いのあいつがここまでなるとは……

無自覚かも知れないが……

これはひょっとするとそうかもな……)


種族がどうとか身分がどうとか俺は言わない。

そんな事は周りが決める事じゃない。


最後は本人達の気持ちだからだ。


そんなくだらねぇ事で壊れてしまう関係なら

それくらいの拙いものだったという事だからな。


二人の行く末を祝福したい気持ちとちょっぴり心配でもある

親心を密かにみせるディアークだった。



リガロに守られて少し落ち着いたのだろう。

ヴァイオレットは一気に顔を引き締めて言った。


「教えてちょうだい」


「まだ俺自身がこの目で確認していないが……。

結論から言う。

お嬢の両親は生きている」


「…………!!」


(生きている……父様達は生きている……)


その事実に涙が目尻から零れて、頬を伝わった。


「ある種族に匿われているらしい」


「………匿われて……いる?」


予想だにしない答えに少し戸惑った。


それでも嬉しさに涙があふれて止まらなかったが

落ち着かせようと息をつく。


そんなヴァイオレットを気遣って肩を優しく抱いてくれる

リガロのお陰でより冷静になることができた。


「わざと亡くなった事にしているという事かしら」


「あぁ、そうだ。

だから今まで見つからないでこられたのだろう。

つまり生きていたらまた命を狙われるという事だ」


「まさか……そんなことが……」


ディアークも顔を顰めながら更に話を続けた。


「どうやら、かなりの思惑がこの件には絡んでいるようだな。

全面的にはまだぼんやりとしか見えてこないが……

恐らく隣国ともつながっている」


(隣国の絡んだ案件……)


ヴァイオレットの脳裏に兄の姿が浮かんだ。


「お兄様……!!」


「兄ちゃんも巻き込まれたに違いない……。

残念ながらそっちの方はまだなにも掴んでいない」


嬉しかった気持ちが急に萎んでいくようだった。


「近いうちに両親かどうか確認に行こうと思う。

で、お嬢も同行するか?

ここまで話しておいて申し訳ないが、100%両親だとは

約束できないが……」


ディアークは申し訳なさそうに獣耳をさげた。


「覚悟はできています。

是非同行させて頂きます……」


「わかった、また詳しい事は決まったら連絡する」


「ありがとうございました」


ディアークの前には、年相応の少女が映っていた。


今までは随分頼もしい大人びた少女だと思っていたが

今は消えて無くなりそうなくらい儚い少女がいた。


思わず慰めようと手を出したときに……

信じられないくらい強いプレッシャーがふってきた。


その男は全力で少女を守っていた。

その役目はおまえじゃない、俺だと全身で言っていた。


(いっちょ前に威嚇してきたか……)


ディアークは嬉しそうに口角をあげた。


「あとは任せたぞ、色男!」


そう揶揄う様に言って、リガロの肩をそっと叩いた。




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