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第八十五話 モーションをかけはじめた

「お前、これ終わったらどうするんだ」


 アンナさんの言葉に、ヴィネッサさんは胡座のまま頬杖をつく。


「んー、どうしようか考えてるとこ。中央戻ってもいいんだけど、この流れで他の仕事をできたらな、とも思ってる」


「ヴィネッサさんほどの吟遊詩人であれば、皆さん、どこでも歓迎なさると思います」


 今回のレッドベア討伐。彼女のように一人でやって来ての参加は稀で、大抵はパーティー単位の参加となっている。


 ヴィネッサさんは戦闘の腕前だけでなく、人間性でもだいたいみんなと上手くやれている。合っていない人とも、嫌い合っているというわけではない。


『人に好かれる必要はないが、人に嫌われないようにする必要はある』


 とは、現在千葉に本拠地を構える野球チームで長年寮長などを務めた人物の言葉である。


 それができたうえで愛嬌のあるこの人なら、言葉の通じない国でもなんだかんだ生きて行けるのかも知れない。


 だからこその、エマさんの言葉だったのだろう。が、ここでヴィネッサさんは意外な言葉を返してきた。


「あはは、ありがとう。でもそれは、三人も同じなんじゃない?」


「どういうことでしょう?」


「例えばだけど、私がもしこの依頼が終わったあとも一緒に仕事をする相手を選べって言われたら、間違いなく三人は候補に入るね。前衛のアンナさんに中衛の私、回復職のエマさんに後衛のジョージくん。ほら、たった四人でも十分パーティーとして回していけるじゃない」


「まあ、役割としては一通りな」


 ヴィネッサさんは、アンナさんの肯定に嬉しそうな顔を見せる。


「そう言う三人はどうするの? レッドベアがいなくなったら、次の仕事は?」


「クマ公どもがいなくなったら、次は開拓村のほうだろうな」


「そうですね。荒らされた村を立て直すまでの護衛や警備が、次の主な依頼かと思われます」


 移住者を募って、もう一度田畑を開拓をして貰うのだろう。どの程度集まってくれるのかはさておき、毎日朝早くから農業に従事するという仕事は、間違いなく僕たちより重要なものだろう。彼らのためにも、頑張らなくては。


「そっか。それにしても、まだ冒険者になったばかりのジョージくんがFランクなのはともかく、なんで二人はまだDなの? BやCの私たちに、当たり前みたいに混ざってるのに」


「そりゃ、功績が足りてねぇからだろうな。まあ、今回のレッドベア討伐が終わればアタシもエマもCランク昇格だろうが」


 この言葉に、ヴィネッサさんはまるで我がことがごとく、もったいないなあ、と呟いた。


「私今Cランクだけど、Bに上がるまで結構かかる感じだよ? と言うか、もっと功績稼ぎやすい場所にいたなら今頃既にBだった可能性だって十分あるのに」


「Bって、こっちだとギャヴィン試験官もそうでしたよね」


 訊ねると、アンナさんは首だけ僕へ向けながら説明してくれた。


「あいつはまた別だ。Aランク昇格試験を受ける資格をもう少しで満たせるとこで、北マディソン(こっち)に引っ込んじまったからな。こんなランクはねぇが、言わばBプラスってとこか」


「誰それ、試験官? そんな人がここにいるの?」


「ジョージさんたちの冒険者試験で、試験官を務められた方です。現在は療養中ですが、以前は大いに活躍されていたようですよ」


 エマさんの言葉に、ヴィネッサさんは腕を組みながら先ほどよりさらに渋い顔を見せた。


「わかんないなあ。そこまで行ったなら、私ならAを取るけど。AとBじゃ、そのあとが全然違うよ」


「ハゲに似合わねぇ義理立てでもしてんだろ。ハゲもハゲだが、おっさんもおっさんだっての」


 ジェイコブ支部長への義理立て……もしかして、シャロリア様が現在領主を務めていることと、何か関係があるのだろうか。


「よくわからないけど……二人はどうなの? もっと上を目指そうとか」


「駆けずり回ってまで、無理にランクを上げようとは思わねぇな」


「私もこの街を気に入っていますし、離れてどこかで一から、というのは忍びないです」


 二人の答えは、ヴィネッサさんには受け入れ難い言葉のようだ。


「もったいないなー。冒険者なんかやってたら何があるかわからないんだから、上げれるうちにランクアップしといたほうがいいよ。ねえ、ジョージくん」


「え、俺ですか?」


 正直、まだ自分には他人事の思いで聞いていたので、思わず困惑してしまった。


「俺ですかって……ジョージくんだって、ちょっとピーキーなのを差し引く必要はあるだろうけど、それでも単純な火力は現時点で既にFどころかBランク級なんだよ?」


「この依頼が終われば、ジョージさんはEランクへ昇格なさるはずですよ。そのときは、みなさんでお祝いにしましょう」


「いや、お祝いはいいんだけどさ……」


 呆れた様子で言うヴィネッサさんへ、補足のつもりか提案も加えながら満面の笑みを浮かべるエマさん。この噛み合わなさ、なんともシュールだ。

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