プロローグ
世界は、神によって創られた。
少なくとも、人々はそう信じていた。
風は神の吐息から生まれ、山は神の骨から隆起し、空を巡る星々は神の瞳の欠片だと語り継がれてきた。
人は神を敬い、祈り、供物を捧げた。
ある日、神は祈りに応えた。
それは祝福ではなかった。
天は裂け、海は沸騰し、大地は悲鳴を上げた。
神はただ、自らの気まぐれによって世界を壊し始めた。
人の生きる世界は地震に、津波に、竜巻に呑まれ、火と水と風の中に消えた。
何百万、何千万もの命も。
人々は許しを乞い、怒りの理由を尋ねた。
しかし神は答えなかった。
神にとって人類とは、慈しむべき子ではなかった。箱庭に蠢く有象無象に過ぎなかった。
絶望の時代が訪れた。
永きにわたって積み上げてきた文明は崩壊し、知識は失われ、生きるも死ぬもただ神の機嫌に翻弄されるだけだった。
それでも。
人は滅びなかった。
人は学んだ。
神の雷を観測し、その法則を記録した。
神の炎を分析し、その構造を解き明かした。
破壊された都市の瓦礫から新たな機械を生み出した。
そして気づいた。
神もまた、この世界の法則の中に存在している。
それは人と同じということだ。
千年の研究。
千年の失敗。
千年の犠牲。
無数の英雄と天才たちの屍の上に、人はついに一つの結論へ辿り着いた。
――神は殺せる。
それは冒涜か、あるいは狂気か。
不可能への挑戦なのか。
だが人は不可能を乗り越えるために前に進んできた。
海の向こうに陸があれば舟を作った。
山があれば乗り越えてきた。
空の雲の上にたどり着く翼を生み出した。
ならば神の位置にも手を届かせよう。
祈りではなく。信仰ではなく。人の手をもって。人の持つすべてを賭けて。
歴史を。
知恵を。
勇気を。
憎しみを。
愛を。
命を。
人が積み上げてきた、そのすべてを荒ぶる神へ叩きつけるために。
その日、世界中の空が紅く染まった。
終末を告げる神の降臨。
そして同時に、人と神との戦いが始まる。
後に歴史書は、この瞬間をこう記す。
「神代終焉戦争、開戦」
――これは、人が持てる力のすべてを賭けた神への挑戦の物語である。




