第三十六話 飲ませたのはエリクサーだと知った
前二話の内容を書き換えました。助けた受験者が一緒に食事をしなかった男の子から、試験官に一撃で負け食事も一緒に摂ったツンデレ風の女の子に変更されています。ご迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした。
まだ息が整っていない様子ではあるが、オリヴィアさんは光を手のひらに浮かべながら蔵の中を少し歩き、見つけたランプにおそらく魔力で灯りを点す。
「だ、大丈夫でしたか……?」
それを携えこちらへやって来たので、僕はさっきまで背中の上にいた彼女の後ろへ回り、収納魔法の中から魔法薬を取り出していった。
「これぐらい、なんてことないわよ……ぐっ……」
彼女を下敷きにしないため、スクリュー式のドロップキックを選んだつもりだったが、怪我人には大差なかったか。衝撃を殺しきれるわけでもないし。
「無理をさせてすまなかった」
「べ、別にいいわ。ああしなければ、今頃死んでいたもの……」
先ほどから気丈に言う彼女ではあったが、その顔色はさっきよりマシになった、という程度でしかない。
「一応、さっきこのポーションを飲ませたんだけど……破傷風とかだったらどうしよう」
「こ、こちらですね……失礼、します……」
瓶を手に取ったオリヴィアさんは、それを見て息を飲んだ。
「こ、これっ、エリクサーですか……っ!?」
「エリクサー?」
聞いたこともない硬い響きの単語に、思考が硬直してしまう。ポーションなら、昔コンビニで偽物が売られていたから知っているんだけれど……。
そんなふうに思っているうち、気づけば横になっていた彼女まで上体を起こし、瓶を改め出した。
「え、う、嘘。ちょっと見せて……あ……」
驚きの表情で固まる彼女に、僕は言い様もない不安を味わっていた。どうしよう。もし何か重篤な副作用でも出る薬だったら、取り返しのつかないことになってしまうぞ。
「え……ごめん。なんか、まずかったかな」
即座に、振り返った彼女から物凄い勢いで唾が飛んできた。
「まずいじゃないわよ! なんでアンタがエリクサーなんか持ってるの!?」
「か、買ったんだよ……実は毒だった、とか?」
おかしいな。アンナさんが、これが一番いい薬だって言ってたから使ったんだけど。混乱する僕に、オリヴィアさんが目を泳がせながらも説明をしてくれた。
「い、いえ……ど、毒どころか、体力と魔力を全て回復してくれる、す、凄く便利で高い薬です……」
「そうなんだ。でも……」
全てと言う割に、彼女の様子は全快と呼べるものではなかった。もちろん、あの瀕死の姿から今の小康状態に落ち着いただけで、奇跡の飲み薬と言うべきなのかも知れないけど。
「噎せて結構溢しちゃったし、だいたいあれだけの重傷よ? ……でも、飲んだのがエリクサーだったなら、この回復の早さも納得ね」
そうなのか。どうやら二人は、魔法薬の知識を持っているようだ。いい機会だし、この状況で役に立ちそうな薬がないか教えて貰おう。
「他にもあるんだけど、役立ちそうなものある?」
「ど、どれでしょう……」
「今取り出すから、ちょっと待ってね」
そう言いながら、ほんの数本目を取り出したところで、再び一撃で敗北した彼女が驚きの声を上げた。
「ちょっと待って、これ、エクスポーションじゃない」
「エクスポーション? エクスカリバーとは関係ある?」
「あるわけないでしょ! これはエクスポーションよ!」
そ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。たしかに、うろ覚えで話した僕も悪かったとは言え、今のは会話を拡げるためだったのに……。
「た、体力を全快させてくれる、優秀なポーションです」
昔鳶職のおじさんに滅茶苦茶怒鳴られた過去を思い出し、思わず憂鬱になる。そんな僕を慰めるよう、オリヴィアさんが再び簡潔な解説をしてくれた。結婚しよ。
「エリクサーなんて貴重な薬使わなくてもこれで十分だったのよ!」
「……」
「あ、あの……もう少し優しく言ってあげても……」
「感謝はしてるけど、それとこれとは話が別よ。この状況で生き延びるためには、ただのポーション一本すら貴重なの」
言っていることはわかる。けど、頭では理解できたからと言ってそのまま腑に落ちるというわけではない。
「意識取り戻してからも飲んでたじゃん。味とかでわからなかったのかよ」
「じょ、ジョージさんまで……やめましょう? 今はーー」
「わかるわけないでしょ! エリクサーを飲むのなんて、あれが初めてだったんだから! それをアンタは、知らなかったとは言え、切り札をあんなところで」
ふーん。切り札、ねぇ。
「エリクサーならまだあるぞ。ほら」
オリヴィアさんには申し訳ないけど、半ば当てつける気持ちでエリクサーのみを淡々と並べ連ねていく。十を超えてもなお止まらないそれに、ギャヴィン試験官に一発でのされたうえ、人に飯や薬を提供されながら文句ばかりのこいつもさすがに声を震わせた。
「い、いったいいくら出すつもりよ……」
ええと、さっき一本使って、アンナさんとエマさんが二本ずつ持っていったから、ひのふの……。
「二十五本。他のポーションとかは、大抵もっと入ってる」
さすがの彼女も言葉を失う。どうだ、少しは思い知ったか。そう内心溜飲を下げていると、目の前の真っ赤な仏頂面が一文字に結んでいた唇をほどいた。
「……次からは、同じ状況だったらこっちのエクスポーションを使いなさい」
「はいはい」
生返事にいじけた彼女は、何か言い返しかけたものの最低限の羞恥心は持っていたと見え、一度口をつぐみそっぽを向いた。
「ふんっ。そんなことより、次に移るわよ」
ふっ、勝ったな。まだまだ言いたいこともあるが、まあ、これだけ言い返せるぐらい元気になってくれたんだし、よしとしてやろう。
ポンコツツンデレ好き。




