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第三十三話 大勢で談笑した

 ちょうどそのとき、他の受験者たちが僕らの姿を見つけ、そのうちの一人がわざとらしく声を上げた。


「あ、デートだっ!」


「デっ……!?」


 オリヴィアさんが、ビクリと体を縦に震わせた。そんなわかりやすく狼狽して見せなくても……と言うか、二十半ばと十六才とか、元の世界だったら犯罪疑われるし。


「それ、なに食ってんの? 一口ちょうだい」


 ぞろぞろとやってきた人数を数えると、過半数を超えていた。これなら、大量のストックを消費してしまえるだろう。


「俺が泊まってる宿のミートパスタだよ。お皿あるなら全員分用意できるけど」


 先に一口と言った子を押し退けるようにしながら、最初に僕らをからかった子が勢いよく皿を突き出してくる。


「マジかよ! 昨日から何も食ってなくてさ、頼むわ!」


 受け取ったものを見て感じたものを表情に出さないため、僕は頑張って笑顔を作った。だってその皿には、裏側も含め結構な汚れが付着していたのだ。


 外国へ行くとお腹を壊す。なんて話をよく聞くけど、それはこういう衛生観念の違いが原因なのだろうな……そう思いながらも、食べ盛りだろうから多めによそってやる。


「はい。肉炒めたのとかサラダもあるから」


「わ、熱々だっ!?」


「お、俺のぶんも頼むっ」


「私は少なめよ。いいわね?」


 順番に皿へ盛ってやると、最後まで待っていた子が、嫌みのない微笑を称えながら僕へ皿を渡してきた。


「私もお願いできるかしら。できればサラダからがいいのだけど」


 う、うわあ、背の高い美人だ。大人っぽい雰囲気の子だな。緊張からか、受け取る手が少し震えてしまう。


「う、うん。サラダね」


 考えてみれば、普通はそうやって食べるのがマナーと言うか作法だったのかも知れない。そういう格式高そうな飯屋に入ったことはないが、よく外国料理には前菜とか言う言葉が出てくるじゃないか。


「ありがとう」


 盛って渡すと、これまた人当たりのよい笑みを返しながらスマートに離れていく。かっこいい。僕らとは、明確に立ち居振舞いが違う。


 半ば放心状態になっていたとき、オリヴィアさんが僕のほうを見ていたことに気づく。なんだろう?


「あ、あの、ジョージさーー」


「ジョージ肉!」


「俺は肉じゃありません。はい……オリヴィアさんはサラダと肉、どっち先に食べる?」


 悄気ていたオリヴィアさんは、僕の言葉に驚きながら言葉を返す。


「えっ、あ、さ、サラダを……」


 お皿が空いていたから、他の料理を食べたくなったのかと思ったのだけど、どうやら呼びかけられた理由は違ったようだ。まあ、どこか安心してくれてるようにも見えるし、いいか。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとう、ございまーー」


「いやあ、助かったわっ。昨日から何も食ってなくてさあ!」


 口元に肉のタレをつけながら、彼は満面の笑みを僕へ向けた。


「よく今日一日持ったね。何かあったの?」


「それがさ、運が悪くて……」


「ああ、気にしなくていいよ。こいつ、博打でスっちまっただけだから」


 アンニュイな表情を浮かべる彼に、すぐさま仲間からの突っ込みが入った。


「さ、最初は勝ってたんだよっ。取り返してからじゃなきゃやめられねぇだろ」


「よく言うぜ。俺らが止めなきゃ受験代すら突っ込むとこだったくせに」


 この子にもし金を貸してと頼まれても、なんとか理由をつけて断ろう……そう心に決めながらも、しかし彼の屈託のなさは自然と場を盛り上げてくれた。


 外で食べる美味しく温かい料理も僕らの心を解してくれ、会話も自然と弾み出す。


「で、二人はどんな関係? 付き合ってるの?」


「つっ、付き合うとかっ、そ、その……」


 真面目に相手をしなくていいのになあ。これは明らかに、僕なんかじゃオリヴィアさんとは釣り合っていないというのが笑いどころのジョークなんだから。


「嫌味か……朝ギルドで知り合って、それで色々話してたんだよ」


「は、はい……」


 この返答に、彼は吹き出しながら笑いはじめる。一体なんだろう?


「お前ら馬鹿だなぁ。そんな早く来てどうするんだよ。野営の試験があるんだから、普通はなるべくたっぷり寝るもんなんだぞ」


「え、そうなの?」


「そうに決まってんだろ? まったく、世間知らずだなあ」


 一同の顔をさりげなく見渡すも、今の言葉に疑問のある人はいないらしい。僕とオリヴィアさんだけが、冒険者を目指す人間の常識から外れていたようだ。


「でも、この中で一番はジョージよね。あんな投石、生まれて初めて見たわ」


「ど、どうも……」


 さっきの大人びた子から賞賛される。たぶんこの子は、男子を勘違いさせやすいタイプだ。


「模擬戦でも、ボクよりずっと粘ってたじゃないか。槍のほうが剣より有利なのに、驚いたよ」


 さっき槍で挑んだ子も続く。さっきは気づかなかったけれど、どうやら女の子だったらしい。勝手に陽気そうな二枚目と思っていただけに、若干戸惑ってしまう。


「あれはほら、試験官が露骨に手を抜いてたから」


 それでも相打ちにすら持ち込めなかった。思い出せば、今になっても悔しさが込み上げてくる。


「それは全員に対してじゃん。むしろあいつ、ジョージのときだけちょっと本気出してたぜ」


「え、そうなの?」


 驚く僕へ、槍の子が補足するよう付け加えた。


「そうだよ。たぶん投石で驚かされた腹いせと言うか、自分の威厳を示し直すためだったんじゃないかな。ボクらのときより間違いなく意地悪なやり方だった」


「それにしても、変な構えだったわね。流派は?」


 これには、なんと答えるべきだろう。僕は剣道に明るくないし、仮に小野派一刀流やら北辰一刀流、示現流のような世で明るい剣を習っていたとしても、こっちの世界では誰も知らないのだ。


「上手く言えないんだけど……地元の見たことあるやり方を真似してたんだ」


 すると突如、彼女は泡を飛ばしながら僕に噛みついてきた。


「はあ!? じゃあアンタ、全くの素人なのに冒険者試験受けたってこと!?」


 その剣幕に内心怯えていると、他の子が助け船を出してくれた。


「それでもジョージはこの中じゃ一番だったんだからいいだろ。お前みたいに構えばかり気にして一撃ではやられてないんだから」


「つ、次は勝つわよっ」


 そう宣言する彼女に向けられる視線は、他愛なさに似た生暖かいものであった。試験の結果で発言力に差が生まれたのだろう。


 生々しい話ではあるが、正直助かった。そんな安堵からか、つい溢してしまう。


「けど、剣って難しいよな。相手の重心とか、利き腕とか、体勢みたいな色々で今どう動くべきなのかを本当は判断できるんだろうけど……それ以前に自分の体の動きがワンパターン過ぎて全然相手にならなかったよ」


「そうかぁ? 押されてはいたけど」


「試験官は、少なくとも俺から見たら自在に剣を振るえてた。身のこなしも澱みがなくてさ」


 踊るようにというのは、ああいう軽やかな動きのことを言うのだろう。そこまで


 例えば僕は、直線を走るとか高くジャンプすると言った単純な動作なら自分がそこまで劣っているとは思っていない。


 けれど、滑らかに細かく体を動かすとか、動きの中で精密な動作を体現すると言った身のこなしでは、アンナさんやギャヴィン試験官との間に埋めがたい差があることを自覚している。


 先日の盗人相手にも近接戦で遅れを取って刺されるところだったし、その難易度の高さに歯噛みせざるを得ないのだ。


「まあ、あの人は強いからね。試験官って、基本的にランクが高位の冒険者が務めるから」


 フォローするように、槍の子が僕へ答えてくれた。


「そうなの? だいたいどれぐらいとかわかる?」


「ボクが覚えてる限りでは、たしかBかCだったはずだよ」


 初日にギルドでレッドベアを売ったとき、カミラさんはアンナさんのことを、Cランク間近だと言っていた。ということは、単純にランクだけを見ればギャヴィン試験官はアンナさんやエマさんより上ということになる。


 ギャヴィン試験官が本気を出せば、アンナさんより強いのだろうか。それとも、そう簡単な話でもないのか。もっとも、それを知る機会もすぐにはないだろう。例えば、今これから魔物でも襲ってこない限りはーー。


「にしてもあいつメチャクチャ腹立つわ。絶対俺らのこと馬鹿にしてるだろ」


「まあ、試験官だから。仕方ないわよ」


「絶対いつかボコボコにしてやる」


「そう言いながら、いざ自分が新人の相手する段になったらあんなふうに振る舞うんだろ?」


「当たり前じゃん。あれよりもっと厳しくするのが今から楽しみだ」


「負の連鎖だねぇ。ボクは普通にするよ」


 自分が会話に参加せずとも、彼らの賑やかな話し声を聞いているだけで、この世界のことが少しずつわかってくる。美味しい料理を食べきれないほど作ってくれる女将さんに、今日はお礼を言っておこう。


 そう感謝する中、再び隣からの視線を感じてオリヴィアさんのほうを向く。何か言いたげな顔で僕を見ていたけど、目を合わせた途端、少し逡巡したのちに逸らされてしまった。


「ど、どうされましたか……?」


「いや、少し視線を感じたから」


「い、いえ、何も……じ、じろじろ見て、すいませんでした」


 別に謝らなくていいし、遠慮せず言いたいことがあったら言ってもいいのに……けど、それは頭でわかっているだけでは上手くいかないことなのだろう。習慣ともなってしまえば、苦痛を感じていたとしても軌道を修正できない。その辛さは、僕にも決して無縁のものではなかった。


「俺、こっちだと少し物珍しい見た目だもんね。気にしないでいいよ」


 なるべく、丁寧に笑みを作って話す。けれど、オリヴィアさんは少し表情を強ばらせたあと、また俯いてしまった。


「す、すいません……あ、あのーー」


「ジョージっ、もっと飯ない? サラダでもいいからさあっ」


 おかわりの要求で会話が途切れたとき、オリヴィアさんが、残念そうな顔をした気がしたけど……あとで時間があるとき、話を聞いてみることにしよう。

更新サボっててごめんね。食事前の手洗いうがいは重要。次からバトル。

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