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第十九話 ウィードボアを狩った

「すいません、さっき外してしまって」


 移動中、平静を取り戻しはじめた僕は、ようやく二人へ話しかけることができた。そんな僕へ、二人は労いの言葉をかけてくれる。


「なに謝ってんだよ。三頭当てて一人で二頭も仕留めたじゃねぇか」


「大変素晴らしいご活躍でしたよ。ジョージさんの状態が整いましたら、この調子で参りましょう」


 気を使われているという感じはしない。今は、あんな感じで石を投げていればいいのか。


「はい。お願いします」


 けど、さっきの戦闘で使用された剣も杖も、使うたびに劣化していくはずだ。三つしか投げられないなら、できる限り全てきちんと急所に当て、二人の負担を減らしたいものである。





 そうしているうち、僕らは新たな獲物の群れを発見した。


「お次はウィードボアか」


 ウィードボアと呼ばれた四匹の魔物は、猪の姿をしていた。ウィードということは、本来のボアと呼ばれる魔物よりも小さめだったりするのだろうか? 仮にそうだとしても、魔物だけに先ほどのバーストドーアほどではないが迫力は十分だった。


「あれも、狩る魔物なんですね?」


「柵を壊して人里へ侵入し、畑を荒らすだけでなく雑食なので人間を食べてしまうこともあります」


 僕の質問に、エマさんが真剣な顔で答える。なるほど、人間側としては、狩らなければならない魔物だ。


「アタシらにとっちゃあ幸先がいいぜ。一匹やったらまた突っ込んできやがるから、三個投げたら後ろで待ってろ」


「はい。では……」


 四匹いる以上、確実に三匹へ当て仕止め、アンナさんが一対一で最後のウィードボアと戦う状況を作らなければならない。


 息を吐き、収納魔法から取り出した石を、僕はウィードボアへ投げつけた。一投目は、無事先頭のウィードボアの頭を砕く。脇にいた二匹はすぐさまこちらへ突進をかけてきたが、その後ろにいたウィードボアが倒れたウィードボアのせいで少し出遅れた。これで余裕を持てたなら、しめたものである。


 そのまま猛然とこちらへ突き進むウィードボアたちへ、投石で攻撃する。二匹目、三匹目と絶命させられたものの、ここで誤算が生じた。先ほどのバーストドーアと違い、奴らは死んだあとも転がったり滑るようにしながらこちらへ進んできたのだ。


 二匹目が止まらない以上、三匹目もそうだろうと予測はしていた。けれど僕は、投げ終えたあとどうしても動き出すまで時間がかかってしまう。


 後ろへ回りつつ、このままでは奴らの死体に跳ねられるかも知れない。そう焦っていたとき、後ろから来ていたエマさんが僕と位置を入れ替える形となった。そして僕を背にしながら呪文を唱え、光るエマさんを中心としたドーム状の障壁を作り出した。ウィードボアの死体は、それにぶつかったことで勢いが死に、方向もズレる。それらをエマさんと交わしている間に、アンナさんが四匹目を仕止め、戦闘が終了した。それを確認したエマさんは、すぐさま僕のほうを振り返った。


「ジョージさん、お怪我は!?」


「大丈夫でした。守ってくれて、ありがとうございます」


 僕の様子に異常がないことを確認し、エマさんは安堵の溜め息を漏らす。一方アンナさんは、感心したように口笛を吹いて見せる。


「三匹全部仕止められたな。慣れてきたか?」


「その、慣れたとまでは言えませんけど、二回目だったからでしょうか。ただ、死んでも滑ったりしながら進んでくるとは思いませんでした」


「あー、あいつら割りと丸っこいうえ、速くて重いからな。まあ、次から気をつけろ」


 ウィードボアが進むコースによっては、今のように足止めをしきれないこともあるのだろう。頷きながら、惜しい気持ちで口にする。


「はい。上手く並んでくれていれば、石一つで二頭倒せるんですけど……」


 そうやって、不意討ちとなる最初の一投でもし二匹を仕止めることができていたなら、残る二頭にもっと余裕を持って対処できていたのではないか? そう思ってのことだったのだけど、エマさんに叱られてしまった。


「今日は正面から一頭一頭へ向け投げて下されば、それで十分です。決して無理をしてはなりません」


 とは言え、僕はアンナさんのように剣も使えなければ、エマさんのように障壁を出したり、仲間の傷を癒すこともできない。一度の戦闘で石を三つ投げ終えお役御免であるなら、もう少し工夫できないものかと考えてしまう。


「その、すいません。群れを狩り終えるたび、休ませてもらってますし……」


「アタシやエマも魔力を回復させたいし、気にすんな」


「三人で狩っていることもあってか、これまでより次へ移るまでの間隔も短くなっております。これもひとえに、ジョージさんが加わって下さったおかげですね」


 もしかしたら、この人たちには僕からもっと心を開いたり、気を使い過ぎず接するべきなのかも知れない。できるかどうかわからないけど。


「……ありがとうございます。このまま、受験料に足りるぐらい、仕留められたらいいんですけど」


 気恥ずかしさを隠すため笑って見せたものの、アンナさんの言葉は意外なものだった。


「ああ、十万? それなら、もうとっくに届いてるはずだぜ」


「え、そうなんですか?」


「ああ、届いてるよな?」


「はい。今の戦闘でウィードボアを倒したことで、十万ギルを超えましたよ」


 そうだったのか。いや、まだ十万だ。このあと単純計算だとしても三人で割ることを考えたら、もっと魔物を仕止めなければならない。けど、これを何度か繰り返せたなら、無事受験費用に届きそうである。


「まあ、仮に今日が不猟で足りなかったとしても、そんときゃアタシらが貸してやるつもりだったけどな」


「え、そんな、十万もですよ?」


 思わず声を上げてしまった僕に、エマさんが優しい声音で続けた。


「ジョージさんがまとめて購入されたポーション類は、私たちが必要でお願いしたものでもあります」


「け、けど、あれは俺が独断でーー」


「管理も任せてるしな。それぐらいなら出してやるって。三人で依頼を受けてれば、元もすぐに取れるだろうしよ」


 たしかにそれは、そうなのだろうけど……元の世界でも、面倒見のよい土木関係の社長さんは、作業員のアパートを用意し保証人になってあげたり、警察のお世話になった人の罰金などを払ってあげていた。けど当然、そんな親方は人情味のある人柄だと評判になるレベルであって、これは当たり前の厚意ではないのだ。


「ほんとに、いいんですか?」


 呆気に取られるばかりの僕を、二人はおかしそうに笑う。そしてそのあと、二人は僕の目を見て話してくれた。


「いいもなにも……お前が金足りなくなったときから、そのつもりだったんだよ。あんときだって、てっきり貸してくれって言われるかと思ってたら、依頼手伝わせて欲しい、だもんな」


「ジョージさんの自立心の強さ、アンナと共に感服致しました。誠心誠意お力添えさせていただく所存です」


 ……どうやら僕は、僕自身が思っていたよりはるかに、二人から仲間として認めてもらっていたらしい。というか、こっちに来てからの僕って、恵まれ過ぎじゃないかしらん?

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