第四十九話 計画を伝えた
「それでジョージ、話ってのは?」
今もレッドベアたちが蔵の外壁を削り続けている中、僕は全員に即席で用意したものを見せた。
「ギャヴィン試験官はこう仰ってましたよね。この水晶は、魔力を大量に注ぎ込むと爆発すると」
「……たしかにそうだが」
確認を得たのち、僕はお手製の手榴弾の説明をはじめた。
「これの外側に、挟めるだけの魔石や釘が挟まる形でこの透明な皮を巻きつけています。水晶が爆発したとき、その威力や殺傷性を高めるためのものです」
これは武器だと説明することで恐れや不安とは別種の緊張が走り、そのうえで何人かの喉を鳴らす音が聴こえてくる。そのうちの一人、アリアさんが見開いた目で僕を見た。
「ジョージ……あなた、まさか」
彼女の懸念を、和らげるため、僕はなるべく柔和な笑みを浮かべるよう務めた。
「別に、特攻とかではないよ。オリヴィアさんには事前に適当な穴でもないか調べてもらって、爆発はそこに身を隠してやり過ごすつもりなんだ」
僕が対応法を言い終えたとき、傍らから間髪入れず否定の声が飛んできた。
「む、無茶ですっ、そんなこと……っ」
「オリヴィアの言う通りだ。できたとしても……」
オリヴィアさんに続くも、ギャヴィン試験官は重く言葉を途切れさせた。その反応を見ながら、言葉を続ける。
「俺、魔力が人より多いみたいなんです。こっちに来たときも実質素手でレッドベアと戦ったんですけど、勝手に魔法障壁が生じて指すら失いませんでした」
「そいつの爆発はまた別だ。指や手足どころではとても済まんぞ」
「ですから、窪地に身を潜めてやり過ごします」
譲らない僕に、ギャヴィン試験官が溜め息を吐き、少しの間黙り込む。何がなんでも翻意させようという硬い意志に、少しずつヒビが入りはじめた感触があった。
「……仮に、その障壁がお前の言う通りだったとしてもだ。今のお前の状態で、水晶を爆発させられるだけの魔力を消費したうえで、いったいどの程度のものを築けるって言うんだ」
「そこは賭けとしか」
「なら、到底認められない。お前はいざというときまで、隅で大人しく休んでろ」
この人、やっぱり見た目と違って、凄くいい人なんだろうな。そのこと自体には救われた気持ちを抱きつつ、なお僕は説得を繰り返した。
「どうせこのままじゃ、全員まとめて死ぬだけですよ。なら、奴らをある程度まとめて減らしてから合流して、森を出て街へ向かうほうがいいです」
前半の言葉に蔵の中の緊張や迷いが一気に高まった中、アリアさんが割って入ってくる。その様子は、普段と違いやや余裕を失っているように見えた。
「じょ、ジョージ、まずは一度落ち着きましょう」
「アリアさん、俺は落ち着いてるよ」
静かに正面から見つめ返すと、彼女の瞳がたじろぐ。この人も、やっぱりいい人なのだなあ。死んで欲しくはない。
「夜明けはまだ先だ。それまでこの蔵はとても持たない。余裕があるうちにやるしかないんだ」
明確な危機が迫っていて、取れる選択肢も限られており、それを実行できる人間が一人しかいない以上は仕方のないこと。僕はその種の言葉を繰り返した。
今しているのは、彼らの罪悪感を取り除く作業だ。情が決断の足枷となるなら、逃げ道を用意してやればいい。それをしても、自分で自分を責めなくて済むような、そんな良心の咎めを麻痺させる言い訳を。
「何度も言うけど、別に、死ぬために行くわけじゃない。そりゃ、危険がないとは言えないよ? でも状況的に安全を優先してばかりもいられないし、爆発のあとで助けてもらえたら、俺も一緒に山から降りられる。どうかな」
しばらく沈黙が続いたあと、一番最初に乗ってくれたのは、なんだかんだ言ってギャヴィン試験官だ。苦渋の表情ではあったが、彼は冷静に、結束や勢いだけではどうにもならない状況を見ていた。
「……必ず、すぐ助けに向かおう」
「ありがとうございます」
「すまん」
そう言うと、ギャヴィン試験官は深々と頭を下げてきた。まさか謝られるとは思っていなかったので、すぐフォローの言葉をかける。場の空気が変わってはまずい。
「俺しかできないですし、気にすることないですよ。試験官だって、自分ができるならそうするんじゃないですか?」
ギャヴィン試験官は、何も答えなかった。とは言え、このやり取りのおかげで、場の流れは明確に定まりつつあった。それぞれ程度の差こそあれ、躊躇いと安堵が入り雑じった面々を眺め終えた僕は、次の行動に移ろうとした。
「じゃあ、今から持ってる薬とか配るから、各自受け取ってね」
収納魔法のスペースから、魔法薬を取り出しては並べていく。分配は、ギャヴィン試験官やアリアさんに任せればこと足りるだろう。僕が死んだ場合、これらは取り出せなくなってしまう可能性がある。
ちょっとニュアンスの問題で詰まってて、今日中に投稿できなくなる可能性があるので短いけどここまで。すまん。




