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【完結】あざ顔女官の宮廷アロマテラピー〜鋼鉄の皇太子を香りで骨抜きにしました〜  作者: あまNatu


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芽生えた変化

 急ぎ杖刑の元へと向かった白龍が見たのは、磔にされた香華の姿だった。

 両手を縛られ力なく倒れ込む香華の足元には、真っ赤な血が滴っている。

 それを見た白龍は、怒りで頭が真っ白になった。

 力を入れすぎてぶるぶると震える拳を握りしめ、白龍は香華の元へと向かう。

 顔は紙のように白く、抱き上げた体は氷のように冷たい。

 その感覚に背筋がゾッと震え、白龍は一瞬固まってしまう。

 腕の中にいる香華が、まるで人ではないかのように感じたのだ。

 いつも自分の不調を癒してくれる優しくもあたたかな手が、まるで無機質の人形のように感じられる。

 その光景があまりにも恐ろしくて、白龍は動けなくなってしまった。


「香華! ――香華! 起きて! こうかぁ!」


 だがそれも一瞬。

 隣で同じように香華の手を握る女官―美琳―のおかげで、すぐに意識を戻すことができた。

 今は呆けている場合ではない。

 一刻も早く香華の治療をしなくては。

 彼女を抱き抱え立ち上がった白龍の元に、慌てた様子の艶虎がやってきた。


「皇太子殿下! な、なぜこちらに?」


「なぜ? ……なぜだって?」


 白龍は香華を抱き抱えたまま、艶虎を冷たい目で射抜いた。


「香華は陛下から皇太子の治療を任されたんだ。そんな人間にこの仕打ち……。君こそわかっているのかい?」


 白龍の言葉に、艶虎は徐々に顔を青ざめさせる。


「こ、香華は私の女官です! ならば躾けるのは主人である私の……」


「君は皇帝陛下の気遣いを無碍にするところだったんだよ。僕が聞いてるのはそこだ。君のことなんてどうでもいい」


「……どうでも、いい? 私は……どうでもいい……と?」


 艶虎は瞳に涙を浮かべた。

 絶望の表情をする艶虎に、白龍は静かに告げる。


「――君は、昔から変わらないね」


「…………」


 大きく見開かれた艶虎の目を見つめたあと、もう用はないと白龍はその場を後にする。

 今はなによりも香華を治療しなくては。

 白龍はついてきていた護衛の一人に、声をかけた。


「誰でもいい。急ぎ凰輝を連れてきてくれ」


「かしこまりました」


 護衛が凰輝を呼びに行ったのを確認して、白龍はさらに足を早めた。

 凰輝の鳳凰なら、香華の傷も癒せるはず。

 だからきっと大丈夫。

 そう思うのに、一秒でも早くと足を止めることができなかったのだ。

 とにかく早くと足を進め、白龍が自らの住まいにたどりついた時には、凰輝が鳳凰を出して待っていた。


「殿下!」


「凰輝! 香華を治してくれ――!」


「もちろんです! こちらに!」


 いつも自分が寝るベッドへと香華を寝かせた。

 すぐに凰輝が鳳凰を使い、黄金色の粒子に香華の体が包まれる。

 青ざめた唇は微動だにせず、指先もピクリとも動かない。

 白龍は香華の隣に立ち声をかけ続けた。


「香華! 目を覚ましてくれ! 香華……!」


 すると追いかけてきたのだろう美琳も、香華の手を掴みながら涙を流し叫んだ。


「お願い香華! 目を開けて……! あたしまだ、あなたに恩返しできてない――!」


「目を開けてくれ! 香華……っ!」


 なんどもなんども声をかける。

 目覚めないなんてありえない。

 そんなこと許せるはずがない。

 香華は必ず目を覚まして、また、微笑んでくれるはずだ。


 ――あの、春に咲く花のように美しい笑みを……。


「――香華!」


 その時だ。

 香華の長いまつ毛がピクリと動いた。

 ゆっくりと開かれた瞳は、涙の膜をはりゆらゆらと揺れていた。


「……香華……。よかった、目が覚めたんだね」


「……わ、たし……」


「喋らなくていい。もう大丈夫だから。ね?」


 まだ意識が混濁しているのか、うつらとろりとしている。

 話し声に覇気がないことから、白龍は香華を眠らせることにした。

 大丈夫、大丈夫と声をかけ続ければ、香華は安心したのかゆっくりと瞳を閉じる。


「……ゆめ、みてるのかと……思いました……」


「夢?」


「でんかが……たすけにきてくださる……ゆめ」


「…………助けにきたよ。だからもう大丈夫」


 優しく頭を撫でてあげれば、それが心地よかったのか香華の口元が綻ぶ。


「つごうのいい……ゆめ。でも、ほんとうなら……うれしい……」


 どうやら夢の続きを見ていると思っているようだ。

 全て事実なのだが、それがわかるのは次、目が覚めた時だろう。


「大丈夫。もうつらいことはないからね」


「……いいかおり。でんかの、かおり……。すき……」


 今度こそ眠りに落ちたのか、香華は喋らなくなった。

 傷は凰輝が治してくれたため、心配しなくていいだろう。

 だから今は少しでも寝て、体力を回復することに努めてほしい。


 ――しかし。


「……………………あれ?」


 白龍はなんだか顔が熱くなるのを感じた。

 のぼせた時のような感覚を覚え、ぱちくりと瞬きを繰り返す。

 別に変なことはなに一つない。

 そう、そうに決まっているのに。

 どうして胸が、ドキドキするのだろうか?

 己の中に芽生えた変化にどうしていいかわからずにいると、そんな白龍を見て凰輝と美琳がにやりと笑った。


「おやおやぁ? これはなんとも楽しそうなことになってますなぁ……!」


「なんておいしい展開! 最高です、殿下!」


「わけわからないけどとりあえずうるさい!」

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