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第八十話 人が増えてきた

 レッドベア討伐に参加する冒険者が、増えてきた。無論、高位の冒険者たちばかりだ。


 ときおり、役割をこなすべく動いた人が被ってしまうなど、連携や効率は多少落ちたかもしれない。


 それでも、戦いにおいて数の力というのは、島津のような一部の例外を除き勝敗の帰趨に大きく影響する。


 戦争でも、負ける国の特徴はエースパイロットが多いこと、なんて言葉があるぐらいだ。


 じり貧に陥る中、個々人の奮闘によりギリギリ回せていた歯車の一つが壊れ、そこから一気に崩れてしまう……などと言うことは、絶対に避けなければならない。


 今の僕らは、前線が複数になろうと以前より楽に対処できるようになったし、数に余裕があるぶん回復や補給も余裕を持って行える。


 そのぶん物資の消耗も増したが、シャロリア様は物流を一刻も早く元の水準へ戻したいとのご意向であった。


 まだ『モノをもっと大事に』というような注意もないし、この調子で問題ないのだろう。それよりも、早くレッドベアを駆逐しなくては。





 その日も街へ帰還し、ギルドへ戻って素材の売買をし、や物資の減り具合などをカミラさんへ報告する。


 何事も、上のレベルへ行くためには拘りが必要だ。高位の冒険者たちが集まったとなれば、お金のやり取りは大半の者が多くの時間を必要とする。


 もっとも、せっかく離れた土地に来た彼らからすれば、少しでも高い金が欲しいのは当然のことなのだろう。


 ましてや、命懸けで獲りに行った素材だ。多少血の気が多くなってしまうのも、仕方のないことなのかも知れない。


「おい! 同じような傷具合なのに、なんで俺が狩ったレッドベアはこんなに安いんだよ!」


「ですが、これでは加工して使うための部分に痛みが生じていてーー」


「ふざけるな! Bランクの冒険者がこんな糞田舎まで来てやったって言うのに買い叩こうって言うのかよ!」


「そのへんにしとけよ。出入り禁止になるぞ」


 肩を怒らせカミラさんへ詰め寄る彼を見かねた仲間たちが、仕方なさそうに割って入り仲裁をはじめた。


 あれを見ると、こっちへ来た初日のアンナさんが何の問題もないように見えてくる。


 それにしても、丸腰にも関わらず大柄な相手に一歩も引かないカミラさんは実に見事だ。怒鳴られようが煽られようが、まるでペースを崩さず淡々とクールに捌いていくのだから。


 なんだか、事務仕事を手伝ったときと全然違うなあ。仕事とプライベートで顔が違うなんて当たり前の話だけど、ちょっと格好いい。


 少し長く見すぎたろうか。視線の先のカミラさんは、僕に気づいたのかこちらへ目をやると、然り気無く挙げた手を振り、微かにながら温かな笑みを向けてきた。


 なるべく、照れた素振りを見せないように僕も振り返す。当然、彼女と違いスマートさなど欠片もない。


 いったい、僕とカミラさんでは何が違うのだろう。悲しいような嬉しいような、複雑な気持ちに耽っているとき、ギルドのドアが軋む。入ってきたのは、オリヴィアさんたちだった。


「おかえり、お疲れ様」


「ジョージ、戻ってたのね」


 そう笑顔で答えてくれるアリアさんの顔には、隠しきれない疲労の色があった。それぞれ他のメンバーも、くたびれた様子が見える。


 取り分け目を引いたのは、オリヴィアさんだ。単に疲れているというより、何やら憔悴のあとまである。いったい、何があったのだろう。


「じゃあ、報告してくるわ。ええと、人数分で割ると今回の報酬は……」


 向かいかけたアリアさんに向かい、オリヴィアさんがここへ来てからようやく口を開いた。


「あ、あの……私、今日はもらえません……」


「オリヴィア……もう、気にしなくていいから」


「で、でも、わ、私のせいで、遅くまでかかってしまって……」


「別に気にすんなよ。時間が決まってる依頼じゃなかったんだから」


 みんながオリヴィアさんに励ましと説得の言葉を投げ掛けている中、ボーイッシュな槍使いの子が僕に教えてくれた。


「今日はボクら溝浚いの仕事だったんだけど、ちょっとだけオリヴィアが失敗しちゃって……それで、気に病んじゃってるみたいなんだ」


 その最中も、オリヴィアさんの遠慮は続く。


「な、ならせめて、皆さんより額を少なくしていただかないと……ち、力仕事で、一番役に立たないのにーー」


「そんなことしたら、私たちだって貰いにくくなるじゃない。水臭いこと言うのやめなさいったら」


「ほら、昨日引っ越しの仕事したときに家具ぶつけて壁に傷つけたクレア様が言ってくれてるんだから、顔上げなって。な?」


「ちょ、ちょっとなに言ってるのよ! ここにはジョージもいるのに……」


 一人怒るクレアさんの後半が聞き取れないぐらい、みんなが笑い声を上げる。しかしオリヴィアさんの顔だけは、上手く笑えず悲壮さの抜けない表情であった。


「ほら、オリヴィアはその日の梱包で役に立ったし、なくしものを吟遊詩人の索敵範囲を広げるスキルで探してくれたじゃない」


「ボクら、あの大量発生を切り抜けて一緒に合格した仲間なんだからさ。あんまり一人で抱え込まないでよ。ね、ジョージもそう思うだろ?」


「うん。仲間なんだから、貸し借りとか抜きにいこうよ。オリヴィアさん、ね?」


 あちらの高位の方々と違い、喧嘩や言い争いになりそうな雰囲気はない。アリアさんが上手くまとめていることに加え、気のいい奴らがちょうど集まったこと。


 そして、あの難局をともに乗り切ったことで芽生えた絆のおかげなのだろう。ただ……オリヴィアさんにとってはその優しさが、余計に堪えるのかも知れない。


「じゃあ、報酬は山分け。それでいいわね?」


「……はい」


 俯いたままアリアさんへ返すと、そのまま彼女は唇を噛みほとんど黙り込んでしまった。


 これ以上、弱音を吐くことでみんなに気を使わせたくないのだろう。この人は、自己評価が低いにも関わらず、妙に自分に対する要求の水準が高い。それも、通常越えられないほどに、だ。


「みんな、奢るから何か飲まない? 俺もまだ報酬まで時間かかりそうだしさ」


「お、太っ腹! 食い物も頼んでいいのか?」


「もちろん。だいたい一人千ギルぐらいなら」


 御大尽! 御大尽! という声が飛び交うが、とくに問題はない。


 よしんば食べ過ぎる奴がいたとしても、指名依頼の報酬と投石で仕留めたレッドベアの素材売却代が総額を考えれば手付かず状態で残っているのだから。


 みんなが併設された酒場のテーブルに陣取り、口々に注文をはじめた中、僕は報酬を携えたアリアさんのほうへ向かった。


「奢るから、ちょっとみんなで食べてかない?」


「ありがとう。ここだけの話、あまり依頼の実入りがよくなくて……武器を損耗する依頼をなかなか受けられないぶん、そういう出費は抑えられているけど……」


 外に出るのが危険なぶん、本来低位や新人冒険者向けの依頼に対する倍率が高くなっているのかも知れない。


 また、街の人たちも余裕がなかったり、もしくはこちらの足元を見るなどしたことで、依頼者が報酬を引き下げているのかもわからなかった。


「レッドベア、だいぶ減ってきたからさ。もうすぐ外での依頼も受けられるようになるよ。それまで、これ使って」


「え、こ、こんなの貰えないわ……っ」


 この前報酬をまとめて貰った際に初めて手にした白金貨を、アリアさんは慌てて突き返そうとする。しかしその手を、僕はやんわりと押し戻した。


「砕いて、これから少しずつみんなと山分けするのに混ぜて。余裕がないと、不当にリスクを負わされるから」


「でも……」


「あのときアリアさんがいなかったら全滅してた。今は、俺の番」


 聞き終えたアリアさんは、不承不承と言った様子でそれをしまった。


「必ず返せるよう、精一杯努めるわ」


「努めなくたって、これから絶対アリアさんの力を借りる機会はあると思うけど」


 単なる軽口ではない言葉だったのだけれど、アリアさんは僕の目を真っ直ぐに見つめてきた。


「それでもよ。試験のときだって、ジョージがいなかったらみんな助からなかった。最近だって……」


「最近?」


 聞き返すと、彼女はいつもの大人びた様子に戻り、そのまま僕へ笑いかけた。


「なんでもないわ。それより、オリヴィアのことお願いね。あの子、とても落ち込んでしまっているみたいだから」


「うん。話してもらえるよう、試みるつもりだよ」


 この言葉に、アリアさんはまた少し違う笑い方をした。


「ジョージって、不思議ね」


「不思議……?」


 そのときちょうど、向こうから僕らを急かす声が聞こえてきた。


「さあ、行きましょう。みんな待ってるわ」


 彼女とともに向かいながら、オリヴィアさんのほうを見る。周りに気を使って暗い顔もしきれず、かと言って当然すぐに笑えもしない不器用な顔が、コップを両手で持ちながら俯き加減で強張っていた。

「なかなかできることじゃないよ」とか言えるクール系キャラも出したいけど、作者以上にクールなキャラは出せねンだわ…。

あと、ボーイッシュな槍使いの子の名前一応決まった(ノエル)んだけど、なかなか名乗らせられずにここまで来てしまったンだわ…。

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