第七十一話 レッドベア討伐への参加が決まった
今週はほどほどに投稿できましたが、少しプロット練り直したいので来週は週二投稿かも知れません…ご容赦下さい。
あのあと、僕は事の次第を口八丁で誤魔化し、なんとかオリヴィアさんへは先に宿へ戻した。そうして一人になったのを確認してから、その、いろいろと収まるのを待って僕も中に入る。
すると、既にアンナさんやエマさんは帰ってきており、今だ心配そうな眼差しを僕へ向けるオリヴィアさんとともに、私服姿で僕を出迎えてくれた。
「お疲れさまです」
「おう、今日は早仕舞いだったぜ」
「早仕舞い?」
「不幸なことに、重傷者が早めに多く出てしまいまして……幸い命に別状はなかったのですが、人員や物資の面で継続が困難となってしまい、早めに街へ戻ってきたのです」
「仕方なく、置いてかなきゃならない物資もあってよぉ。ただでさえこのご時世なのに、勿体ねぇ話だぜ。まったく」
なるほど……こういう事態を避けるために、シャロリア様は僕へ指名の依頼を寄越したわけか。そんなことを思っていた僕へ、アンナさんは何とはなし、と言った調子で訊ねてきた。
「ところでジョージ、なんでお前だけ遅かったんだ?」
「あ、あの、私が不注意だったせいで、おーー」
「はっ、花がないかなーと!」
「お花、と言いますと?」
いや、遮らなくともあとに続いたであろう言葉は、男の人の大事なところとか、思いきり頭をぶつけてとか、そんなところだとは思うんだけどね。おち○ちんとかじゃなく。
「エヴァちゃんから、洋菓子のお礼に黄色い花をもらったものですから。どこに生えてたのかなって、ちょっと見てきてたんです」
「そうだったのですか。最近は、あまり私たちも遊んであげられなくて……でも、お二人が面倒を見て下さって助かります」
「落ち着いたら、飯でも連れて行ってやりてぇんだけどな……この調子じゃ、まだまだ先になるこったろうよ」
アンナさんが溜め息混じりに漏らす中、僕はオリヴィアさんに気にしなくていいと目配せをし。
危うく恥ずかしい話をバラされるところだったが、悪気がないどころか罪悪感すら感じているようなのだから仕方がない。
なにより、若くて自分のことで手一杯というのは、僕も未だに抜け出せていない問題なのだから。
「ところで、領主様とはどうでしたか?」
「じょ、女性の方だったんですね。す、少し驚きました……」
「なんだ、お前ら知らなかったのかよ。で、結局なんだって? ジェイコブもいたんだから、ギルド絡みの話なんだろ?」
「は、はい。最初はやたら警戒されてましたけど」
「あいつは神経質な奴なんだ。だから禿げる」
アンナさんが酷いことを楽しげに言い、エマさんから注意を受ける。しかしそれも、彼女とジェイコブ支部長の間に信頼関係のようなものがあるからなのだろう。
そもそも彼は、冒険者などと言う素性が怪しかったり脛に傷がありそうな僕らの親分なわけだ。そんなカオスな組織の長というのは、もしかすると領主以上に難しい立場なんじゃないだろうか。
「ところで、館ではどのようなお話をなさったのでしょうか」
エマさんに促され、僕は指名の依頼を受けたこと。そしてその内容について、ときおりオリヴィアさんに補足してもらいながら二人へ伝えた。
「どう、ですかね。俺としては、参加したいなあと、思ってるんですけど……」
内心、却下されたらどうしようと思いながら提案した僕に対し、アンナさんはあっさりとこう言った。
「おう、やってみろよ」
「え、いいんですか?」
「いいも何も、渡りに船じゃねえか。Fランクじゃ普通に参加したって素材の買い取りだけのところを、功績もきちんと積めるんだから」
言われてみればその通りである。納得する僕へ、エマさんが続けた。
「一先ず、依頼書を確認してからですね。ただ、私たちも参加する討伐依頼でしょうから、何かあっても安心です」
宙ぶらりんになっていたけど、とりあえずは決まってくれて何よりだな。そう感じていたとき、アンナさんがオリヴィアさんのほうを向く。
「で、その間お前はどうする?」
「ど……どうしていると、よいでしょうか……」
「そうですね……駆け出し冒険者向けの依頼をこなすか、訓練に当てる、などでしょうか……」
おっかなびっくり窺うオリヴィアさんへ、エマさんがいくつか列挙する。しかし、このレッドベア大量発生の状況下において、初心者に都合のいい依頼を果たして得られるのだろうか……。
荷運びや溝さらいの仕事は残っているかも知れないが、まかり間違ってもオリヴィアさんは力持ちというタイプには見えないし、溝さらいも案外危険だ。
『絶対そっちのほうに足で行くなよ! 引き摺り込まれて死んだ奴いるからな!』
元の世界で、優しい先輩の注意に震えた記憶が甦る。冒険者に危険は付き物とは言え、だからと言って他人のリスクを無条件に飲み込むのは難しい。
訓練に当てたほうがいい気もするな……そう思っていたとき、踏ん切りがついたとばかりにオリヴィアさんは言った。
「あ、あのっ、い、依頼を受けて……少しでも、お役に立てれば……」
それなら、手先が器用なのだから内職のほうが向いていると思うんだけど……本人はどうやら、普通に依頼を受けたいようだ。
「アリアさんたちに、パーティーへ入れてもらえないか聞いてみようか?」
「い、いえ、これ以上ご迷惑は……」
内心、さっき自分の明日が決まったことでほっとしてしまったバツの悪さを感じながら提案したのだが、遠慮されてしまった。
「そ、そうだよね」
「あ……あの、そうではなくて」
そこに、気まずくなった僕らを見かねたのか、二人から助け船が出た。
「誰も迷惑なんて思ってねぇよ。オリヴィア、お前はヒヨッコなんだから。赤ん坊がケツを拭けないからって、普通の人間は邪険には思わねぇだろ?」
「最初は誰だって、人の手を借りながら進んでいくものなんですよ。この状況が落ち着きましたら、全員で受けられる依頼を探しましょう」
「す、すいません……そのときは、よ、よろしくお願いします」
オリヴィアさんの返事に、アンナさんは両手をポンと鳴らした。
「よし。じゃあ、決まりな」
「何か困ったことがあったら、私たちにお話し下さいね」
そうして各自の部屋へ戻る際、アンナさんがぼそりと呟く。
「ありゃ、相当気負ってんな……」
当然、オリヴィアさんのことだろう。あの日病室で、もう仲間なのだ。庇い合ったり、助け合ったりするものなのだと僕らは確認し合った。
けれど、それが心に根付くまでには、より長い時間と地道な信頼関係の積み重ねが重要なのだろう。一度で何かが好転するほど人は簡単じゃないし、もしそうなったなら、そっちのほうが危険だ。
「アタシらも見とくけど、なんだかんだであいつはお前に一番心を開いてるからな。些細なことでも見逃すなよ」
「はい」
目を見て返事をすると、アンナさんは館へ行く用に整えた僕の髪を手櫛で乱暴にグシャグシャとしてから、ニカッと白い歯を見せた。
「色男、しっかりやれよ?」
帽子やヘルメッドを被ることが多い方は、くれぐれもご注意を…ちなみに作者は前髪からきてます。




