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第八十一話 同期のみんなで食べた

誤字報告して下さった方、ありがとうございました!

「二人とも遅い! もう適当なの頼んじゃったわよ!」


「ありがとう、助かるよ」


「お、お礼を言われるようなことではないわ……ほら、さっさと座るっ」


 クレアさんにドヤされながら、僕とアリアさんも席に着く。


「いいかな」


「あ……はい、どうぞ」


 隅のほうにいたオリヴィアさんの隣に腰掛け、おそらくアルコールが入っているであろうジョッキを自分の前まで引き寄せる。


「すいません……気を使っていただいて」


「え、ああ、いやいや……」


 少し硬さが抜けた気はしても、やはりその表情は暗いままだ。


 仕事で失敗したあとなのだから当然だし、それでヘラヘラしてるような奴なんかよりは遥かに好感を持てる。


 けど……過大な罪悪感をナチュラルに持っていそうなこの人を見ると、なんだか辛い気持ちになる。


 魔道具とやらで冷したであろうお酒を軽く煽り、僕は彼女に話しかけた。


「まあ、その。少しずつだよ。俺だって、元いた場所でしてた仕事全然できなかったもん」


「でも……ジョージさんは、今ここで指名の依頼まで任されていますよね。自分もいつかそうなれるなんて、とても……」


「オリヴィアさん自体は、オリヴィアさんそのままでいいんだよ。少しずつ、知識や経験が溜まって、地力もついてやりたいことをできるようになるんだから」


「ジョージさん……」


 オリヴィアさんの目は、どこか不安げに見えた。やっぱり、僕が棚ぼたで今の役目についているせいで、説得力が足りていないのだろうか。


「まだ仕事をはじめたばかりの十六歳だろ? 上手くできないのが普通だよ。その中でだって個人差もあるし、得手不得手だって出てくる。でもその差だって、コツを掴んだり工夫することで、少しずつ埋まっていくものなんだ」


「あ、あのーー」


「俺の元いた国に、『女房はドーベルマン』って本を出した人がいるんだけどね」


「ど、ドーベルマンなんですかっ?」


「うん。その人が、『努力は裏切らないかわり、即効性もない』みたいなことを言ってたんだ。オリヴィアさんは今、人生で土を耕し根を生やす時期であって……」


 どうしよう。つい長々と自分ばかり話してしまった。当然、オリヴィアさんもちょっと引いているように見える。


「ご、ごめんね。普通聞き役になるところなのに、自分が話したいことばかり……」


「い、いえ。たぶん、お酒のせいだと思います」


「お酒……?」


「は、はい……真っ赤になって……あまり、飲まれない方なんですか?」


 言われてみると、たしかに火照る感覚がある。エマさんに禁じられていたせいで、すっかり弱くなってしまったのかも知れない……。


「あー……うん。ちょっとは強くなったと思ったんだけどな……この程度でか……」


 ガラスの内側でシュワシュワと音を立てる、精々アルコール度数五パーセント程度の液体を前に思わず溜め息が出た。


 別にオリヴィアさんの気持ちが楽になるなら格好悪くても構わないのだけれど、それと格好がまるでつかないのは別問題である。


「で、でも、とてもよい言葉だと思いました。奥さんがドーベルマンなのは、少し驚きましたけど……」


 まるっきりではないにせよ、やはり気を使われている……今の僕では、まだ役不足なのだろう。


「まあ、オリヴィアさんは吟遊詩人になる人だから、力仕事が苦手なのは仕方ないよ。梱包とか探し物をみんなから褒められてたし、俺不器用だから尊敬するな」


「そ、尊敬なんてしたら駄目ですよ。そんなことで……」


「駄目ってこともないでしょ。ちゃんと役に立ってる」


 どう受け止めたものか。そう言わんばかりに、オリヴィアさんは困惑の表情を浮かべる。


「少なくとも、チームというか仲間なんだからさ。そういうのを馴れ合いだって嫌う人もいるけど、実際長く良いサイクルで回ってくのは、持ちつ持たれつのとこだし。お互い様の精神って言うか」


 そう考えると、今の僕らはお互い恵まれたグループに属せているのだろう。それぞれ責任感のある上がいて、そこに気のいい奴らが集まっている。


 もちろん、それぞれ色々とあるのだろう。それでも内向的な僕からすれば、こういう居心地のいい空間はなかなか見つからなし、仮に見つけたところで入っても行けない。


「身内を頼ったり助けてもらうのは、全然悪いことじゃないよ。それはオリヴィアさんに、それだけの価値があるってことなんだから」


 目を向けると、やはりオリヴィアさんは、色んな感情が入り雑じった複雑そうな顔をしていた。こういう人だから、あのとき僕に同行し、危険を承知で庇ってくれたのかな。


「さあ、料理が来たわよ……って、なんでアンタ、そんなに真っ赤なの!?」


「あー、まあ……」


「さっきボクらと頼んだきりだよね……あまり減ってもないし」


 不思議そうな面々の中、珍しくアリアさんがからかうように言った。


「もしかして、オリヴィアから何か言われたの?」


「え、わ、私は何も。むしろ、ジョージさんが私に……」


 瞬間、茶化すときの変な歓声が上がった。


「ジョージがオリヴィアを落としにいったか!」


「びょ、病院のときも思ったけど、やっぱり……」


「ほ、本当なの!? 答えなさいよ!」


 詰め寄るクレアさんの持つジョッキの中身が顔にかかり、目に滲みてすぐに答えられない。


「い、いや違うから! 普通の、普通の話だから!」


「普通ってなによ! オリヴィア、何を話してたの!?」


「で、ですから普通の、その……」


 別に口説かれていたわけでもないのに、照れ臭くなったのかオリヴィアさんが言い澱む。その様子に、ますますクレアさんが興奮し、そんな彼女をみんなが囃し立てた。


 というかアリアさん、なんだって急に変なことを言い出したんだろう……まあ、オリヴィアさんも含めてみんな元気そうだから、いいけど。





 その日帰った僕は、先に宿で待っていたエマさんから、改めて禁酒令を言い渡された。


 僕と違いあの後もそれなりに飲んでいたオリヴィアさんは、まったくもってケロリとした顔だ。


 やっぱり外国人はザルである。案の定と言うか、クレアさんは弱かったけど。


「いろいろあったね……」


「は、はい……でも、楽しかったですね」


「オモチャにされちゃったけどね」


 僕の言葉を、彼女はおかしそうに笑った。


「そのうち、外に出られるようになったらの話ですけど、採取系の依頼を受けられたらと思うんです」


「あの、薬草とかキノコ類を採ってくる……?」


 すっきりとした表情で、オリヴィアさんは頷いた。


「はい。みんなで採って、も、もちろん力も必要なんですけど、吟遊詩人としても、役に立てたら……と……」


 最後だけ急に自信をなくす彼女に、僕は安心してもらいたくて笑顔を作った。


「オリヴィアさんがいるなら、絶対たくさん採れるよ。途中魔物と出くわしたら、それもお金になるし。そしたら、またみんなで終わってから食べよう」


「は、はいっ! 楽しみです!」


 自室に戻ってから、彼女の笑った顔を思い浮かべる。これでオリヴィアさんの不安が解消された、と思うほどは、さすがの僕も単純じゃない。


 それでも、あの子が何かあったとき、一人で抱え込ませたり、放置したり、突き放すことだけはしないようにするつもりだ。


 吟遊詩人としてモノになるのかはさておき、あの子はまだまだ若く、これからの人生がある人なのだ。他のみんなも含め、幸せになって欲しいのだ。


 飲んだにも関わらずなかなか寝つけない中、そのためにできることがあるなら、微力ながら力になりたいと思った。


 大人がいる理由は、本来下の世代を支えるためなのだから。

明日も更新できたら嬉しい。

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