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第七十三話 一悶着あった

「し、指名依頼!?」


「Fランクスタートだけでも凄いのに、もう指名が来るなんて……さすがジョージね」


 クレアさんが素っ頓狂な声を上げただけに止まらず、アリアさんまでもが目を見開いている。


 まずいぞ。誤解は早めに解いておかなければ……。


「て、適性と需要がマッチしただけだからっ」


 今回は、本来起きるはずのない場所でのレッドベア大量発生という異常事態かつ、財政面で早急な解決が求められたというだけなのだ。


 もちろん、この(ノース)マディソンにとっては、今回の件が未曾有の大惨事だったであろうことは重々承知している。


 それでも、本来の指名依頼というのは、おそらくもっと特別感のあるものに違いないのだ。それこそ、僕なんかには一生縁のないような……と、そんなことを考えている場合じゃない。


「あの、もう時間でしたか?」


「時間でしたか? じゃない! シャロリア様直々の依頼なんだぞ? 自由だなんだと抜かす冒険者だろうが、少なくとも一刻は前に来るのが常識だろうが!」


 顔を真っ赤にしたケイトさんは、唾を飛ばしながら僕へ捲し立てた。


 なるほど、この子、こういうタイプなのか。まあ、日本人としては、懐かしいと言えないこともないかな……。


 なんて、複雑なことで感慨深くなっている間も、彼女の口撃は止まらない。


「挙げ句来てからも、そこの女たちと悠長に談笑まではじめて。そんな浮わついた気持ちならーー」


「ちょっと、何よアンタさっきから」


 それを遮ったのは、横から身を乗り出したクレアさんだった。


「なんだ貴様は」


「クレアよ。さっきから聞いていれば、随分こいつに勝手言うじゃない」


 僕を指差しながら、自分より一回り以上大きな相手に食って掛かる。


 そんなクレアさんを、ケイトさんは鼻を鳴らし一蹴した。


「十把一絡げな冒険者風情の名前など、覚える必要はない」


「ッ、アンタねぇ!」


 色めき立ったのは、なにもクレアさんだけではない。気づけば今の発言で、ギルドにいる大半がケイトさんを睨みつけていた。


 まだ冷静さを残す、何かあったとき止めようと周囲を見渡している人たちも、ケイトさん自体を心配している様子はない。


 子供相手なのだから、半殺し程度で収めてやらなければ。精々、そんな大目に見てやろうという程度の制止に他ならないのだ。


「ジェイコブ支部長殿にはエドモンド様の代から世話になっているが、貴様らはシャロリア様のご厚意があってこそ冒険者などと言うふざけた生業でその日暮らしができていること、努々(ゆめゆめ)忘れーーぎゃんっ!」


 なんのことはない。言葉の途中、アンナさんがケイトさんの脳天を、拳骨で叩いたのだ。


 堪らず彼女も、間抜けな悲鳴とともに床に倒れ込み、お痛をした子供の体で無様に頭を押さえる。


 そんな姿に、ギルド内の一触即発寸前とでも言うべき張り詰めた空気が、少しずつ遅緩していった。


「このガキ、なに?」


 悶絶しているケイトさんを尻目に、ひどく胡乱げな様子で訊ねられた。


「そ、その……領主様のお付きの方と言いますか……」


 僕の言葉にふぅんと生返事を返すと、アンナさんは首を捻ってカウンターのほうへ声をかけた。


「おいカミラー!」


「どうしましたかー?」


 なんだか、お茶の間の会話みたいだなあ。


「なんでこのガキここに居ンのー?」


「ちょっと待って下さいねー!」


 スカートを手で押さえながら小走りでやってきたカミラさんは、おおよその事態を把握したらしい。


 ため息とともに、今回の顛末を話してくれた。


「それが、『昨日来た冒険者が本当に役に立つか、この目でたしかめる』とか言って聞いてくれなくて……」


 きっと、僕への監視だろう。ケイトさん個人が抱く僕への嫌悪だけで、この子はここにいるわけではないはずだ。


「ちょっとアンナ、この子どうしたのよ」


「なんか騒いでたから」


「またあなたは……」


 そんなとき、奥のほうからエマさんまで駆けつけた。悪びれもせず言うアンナさんに呆れた顔をしながらも、すぐ膝をつきケイトさんに声をかける。


「お怪我は大丈夫ですか? 今ヒールをーー」


「い″、要(い″)ら″な″い″!」


「え……あ、あの、ひとまずこれで涙を」


「ん″泣″い″でな″い″!」


 いや、そんな見え見えの嘘つかなくても……もはやケイトさんには、先ほどまでの高圧的な様子は微塵も見受けられない。


 自業自得とは言え、いい年してこんな大勢の前でとは、不憫だなあ……。


 それにしても、さっきのアンナさんの拳骨、ここまで痛がるほどじゃないと思うんだけど……護衛も兼ねてる雰囲気だった割に、あんまり暴力とか慣れてないんだろうか。


「ですが、たん瘤になっては痛みがしばらく続くことになりますよ?」


「そ、それがなんだ! 私は代々ノースマディソン家に仕えてきたテイラー家の跡取り、ケイト・テイラーだぞ!? こ、これしきの痛み、へこたれぬわッ!」


 その名乗りに、唯一アリアさんが反応を見せた。


「テイラー家……かつてこの一帯の鎮撫で功績を上げた?」

於保育版ビフゲル=○ルデスハイマーこと、ケイトさん。

信頼関係ができるまで、ちょっとウザいかも…。

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