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数匹のホブゴブリンが入り口付近まで来たが、アルツもいたので問題なく終わった。炎の魔力が尽きたので、今度は内部の換気を行う。
「空気を入れ替えてどうするんだ?」
「中のゴブリンたちを確認しないといけないからな。キングがいれば、その討伐証明をもっていかないといけないし」
ギルドに戻ったときに巣のことを報告するつもりだが、その証明となるものが必要だ。キングがいるとは限らないが、流石に上位種がいるのは間違いない。それらの幾つかの討伐証明を持ちかえればキングほどではないが証明になる。
巣の報告をすれば、中を一掃したとしても一度周辺に確認に来る。巣から出ているゴブリンもおり、それらが戻ってくるのもある。それらの盗伐も必要になるからだ。その時に巣内に残した討伐証明を持っていなかったゴブリンも概算でだしてくれる。これはギルド側が監視して行うからこちらも安心して待ってられる。
おおよそ、その内容をアルツに話したが、やはりわからないような顔をしている。馬鹿というわけじゃないんだろうが、思考系のことは苦手なんだと思う。
「もしも中に雑魚の生き残りがいたら、討伐を頼む」
「おう!」
アルツの元気のいい返事を聞き、中に入る。熱気を入れ替えたとはいえ、まだ暑い。流石に熱された壁や床なんかは完全に冷えてはいない。その暑さの中、ゴブリンの死体を数えながら先に進む。そこまで長くはない。すぐに広い場所に出る。
「……キング、まだ生きてたか」
ゴブリンキングが、全身に大火傷を負った状態で、辛うじて生きていた。恐らく、側にいるゴブリンがキングの保護か回復を行っていたのだろう。そちらはすでにこと切れている。
アルツがキングを討つために動こうとするが、それを腕で遮る形で制する。
「ハルト?」
「あれは俺が殺す。アルツは他の確認をしてくれ」
「え、でもいいのか?」
ニュアンス的には俺を守らなくていいのか、という意味だろう。
「流石にあの状態で碌な動きはできない。死に物狂いで襲ってくるにしても、こちらの方が動きが早いさ」
「……ならいいが」
そう言ってアルツが離れ、他のゴブリンの確認に行く。全く躊躇がないのはいいことなのか悪いことなのか。
俺はゴブリンキングの前に立つ。キングはこちらを睨みつけている。恐らくは俺が今回の仕立て人であることを理解しているからだろう。俺を殺そうと、動こうとはするが、熱に爛れた体を動かすことは出来ていない。
「お前の止めは、俺がきちんと刺すべきだと思うんだ」
今回のゴブリンの殲滅を行ったのは俺だ。だから、その相手である、ゴブリンの長ともいえる相手は俺が殺すべきだと思う。それが戦いを始めた者の、礼儀という言い方は変だが、負うべきもの、務めみたいなものだと思う。
「"風よ刃となり剣を作れ"」
杖の先に、風の刃を生み出す。風の刃は割とメジャーだが、常識的に考えてこんなものを作れるはずがないとは思う。鎌鼬なんかがあるから、風属性に切断系のものができたのではないかと俺は考えている。
そんな本筋と離れた思考はさておこう。生み出した刃で、ゴブリンの心臓を狙い、貫く。一度で当たった保証はない。何度も、その胸部を貫く。ゴブリンの顔を見ると、その目から生気が消えていた。俺が、この手でゴブリンキングを殺したのだ。
「…………ふう」
生き物を殺すことにはある程度慣れている。それを望んだり、積極的にしたいとは思わないが、必要ならば行うだけの精神力はある。だが、やはりこの手で殺すというのはどこまでも重い何かがある。多分、俺が考えすぎなせいだろう。
「さて、討伐証明を……」
ゴブリンキングの討伐証明部位は、頭部にある特徴的な角だ。キングの名称は伊達じゃない。頭部の角は他のゴブリンとは違い、王冠のように生えている。それはキングのみに見られる特徴だ。それが討伐証明部位となる。
ちなみにこの王冠は、大きさでキングの年齢がわかるらしい。成長とともに大きくなるらしいので、大きければ年を重ねたキングだということだ。まあ、今回は相当若い……巣が作りたてっぽいので生まれてすぐといったところだろう。
「こっちは見終わったぞー」
「生き残りはいたか?」
「いなかった!」
少し不満そうだが、どうせ死に体のところを討つだけなのだから戦いにはならないぞ、とアルツの返事を聞いて思う。こちらもキングの討伐証明部位を切り取り、袋に入れる。
その後、内部にあるゴブリンの種類と死体の数を確認した。
「それじゃあ、ギルドに戻るぞ。安全に」
「他のゴブリンは倒さないのか?」
「巣の報告があるし、俺も魔力があまり残ってないからな。あまり戦闘したくない」
「そうか…………」
アルツは残念そうだ。まあ、途中に何度も戦ったのだ。我慢してほしい。そもそも、ゴブリンを探すのは俺の魔術なんだが。
ギルドに戻り、ゴブリン討伐の報告をしに受付に行く。ちょうど受付をしていたのは俺とアルツの登録を担当した受付さんだ。
「ゴブリン討伐の報告をしに来ました」
「はい、わかりました。ギルドカードと、討伐証明を提出してください」
にこやかに対応される。こちらとしても、以前のドタバタを気にしていない様子なのはありがたい。
俺はゴブリンの討伐証明の入った袋と、ギルドカードを提出する。
「ああ、あと報告したいことがあります」
「なんでしょう?」
受付さんが首を傾げる。まあ、ゴブリンの討伐に行った成りたての冒険者がわざわざギルドに報告をする、なんてことは殆どないだろうし。
「北西の山脈でゴブリンの巣を発見しました」
「…………えっ?」
いった言葉の意味がわからない、といった感じだ。
「それと、その巣を殲滅、キングの討伐も行いました。討伐証明部位はその袋の中に入ってます」
「えっ………………えっ?」
もう、何が何だかわからない、といった感じだ。混乱している状態だが、とりあえずしっかりと仕事はしてくれている。後を受付さんに任せ、アルツを待たせたテーブルに向かう。そのまま、そこでアルツとしばらく話し、ゴブリン討伐の確認が終わるまで待つ。
「あの……」
結構アルツと話していた、というよりはアルツの身の上話、神儀一刀の道場での諸々の話を聞くばかりだったが、しばらく話していると声をかけられる。声の方を向くと、受付さんが来ていた。
こちらが受付さんの方を向くと、確認が終わったことを告げられる。
「討伐の確認が終わりました…………それと、お二人方をギルド長がお呼びです」
まあ、呼ばれるだろうと、予測はしていた。