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「いいか、アルツ。これからゴブリンの巣に行くが、話すときは小声で話せ。あと、絶対に勝手に突っ込むな。もう一度言うぞ、絶対に勝手に突っ込むな」
「あ、ああ……」
ちゃんと聞いてくれているが、本当に勝手な行動はしないだろうな。いや、ちゃんと話した時はわりと言ったことは守るから問題ないか。
俺たちは森の中をゴブリンの巣の周りにいるゴブリンに見つからないように近づく。周りにいるゴブリンは恐らく見張りの類なのだろう。見張りを置くぐらいに知能の発達があるということは、結構大規模な巣だ。下手をすれば若いキングがいる可能性もある。
「なあ、アルツ。あの周りのゴブリンを相手に全く気づかれずに倒すことは出来るか?」
「……流石に無理だな。二体……良くて三体がいいところだな」
流石にアルツでも無理か。まあ、そうだとは思っていた。
「………仲間を呼ばれる前に倒したいんだよな」
正確には、中からゴブリンが出てくる前に倒したい。確実とは限らないが、即殺できないのであれば、もともと考えていた手法を使おう。
「アルツ、合図をしたら一気にゴブリンを倒すぞ。俺は後ろの方にいるゴブリンを、お前は前にいるゴブリンを頼む」
「それは良いが、ハルトは戦えるのか?」
「……仮にも俺は魔術を散々使っていたと思うんだがなぁ」
まあ、攻撃能力のある魔術を使っていないから攻撃手段を持たないと勘違いしてもおかしくはないだろう。そもそも攻撃する前にお前が倒すからそうなるんだって言いたい。
「使えるから安心しろ。戦う準備はしておけよ」
「わかってるぜ」
すでに剣を抜いている。戦いに関しての行動は本当に早い。
「"風よ空を伝わる動きを遮断せよ"」
まず、入り口となる洞窟部分に空気の振動、声が伝わる要素を遮断する風の壁を展開する。これにより、中に外のゴブリンたちの声が伝わることはない……と言いたいが、ほかに入り口や空気口の類があると届いてしまう可能性もある。その時は仕方がないとあきらめるしかない。
「"風よ地にいる者を高きに運ぶ道となれ"」
魔術を待機させる。これで後は発動させるだけだ。待機状態でも魔力の消費はある。あまり長く維持するのは厳しい。
「アルツ、行くぞ!」
「おう! 神儀一刀、先駆け!」
声をかけるとすぐにアルツが行動する。あの先駆けというものは何度か見せてもらったが、本当に訳が分からない。理屈で説明できるようなものじゃないのだ。技は相手に正面から不意打ちを仕掛けるというものだ。あの技を使うと同時に、相手の目の前に使い手が現れ、その時点ですでに剣を振るった状態なのだという。
どうやってその技を使っているのかが本当に理解できない。ただ、この技は正面からでないと使えず、後ろからや横からの発動はできないらしい。本当に正面からの不意打ちを行う技である、ということだ。
アルツが行動を開始したのに少し遅れ、こちらも待機させていた魔術を発動する。発動が遅れたが、そもそもが完全な不意打ちだ。問題ない。
後ろのゴブリンたちが魔術により空に跳ね上がる。森の木々よりも遥かに高い高さだ。横に吹き飛ばす類の風の魔術はある。それを縦にしただけの簡単な魔術だ。ただ、横に吹かせるよりも魔力消費は大きくなるのだが。高く跳ね上げられたゴブリンは、何もできない。ただ落下するだけだ。真下に落下させると音があれなので、森のほうに吹き飛ばしている。運が良ければ枝に引っかかって生き残れるかもしれないな、重症は免れないと思うが。
アルツの方を見ると、すでに残っていた前側のゴブリンを全滅させていた。行動が早い、というかテンカウントがあるのだから一秒で十秒分の行動ができる。本当に神儀一刀はチートだと思う。
「終わったぞ。吹き飛んでいったのは良いのか?」
「この山の頂上よりは低いだろうが、森のほうにかなりの高さまで吹き飛ばした。仮に枝に引っかかっても、生き残れる保証はないくらいの高さだから放っておいても問題ない。今回は排除そのものが目的だからな」
中のゴブリンたちに気づかれず、という条件付きだが。
「それで、この後は巣の中に突っ込むんだな!」
「待て。とりあえず待て。突っ込むなよ? 絶対に突っ込むなよ?」
ふりじゃないからな。二回言ったぞ。重要なことだからな。
「じゃあどうするんだよ? 戦うんじゃないのか?」
「戦うんじゃないんだよ」
なぜそう戦おうとするのか。戦闘狂か、お前は……いかん、否定できないかもしれない。
こちらの言葉にアルツがむー、といった顔をする。そんな顔をしても中には突っ込まないぞ。
「アルツは戦いたいのかもしれないが、普通は安全な手を打つものなんだ」
「……ハルトに任せる。俺はそれほど頭がいいわけはないしな」
自覚はあるのか。
「外にゴブリンが出てくるかもしれないが、どの程度無事かもわからない。その時はできるだけ倒してほしいが、入り口付近には近づくなよ」
「何をする気なんだ?」
「蒸し焼き」
巣の入り口を見つけた時にすでに中をある程度簡単に探査をしている。それほど大きくない巣で、中に人の存在は恐らくない。
いたらあれだからもう一度使い、今度は念入りに調べたが、人らしき姿はなかった。だが、俺の探査も完璧というわけではない。いた場合、その命をあきらめてもらうしかない。残酷な話だが。
「"炎よ大きな熱を発して燃え上がれ"」
炎の魔術を行使する。かなりの魔力を注ぎ、数十分は維持できるようにする。
「炎を出しただけじゃ意味がないんじゃないか?」
「当たり前だろ。"風よその流れに熱を伴い届けよ"」
生み出した炎、それを通るように風の魔術を行使する。この風の魔術には、魔術で作り出した炎の熱のほとんどすべてを保持し、流れるようにした。これを入り口に流す。巣はこの入り口以外はなかった。声が届くことを心配していたが、必要なかったのがのちの探査で分かった。まあ、気にしすぎるくらいがちょうどいいだろう。
熱を伴った風は巣の中に充満し、温度を上げる。風の流動は熱を伴った風のみだ。それゆえに、中の温度は上がり続け、ついには熱で体が焼けるほどだ。入り口からは熱風が吹き込むため、外に逃げようにもさらに熱くなるだろう。風に逆らう形にもなるため、入り口に到達する速度も落ちる。その間に焼けていくだろう。
体力のあるホブゴブリンあたりがいれば、生きて入り口にたどり着くかもしれないが、ダメージは相当なものだ。そしてアルツがいる以上、こちらに攻撃される前に止めをさせる。炎が消えるまでこれをやり続ける。数十分魔術を使い続けるとほぼ魔力切れだ。帰りはアルツにすべてを任せるしかない。




