最終話
講義中、俺はボーッとしたままだった。
どうしても、周藤のあの顔が忘れられない。
そして、知らない内に講義は終わってしまっていた。
いつもならメールを、送りつけるところだが、そんな余裕も無かった。
俺は、とりあえず古宮さんの元へ向かおうと荷物を用意した。
すると、古宮さんはこちらを見ていた。
そのまま、古宮さんの元へ歩いていく。
「大分落ち着いた?」
彼女はコクリと頷いた。
「今日は送っていくよ。帰ろう?」
そう言ったが、彼女の体は動かない。
「古宮さん?」
「一人になるのが……怖いの……。」
え?
「……今日は、城戸くんの家に帰りたい……。」
俺は、驚いて何も言えなかった。
俺の家?
俺の家に来たいって言ってくれた?
やっと君の方から歩み寄ってくれたんだね?
嬉しい……。
嬉しいよ……。
「あ、待って!!こ、これは違うの!何かボーッとしてたっていうか、本当ごめ──」
「──良いよ。」
「……へ?」
「良いよ。俺の家においで?」
俺は優しく笑うと、手を差し出した。
古宮さんは吸い込まれるように手を差してきた。
古宮さんの小さな手。
俺は、幸せを噛み締めながら家へと向かった。
俺の家に着くと、俺たちは向い合わせで座った。
何か……めちゃくちゃ緊張する……。
そんな事を考えながら、
少しの間、話をしていると俺のスマホが音をたてた。
その音に古宮さんは、ビクッとする。
「……あ、ごめん。バイト先から電話だ。ゆっくりしてて?」
そう言って、俺はスマホを握ると部屋を出ていく。
バイト先からなんて嘘だ。
俺は、通話ボタンを押すと、スマホを耳に当てる。
「──何の用?」
『冷たい声。』
「……いつもの事だろ?今忙しいんだよ。早く済ましてくれねぇか?」
『……もうアタシとやり直すつもりは全くないの?』
「はぁ?前も言っただろ?俺は古宮さんの事が好きだって。てか、お前が浮気したから別れることになったんだろうが。』
『その事はもう忘れてよ。アタシもあの時は、きっと狂ってたのよ。』
「もう切って良いか?」
『安奈は……稜弥の物にはならないわ。』
「だったら何だよ?葛西には関係ねぇだろ。」
『もう結愛って呼んでくれないんだね?』
面倒くさいと思いながら、葛西の話を聞く。
葛西結愛は、俺の元カノなのだ。
『アタシとよりを戻してくれれば、警察には言わないようにするから。ストーカーのこと。』
「それって脅し?残念だけど、よりを戻す気は無いから。」
『周藤にも伝えたの。城戸に何を言われたかは知らないけど、私が何とかするから安奈に全てを話して!!安奈を助けてっ……!!って。』
「伝えたければ伝えれば良い。」
『今のアンタに杏奈が振り向くとでも思ってるの?傷付く前に、アタシとよりを戻しなさいよ。』
「しつこいな……。振り向かなくても良いんだよ。俺は古宮さんの全てを支配したいだけだ。まぁ、大分楽しませて貰ったから、そろそろバレても良いとは思ってたんだよ。」
『周藤は既に、警察には連絡済みらしいわ。』
「どうでも良い。」
『稜弥……変わったわね。』
「お前のせいだよ。お前が、俺だけを見てくれなかったから……浮気なんてするから……。だから、次に好きになる人は、必ず俺だけを見させるって決めた。だから、俺は彼女の全てを支配するんだ。」
『……アタシの……せいか……。』
「話すのも最後だな。元気でな。」
『待っ、稜弥───』
プツッ。
通話を終了させると、スマホをポケットにしまう。
そして、静かに家の中に入る。
部屋の中からは、声が聞こえる。
周藤と電話か……?
つまり、彼女は全てを知ったって事だ。
俺は、静かに玄関の鍵をカチャリと閉めた。
そして、部屋の扉を開ける。
そこには、古宮さんのアルバムが落ちていて、床に散らばっていた。
そして、パソコンにはいつも見ていた古宮さんの部屋が映されている。
どのみち、今日全てをバラすつもりだったんだ。
別に動揺することはない。
古宮さんの顔は、ひどくひきつっている。
そして、俺を恐怖に満ちた目で見つめる。
古宮さんの手から、スマホがするりと抜け落ち、ゴトッと音をたてる。
俺は、スマホを拾い上げると通話終了ボタンを押した。
周藤が何かを言っていた気がするが、まぁ良いだろう。
俺は、ニヤッと笑うと尋ねた。
「───誰と電話してたの?」
一歩一歩近づいていくと、古宮さんも一歩一歩後ずさりをする。
すると、古宮さんはベッドに引っ掛かり、そのまま後ろに倒れた。
俺は、そんな彼女を涼しい目で見下ろす。
この支配感……たまらない。
どうせ、捕まるなら最後に好きにしても良いよな?
彼女のことを、ずっと観察できない代わりに、彼女の記憶に刻み付けてやることにしよう。
一生、俺の事を忘れないように……。
俺は、冷酷に彼女に告げる。
「ようやく気づいたんだね?
でも、もう逃がさないよ───。」
何とか完結しました!
サイドストーリー、いかがでしたでしょうか?
またご意見、ご感想などお待ちしております。
読んでくださってありがとうございました!!