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後編

魔の森とは魔王領の回りにある、富士の樹海的な魔物量産地です。

 幼い頃、父の狩りについていって、迷い込んだ魔の森で助けてくださった、煌めく銀の髪に緋色の瞳の、美しい女性。気さくにお付き合いを了承して、友達ね、と笑ってくださった魔王陛下。


 陛下方の粗相を詫びに駆けつけた時も、リー(わたくしのことですわ)が謝ることじゃないと笑ってくださった魔王陛下。しかも、国が傾くだろうから、と心配して我が公爵家との取引を提案されたのも魔王陛下であるリトさまでしたの。


 略式ですけど、お名前を呼ぶ許可を頂いた時は嬉しさのあまり踊り出す所でしたわ。


 ですから、その時決めましたの。


 愚か者を戴く国などあってはならない、と。リトさまにご迷惑をおかけする陛下など必要ありませんでしょう?


 父も母も、わたくしの考えに賛同してくたさいましたので、準備は滞りなく進みましたわ。


「陛下と第二王子が国庫を(カラ)にしそうだ、と財務大臣が干からびておりましたわ」


 魔王領では捨てるほどたくさんある魔物の皮や骨などは、魔道具の素材として高く売れますの。ありがたくも安く卸してくださるリトさまのおかげで我が国や近隣国は成り立っておりますわ。


 その取引がなくなり、国としての収入が減り続けているというのに、陛下の趣味の悪いゴテゴテギラギラな衣装は変わらず。殿下の恋する女性(ビッチ)への贈り物は豪華になるばかり。


 もう、いつ反乱が起きてもおかしくない状況でしたのよ?


「だからと言って……!」

「ええ、だから何度もお諌めしましたわ。貢いだ品物を返して謝罪するよう、令嬢にも忠告いたしました。このままでは犯罪者になりますわよ、と」

「なっ、な」

「そうしましたら、『ぐだぐだ脅すなら、あたしにベタぼれな愚王子にいいつけてやるわ』と」

「……は?」


 愛する令嬢からも愚王子呼ばわりされてますのね、殿下。


 憐れみを込めた視線に気づいたのか、わなわなと震えだしましたけれど、その怒りはわたくしにむけるものではないでしょう?


「アンバー!!」

「ちがっわたしそんなことっ!!」

「婚約届が五枚とはどういうことだ!?」

「勝手に出されたんだって言ってるでしょ!?」

「奴等だって根拠がなきゃそんなことしないだろうが!!」


 あのー、痴話喧嘩はよそでしてくださいます?


 それに、あなた方はこの茶番劇を卒業パーティーで披露するはずだったのではないの? 予定を変えられるとこちらも困るのだけど。


「っ、なんでそれを知ってるんだ!?」


 ……バカもここに極まれり、ですわねぇ。


「王族、もしくは準王族またはそれに連なる者に、国王直属の影が護衛につくのは、学園にいる者周知の事実ですわ。ですから当然、殿下とその婚約者候補だったわたくしにも護衛はついておりましたの」


 それに気づかず、こっそり計画を企てていた愚王子は、全て知られているのにこそこそしてらしたの。こちらはとうに対応策まで打っていたというのに。まったく、呆れますわよね。


「遠慮も情けも無用のようですわ。これ以上話してもご理解頂けないのでしょうし」


 と言うか、成り立たない会話につき合うほど暇じゃありませんのよ。


 わたくしの合図に、近衛騎士団が静かにきましたの。廊下ですので、捕り物には向かない広さですもの。彼らは殿下と取り巻きを拘束、令嬢は身動きが取れないほどぐるぐる巻きにして転がされておりましたわ。あら、興味深い格好ですわね。


「なっ、なにを!」

「はなしなさいよぉ!!」


 暴れる令嬢の動きがなにやら気持ち悪いので、見なかったことにしますわ。こう、クネクネ……グネグネ? グニャグニャ? ああ、視界から追い出しましょう、不快ですわ。


 近衛の方々の無駄のない働きにより、ようやく場所が移せそうですわね、喜ばしいですわ。今さらですけれど。



 面倒でしたが、皆さままとめて王宮へと移送しましたの。学院では他の方々の迷惑になるでしょうし、好奇の視線もたくさんありましたし。


 まぁ、後はそんなにやることも残ってはいないのですけれど。


 まず、国王陛下は退位されました。公式発表は急な病に倒れたため。事実は単なる王位簒奪。無能は玉座に相応しくありません。


 それに伴い、前国王一家は前の前の国王共々離宮へと居を移しましたの。無能一家とは言え、王家の血を野放しにはできないがためのやむ無しな処置ですわ。


 お馬鹿殿下と取り巻きと令嬢は、魔王陛下の助言で北の離宮にて自給自足生活に挑んでいただくことになりましたわ。結界で半監禁状態ですけど、お好きな女性と一緒ですもの。よかったですわね、皆さま?


 さて、王位は暫定処置でわたくしの父が継ぎました。わたくしに譲位するまでには国内のゴタゴタを片づけたいと仰ってくださってますわ。


 魔王陛下、リトさまからは国としての取引を再開していただけましたし、これで全てが解決したかしら。


 ……ああ、そうそう!

 わたくしの婚約者が決まりましたのよ! ええ、もちろん相思相愛だったあの方ですわ!


 今まで会えなかった分と触れられなかった分も、取り戻さなくてはなりませんわ。


 ええ、時間を無駄には出来ませんわ。急がなくては。


 では、ごきげんよう。






チラリと出てきた魔王さまのお話は、

「人生(魔生?)諦めてたら美形(達)にロックオンされて逃げられない件について」ムーンさんで連載していました。

一迅社様のメリッサ様より6月30日に発売されます。よろしければ、そちらもどうぞ。



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