第七十二話 オリヴィアさんを任せた
「では、そろそろ参りましょうか」
「今日も街のためにご苦労様! たっぷりご飯用意して待ってるから!」
「おう、今日の晩飯も期待してるぜっ」
「じゃあ、行こうか」
「みんな行ってらっしゃい。今日はお土産いいからね」
「は、はい。行ってきますっ」
女将さんやエヴァちゃんに見送られながら、僕らはギルドへ出発した。
朝とは言っても、そこまで早い時間ではない。にも関わらず、内職やギルドの手伝いと言った仕事が多かったため、まだ少し眠い。
元の世界では現場によって、五時半に集まって出発……なんてこともあったな。遅れて顰蹙を買っては堪らないと、神経を使ったものだった。
ただ、土木関係にしろ今やってる冒険者にしろ、こうして先輩の後ろをついて歩くのは楽だ。
ことに派遣バイトのような、自分で仕事を入れなければならない形体が苦手な僕にとっては、実に気楽な心持ちである。
ふと隣を見ると、オリヴィアさんの顔色が少し悪かった。
「昨日眠れた?」
「は、はい。大丈夫です」
言葉とは裏腹に、これはあまり眠れてないなと一目でわかる反応である。
もっとも、冒険者としての実質初仕事かつ、まだアリアさんたちのグループに入ることが確定してないのだから無理もない話だ。
僕だって、最初はそうだったじゃないか。もし無理そうなら、一緒に無理のなさそうな依頼を探そう。アンナさんやエマさんだって、わざわざ僕が言わなくてもそうしてくれるはずだ。
そう思いながらギルドに着くと、中には既にアリアさんがいた。さすがはパーティーのリーダー格である。
「すいません、お任せしても構いませんか」
二人に話すと、「わかりました。では私のほうからカミラさんに」と、エマさんがカウンターへ向かってくれた。
アンナさんは、掲示板の近くにいる人たちと雑談をしている。僕らも、するべきことをしよう。
「アリアさん、おはよう」
「お、おはようございます」
「おはよう二人とも。もう体は大丈夫なの?」
やっぱりこの人、感じがいいなあ……。ボーイッシュな槍の子とも違う、正当派なスマートさ。まさにリーダーと言った感じで、僕なんかとは毛色が違う。
「おかげさまで、すっかり治ったよ。ところでお願いがあるんだけど」
「あ、あの、私から……」
ああ、そうだった。ごめんと手で謝ると、とんでもないとばかりにオリヴィアさんは何度も首を振る。
「うん。オリヴィアどうしたの?」
「そ、その……今日の依頼、め、迷惑でなかったらで構いませんのでーー」
これまた嫌味のない、完璧な対陰キャ対応。少しオドオドしていたオリヴィアさんの口も、幾分か滑らかになる。
なるほど、あんなふうにしたらいいのか。勉強になるなあ。なんて感心していると、新たに一人やってきたようだ。
「あら、ジョージにオリヴィアじゃない」
「おはよう、クレアさん」
二人も、クレアさんに挨拶を返す。
「おはよう。で、どうしたの?」
「きょ、今日の依頼、ご一緒させていただけないでしょうか……っ」
思いきりよく頭を下げながら言い、オリヴィアさんはそのまま動かなくなった。手は、ローブの腿のあたりを握り締めている。
彼女にとっては高いハードルに、勇気を出したのだろう。そんな彼女へ、二人は返答を寄越す。
「まったく、どんな話かと思ったら、なに遠慮してんのよ」
顔を上げ、困惑した表情のオリヴィアさんに、アリアさんが微笑んだ。
「オリヴィアがいなかったら、私たちは絶対生きて街まで戻ってこれなかった。次は私たちの番ね」
「あ、ありがとうございます!」
なんだろう。普段なら絶対寒いとか小馬鹿にしたくなる光景なのに、気づけば僕の胸には一抹の嫉妬の他には清々しさしか残っていない。
羨ましい。僕には、あんな爽やかなのは無理だなあ。若いって、凄いんだなあ……。
「よお、なんか決まったみたいだな」
なんて感慨に浸っていると、アンナさんがこちらへ戻ってきた。
「アリアと申します。先日の一件では、お世話になりました」
「クレアです。助けていただき、ありがとうございましたっ」
お礼を言う二人に、アンナさんは得意気な顔で笑いかけて見せた。
「ああ、あのときの受験者か。気にすんな。礼は出世払いで構わねぇよ」
「はい。必ず」
「ご恩は忘れません」
おどける様子に、二人も多少調子が砕ける。アンナさんもまた、大人である。器の大きい人でなければ、これはできない。姉御、いや、姐さんとでも呼びたくなる気っ風のよさだ。
「ところで、こいつはどうするんですか? 今の話だと、私たちのパーティーにはオリヴィアだけって感じでしたけど……」
「ああ、ジョージは今日からアタシらと同じく討伐隊に同行することになった」
クレアさんに答えたアンナさんの言葉に、アリアさんが疑問を挟んだ。
「Fランクでは、討伐に参加しても実績としては認められないはずですが……ジョージ、いいの?」
「ああ、それはーー」
説明しようとしたとき、甲高い声がギルドに響いた。
「遅い! 貴様、シャロリア様から直々に指名依頼を受けておきながら、なんと心得る!」
剣呑ではない怒声の源へ目を向けると……そこには昨日と違い剣を下げ鎧を纏い、肩をいからせて足音を立てながら近づいてくるケイトさんがいた。
少し煮詰まり気味なので、また穴埋めに没になった外伝挟むかも知れません。




