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第五十七話 納品を済ませた

 作ったものを袋へ詰め、玄関へ向かうとエヴァちゃんが宿の掃除をしていた。


「こんにちは」


 僕らに気づいたエヴァちゃんが挨拶をしてくれたので、僕らも返す。間の悪いことに、遠くから子供たちの楽しそうな声が届いてきた。すると、顔を引き吊らせたエヴァちゃんは、再び掃除に戻ってしまう。


「あー、あのさ、俺ら、これから納品に行くんだけど」


「そんなの、見れば誰だってわかるよ」


 不貞腐れた表情で、無下な返事を返されてしまった。どうやら、子供ながらに相当参っているようだ。


「そのついでにさ、買い物でも行かない?」


 背を向け塵取りを使っていた背中が、ピクリと反応する。


「エヴァちゃんいつも宿のお手伝い頑張ってるしさ、俺らもお礼がしたいんだよ」


 押しの一手の言葉に、彼女はしばらくそのままの態勢で手を止めていたが、振り返ると生硬い表情でこう言った。


「今は大変な時期だから、遊んでる暇なんかないよ」


 そして、僕らから遠ざかるよう他の部屋の掃除に向かってしまった。


「だ、大丈夫でしょうか……」


 訊ねられたので、小声でエマさんに伝えられてからここ一ヶ月で感じたことを元に答える。


「なんか、俺が来た頃にはもう近所の子と拗れてたみたいで……オリヴィアさんからも見てやってくれる?」


「は、はい。わかりました」


 まだ小さいのに、心配である。帰りにお土産でも用意しておこう。





「もう仕上げてくれたのかい? 仕事熱心だねえ」


 納品先のおねえさんは、僕らを見て何かを察したように口角を上げた。


「ハハア、そういうわけね」


「たぶん想像してるのとは違うと思いますよ」


 どういうわけなのだろう。単なる僕へのからかいだけならいいが、尾ひれがついてオリヴィアさんに迷惑がかかるようならやめてもらいたい。そう思い否定したのだけど。


「あら、想像っていったいどんな?」


 と、逆に材料にされてしまった。と、そのとき。


「あ、あの、誤解です」


 オリヴィアさんが横から助け船を出してくれる。僕がイジられ困っているのに気づいてくれたのだろう。やはり仲間と言うのはーー。


「じょ、ジョージさんは……初めてだった私にも、優しく、教えて下さって……む、無理にとかでもーー」


「ちょ、ちょっと!」


 病院のときも思ったけど、こいつわざとやってんのか!?


「え、えぇ……ジョージの坊や、まさかもう……」


「誤解ですっ。たしかにいかがわしいことにしか聞こえませんでしたけど、普通に針仕事手伝って貰っただけです!」


「え、あ、あの、なんのお話でーー」


「ごめんオリヴィアさんちょっと黙ってて! ほんと、ほんとに違いますから!」


 その後も、ドン引きするおねえさんに信じて貰おうと繰り返し訴えたのだが、どういうわけか言葉を重ねれば重ねるほど向こうはこちらの必死さに疑惑を深め、それを払拭しようとするたび更に泥沼へ嵌まり込んでいった。伝え合うって、難しい。





「いやあ、驚いたよ。おねえさん、もしかして本当にそうなのかと思っちゃって」


 その後誤解が解けたこともあってか、おねえさんは恥ずかしそうに苦笑いを浮かべた。


「そんなわけないじゃないですか……ねえ、オリヴィアさん」


「は、はい。滅相もないお話で……じょ、ジョージさんは、誠実な方ですし……」


 オリヴィアさんの言葉に、おねえさんはニヤとほくそ笑む。


「ふーん。じゃあ、ジョージはオリヴィアちゃんのことを一切いやらしい目で見ていなかった、と」


「は、はい。間違いないです」


 オリヴィアさんの断言を聞き終えたお姉さんは、ふぅんと返しながら妙な目線を僕に投げ掛けてきた。


 こういうとき、頑張ってなんでもない顔をしようとしても、どういうわけか見抜かれてしまうことが多い。僕が顔に出やすいのだろうか。それとも、おねえさんが僕のようなタイプのからかい方を心得ているのだろうか。


「まあ、仕方ないわねえ。オリヴィアちゃん綺麗だし、それにーー」


「あ、あの、俺ら他にも予定あるので、失礼します」


 敢えて言葉を遮ってやったのに、おねえさんは組んだ腕に自らの胸を乗せ、馬鹿にした目で僕を笑ってきた。そうだよ。ときどき意識しちゃうよ。


 だいたい、こっちの女の人にも問題はあるのである。オリヴィアさんにしろ、おねえさんにしろ、アンナさんエマさんカミラさんにアリアさんも含め、みんな実に女性らしい体つきなのだ。


 昔読んでいたものの未完で終わってしまったサッカー小説で、スペインへ渡った主人公がそこで出会った女の子たちのムチムチ具合に言及していたが、この異国もとい異世界の地の女の人たちもあの記述に近いものがある。邪な言い方をすれば嬉しい誤算と言えなくもないが……。


「はぁい。またお願いね、坊や」


 と、笑われてしまう僕にとっては、常に醜態を晒す危険を孕んでいる。もっとスマートな対応をして、おちょくられないようにしたいのに。情けない話だ。


「オリヴィアちゃん、ジョージのことお願いね。あの子男にしては丁寧に仕事してくれるし、見ての通りーー」


「オリヴィアさん! 行くよ!」


「は、はい。その、またよろしくお願いします。失礼しましたっ」


 慌てて僕を追いかけるオリヴィアさんの後ろには、実に楽しそうな笑みを浮かべるおねえさんがいた。ちくしょう、いつかぎゃふんと言わせてやりたいものである。

今回短くてすいません。日常パートをもっとサクサク終わらせられるよう頑張ります。

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