第八十七話 ご実家かも知れなかった
今朝は投稿に失敗してしまい、申し訳ありませんでした。
「ドルイド……?」
「森呪使いって言うんだけど、知らない? 精霊や獣を使役したり、風や光、水に火なんかの魔法も使うんだけど」
どちらも、覚えのない言葉ではあるが……。
「なんか、テイマーさんや魔術師さんが混ざった感じですね」
「いろいろ包括してるところはあるけど、どれも特徴としては、自然の力を使う感じ。その子の精霊を使役してって言うのは、ドルイドが使うスキルの一つだから」
そうなのか。オリヴィアさんは森呪使い……頭を悩ませているうち、ヴィネッサさんはさらに新たな情報を投下してきた。
「そういえば、中央のほうのキャンベル家は、もともと源流がそっちだって聴いたことがあるけど」
「有名な家なんですか」
「吟遊詩人を多く輩出してる、有力な家系のうちの一つだね。もう亡くなられてるんだけど、今の当主の母にあたるオーブリーさんっていう人は結構有名だったよ?」
「どんな方だったんでしょうか」
ヴィネッサさんは、少し首を捻り斜め上を見上げた。
「うーん、私も直接見たことはないんだけど、ハープを使う綺麗な銀髪の人だったって。もっとも、今のキャンベル家は当主の方針で、大半が急速にその流れから離れてるけど。おかげで、すっかり立派な宮廷音楽家って感じかな」
ハープを使う、綺麗な銀髪。そのオーブリーさんって人、なんだかオリヴィアさんの特徴と少し被るな……。
「ねえ、その子っていくつ?」
「十六歳だそうです」
「ふぅん、つまり、だいたい君と同じぐらいか……ならたしか……」
どこか含むものを感じ、顔を上げる。ヴィネッサさんは、パッと表情を明るくし、少し腰を捻りながら大きな胸を持ち上げて見せた。
「その子も、こんなふうにおっぱい大きいでしょ!」
「な、なにしてんですかっ、声も大きいしっ」
「いいじゃん、減るもんでもないんだし」
人目が大いに集まっているというのに、ヴィネッサさんはお構い無しだ。
「ジョージくん、絶対おっぱい好きだからなー。アンナさんやエマさんのも含めて、意識してるのバレバレだよ? そのオーブリーさんも、絵でしか見たことないけど結構おっきかったし」
いや、絵なんか基本誇張して描いて貰うものでしょ。宣材写真だって、フォトショとやらで弄ってると聞くし。
でもその人も巨乳なら、ますますオリヴィアさんと繋がるんなよなーーって、そんなこと考えてる場合じゃなくっ。
「で、どうなの? おっきいの?」
「そ、その、よくわかんないっす」
濁したつもりが、ヴィネッサさんは大きな目をさらに見開いた。
「おっ、これは触ったことある感じか!」
「な、ないっすけどっ」
ないけど、思い返すと接触自体は結構してるのだ。
当然、試験中のことではない。あのときは文字通り必死過ぎて、そんな煩悩が思考に介在する余地などなかった。
とは言うものの、オリヴィアさんが退院した日の病室で起きたことに関しては……正直悶々としてしまうときもある。
二十も半ばが十六才を意識など、他人事なら間違いなく引く。いくら彼女の見た目が大人びて色気もあろうと、所詮通っているなら高一の年齢。間違いなく事案なのだ。
なのに、その内面が羊や子犬と知ってもなお気になるのだから、始末に置けない。我がことながら、不思議だなあ……。
「ほらほら、触っていいからさ、どっちが大きいか教えてよ」
「や、やめて下さいってばっ。手を離してーー」
ちょうどそのとき、ギルドのドアが開く。そして、入ってきた何人かの会話も、こちらへ届いてきた。
「今日はオリヴィアのおかげで早く上がれたわね」
「そ、そんな。いつも足を引っ張ってしまっているのに……今日もようやく、私なんかでも人並みにできるお仕事が回ってきただけで……」
「まったく、褒められてるんだから素直に受け取る! アンタはアンタでやれることやったらいいのよ!」
「でも最近元気そうでよかったよ。この前元気なくて、ボクらもちょっと心配してたから」
「す、すいません。でも、もう大丈夫ですっ。こ、この前、ジョージさんとお話ししてーージョージ、さん……?」
語気を強めていたオリヴィアさんの元気が、みるみるうちに萎んでいく。ちょうど僕の手が、ヴィネッサさんの胸に触れかけの状態で。
空気が凍るとは、こんな状況のことを言うのか。できることなら、知らないまま。穏やかに生涯を終えたかったなあ。
「あれ、ひょっとしてジョージくんの……?」
ヴィネッサさんの目が、みんなのほうを向く。オリヴィアさんの姿を瞳に映す時間が、少し長かった気がした。
「この間のがいなくなったと思ったら、また新しい女と……しかも、衆目の中で不埒なことを……ッ」
華奢な肩を怒らすクレアさんを制し、アリアさんが一歩前へ出てきた。
「ジョージ、そちらの女性は?」
表情は、いつもの素敵な微笑みそのままのはず。なのに、どうして背筋を悪寒が走るだろう……。
「ぼ、ボク先に報告済ませてくるね……」
「ちくしょう、なんでジョージばっかり綺麗どころと……」
気まずそうに場を離れるノエルさん。この状況では誤解も仕方ないとは言え、好き勝手なことを口にするみんな。
けれど、一番胸を締め付けられる思いになったのは、泣き笑いのような顔を僕に向けながら立ち尽くすオリヴィアさんの姿だった。
その後、騒ぎに戻ってきたエマさんに二人で叱られ、事情を察してくれたらしいアンナさんにこれまた二人で殴られることで、一応場は収まった、と思う。
宿への帰り道、僕は思いきって、オリヴィアさんに話しかけた。
「さ、さっきの人さ、討伐隊に加わってるうちの一人なんだ」
「そ、そうなんですか……」
一応目を合わせてくれてはいるが、その瞳は幽鬼が如く虚ろなものだった。
「う、うん。その、器用なうえに腕が立つと言うか、ええと……」
ああ、駄目だ。まともに言葉が出てこない。
「そうなんですか。綺麗な人でしたね……」
「あ、ああうん、まあ……吟遊詩人らしいんだけど、ときどき悪ふざけが過ぎる人でさーー」
「お前がはっきりしないのも悪いんだよ。男なら迷惑なときはハッキリ言えよバカ野郎」
ここでアンナさんから、拳骨とともに合いの手が入った。舌を少し噛んだが、正直助かる。
「アンナ、何もぶたなくたっていいでしょう」
「軽く撫でただけだろうが。いちいち言うな」
たしかに、アンナさんが本気を出したら僕の頭は体にめり込んでいることだろう。
心配そうに僕を見やるオリヴィアさんへ、手のひらを向け微笑む。笑みの形を返してはくれたが、やはりその表情はどこかぎこちないものだった。
先ほど会話した際の、ヴィネッサさんのあの雰囲気……オリヴィアさんの事情に、何か思い当たる節があったのだと思う。
元々はドルイドから派生したらしい宮廷音楽家のキャンベル家、銀髪……まだ情報は断片しか集まっていないが、まったくの偶然とは思い難い。
ふとポケットに手を入れたところ、紙の感触がある。
紙切れというには丁寧に折り畳まれたそれを取り出し開くと、中には女の人の文字でこう書かれていた。
『もしよかったら、今日の会話の続きをしない? 二人きりで話せるところがいいな。明後日の昼前ぐらいに広場で待ってます。ジョージくんのヴィネッサより』
人を食ったような誘いの手紙にざっと目を通すと、それをすぐポケットにしまう。
餌は、もちろんキャンベル家のことに関してだろう。やはりあの人は、オリヴィアさんのことで何か知っているのだ。
ドルイドとか吟遊詩人、精霊など、史実フィクション問わず目を通すと知らないことばかりでした。




