第五十八話 オリヴィアさんをイジった
今回の話、ちょっとあんまり過ぎるので修正します。時間を下さい。すいません。
「まったく、あのおねえさんときたら……」
「なっ、仲良しなんですね」
帰り道、やれ、美人で気さくでおっぱい大きくていい匂いがするからって、と一人ごちていたところ、オリヴィアさんが話を振ってきた。
「ん? まあ、いい人ではあるよね」
ああいうからかいこそあれど、元の世界で稀にあった、帰る間際になって再び用事を命じられる、勝手も教えず後出しでやり直しを命じる、などの嫌がらせは一切ない。
「ただ、ああやってイジられるのはな……」
だいたい、どうして僕のような根暗にあんなことをするのだろう。あの人の中では反応が面白いのか? それとも、自慢の美貌を軽い露出症的な理由でアピールしたいのか? オリヴィアさんやエマさんのように、ローブや神官服で隠してくれたらいいのに。隠れきってないけど。
「し、親しみの、現れなんだと思います」
「いや、わかってんだけどね」
言ってから、オリヴィアさんがどこか羨ましそうな顔をしていることに気がつく。そういえば、冒険者試験でも最初のうちは遠慮がちな対応をギャヴィン試験官からも受けていた。もちろんみんなに悪意はなかったろうが、疎外感を感じていても無理はない話だ。
かと言って、僕は流れに乗って何かを言うことはあっても、他人を能動的にイジったことがあまりない。どうしたらいいのだろう……。
「な、何か、お悩みごとですか……?」
「いや、オリヴィアさんをイジろうと思ったんだけど、ネタが……」
「わ、私をイジる……ですか……?」
不思議そうに問いかけられると、なんだか自信がなくなってきた。
「その、嫌なら言ってね」
「い、いえ。ジョージさんにイジっていただけるなんて、とっても嬉しいです。ぜ、是非、お願いします」
一応確認したものの、頭
かぶり
を振って頼まれてしまった。その目には、どこか期待まで滲んでいるように見える。弱ったな、どうしよう……。
「……思いついたんだけど、ちょっといやらしい突っ込みんだよな……」
「さ、さっきのおねえさんぐらいなら、大丈夫です。お、お願いします……っ」
真剣な目で、喉を鳴らし待ち受けるオリヴィアさんへ、僕も覚悟を決めて絞り出した疑問を放った。
「退院したときもみんなに誤解されたけど、さっきのも、いくらかはわざとだったりするの……?」
最悪、これで仲が拗れ絶縁を叩きつけられるかもと思っていたのだがーー。
「あ、あれは、あのときもそのっ、じょ、ジョージさんを困らせようとしたわけでは……っ」
これは……上手く、いっているのか……?
「つまり、天然ってこと?」
「て、天然ではないですっ! でも、どう考えても誤解される言葉なのは、じ、事実で……」
言葉を続けるとオリヴィアさんは否定しながらも、次第に肩を落とし、そのまま消沈してしまった。
「む、昔から、視野が狭いと指摘されがちで……他の人が話してるときなら、す、少しぐらいなら、わかるんですけど……」
「あー……いるね、そういうタイプ」
たしかに、接してみてのオリヴィアさんは、見てくれのおすまし具合とは裏腹に責任感が強すぎるところがある。それで周りを見る余裕がなくなったり、気遣いに意識が向き過ぎて逆効果に終わってしまうのかも知れない。
「す、すいません……直さなきゃとは、思っているんですけど、小さな頃から、な、直らないままで……って、これも言い訳ですよね」
「オリヴィアさんは、言い訳するぐらいでようやくイーブンぐらいだと思うけど」
「い、言い訳は、よくないと思いますけど……」
眉をひそめるオリヴィアさんへ、僕は言葉を続けた。
「それぐらい、オリヴィアさんが真っ直ぐだってこと。誰にだって欠点ぐらいあるし、気にしててもキリがないよ」
「で、でも、他人の迷惑になるレベルは、な、直さなきゃいけないと……」
「迷惑って、人死なせたり、怪我させるとか人生台無しにするとか……?」
「そ、そこまでは、ま、まだ、ないですけど……」
言い澱む彼女へ、なるべく心を込めて笑いかける。
「じゃあ、いいじゃん。他人に責任押しつけて逃げる人に比べたらかわいいもん、むしろ立派過ぎるぐらいだよ」
「ひ、比較する相手が、わ、悪すぎでは……?」
「ということは、オリヴィアさんは悪い人ではないでしょ? これから、大きくなるにつれて少しずつだよ」
「お、大きくなっても、できていなかったら……」
困った顔をしてしまった彼女へ、僕も内心どうしたものかと思いながら言葉を重ねる。
「もし生涯できないままだとしても、その理由には近づけてるよ。そしたら社会で当たり障りなくやっていく程度に補う方法も選べるし、困ったときは、俺らがいるし」
「で、でも、いつまでもというのは……あ、呆れられて、き、嫌われたり……」
さっきの、小さな頃から直せないの下りも含めて、この人の自信のなさの理由が見えてきた気がした。
「アンナさんとエマさんも癖は強いけど、嫌い合ってないでしょ?」
「そ、それは……お二人とも、素敵な方々ですから……」
「俺からしたら、オリヴィアさんもそうだよ」
「ど、どこがですか……? 強くも、優しくもないのに……」
「優しいし、強さの芽も持ってる。これからだよ」
憮然とした表情は消え、そのままオリヴィアさんは俯いた。
「ジョージさんは、や、優しいので……本当のこと、こんなふうに話せてしまいますけど……わ、私、ずっとこうですよ……?」
そんなこの人だからこそ、あの水晶を爆弾にする計画を話したとき、場の空気に左右されることなく待ったをかけてくれたのだろう。
「だから俺のこと、身を呈してまで守ってくれたんでしょ」
「……あのときは、じょ、ジョージさんが死んでしまうぐらいなら、と……それだけで……」
「でも、俺が今生きてるのは、オリヴィアさんがオリヴィアさんだったからなんだよ。けど、次からはもっと被害を小さくできるかも知れない」
「……それは、ジョージさんが私を守って下さるという、あのお話ですか……?」
「それはもちろんだけど、それだけじゃない。もっと、色んな意味での話だよ」
窺うような目を向けた彼女へ、今後も力になりたいし、力になって欲しいと、僕は伝えたつもりだった。もう仲間なのだ。
結果を残すスポーツチームと同じで、個人の弱点や不利益も全体のものとして捉えるのが、サイクルを破綻させることなく回していくうえで当たり前。というより、大前提なのだ。
「……じょ、ジョージさんは、だから私なんかのことを、き、気にかけてくれるんですね……」
どういう意味かはわからなかったが、オリヴィアさんはどこか嫌ではなさそうな苦笑いを浮かべたあと、バツが悪そうに目を逸らした。
「い、イジってもらうだけのはずが、もっとたくさんしていただいちゃいました……っ」
「……またいやらしい言い方になってるぞ」
「えっ……? あっ、その、違うんですよぉぉぉっ」
振り返ったオリヴィアさんが、珍しく僕の胸ぐらを掴むような形で、泡を飛ばしながら弁明をはじめる。その様子は大変困り果てたものではあったが、そこにはこの話題をはじめる前の影が消えているように見えた。
せっかくプロットの時間もらったのにのんびりペース過ぎてごめん。




