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村まで案内され、流石に日が落ちた。今日はこの村に泊まることとなった。
マリエッタはアルツと俺を自分の家に泊まるように誘ってくれたのだが、流石に二人も止めるのはマリエッタの家の人にとっても大変だろうし、マリエッタの意図はまあ、なんとなくわかっているので、アルツだけがマリエッタの家に泊まることになり、俺は村長宅に泊まることとなった。
本来、こういった村では人が止まるような公共の建物くらいはあるのだろうが、俺が自己紹介の時に家名まで言ったことで、貴族であると向こうが知ってしまったのでこうなってしまった。別に冒険者をやっているのだからそういうことで文句を言うことはないのだが、向こうにとっては貴族というだけで大変な相手なのだ。相手の心情的問題もあるので、おとなしく村長宅に留まり、簡単な歓待を受けることになった。恨むのならば家名まで行ってしまった自分を恨むしかない。
その時に話したが、ゴブリンについて色々と聞くことになった。最近ゴブリンが増えてきている、今は村にいる元冒険者の村人や狩人で対処しているが、増えすぎて村人の活動範囲にどんどん来ているらしい。マリエッタが襲われていたところを助けた旨を話すと、眉間にしわを寄せていた。
マリエッタはそこまで遠くまで出るほどの仕事をしているわけではないらしく、その範囲までゴブリンが来るとなるとそうとう向こうの活動範囲が広くなっている、数が増えているということになる。
村人を助けたということでお礼をされそうになったが、俺が助けたのではなくアルツのやったことであるし、冒険者のゴブリン退治のついでみたいなものということでなんとか礼をもらうことなく話を打ち切った。
とりあえず、明日ゴブリンがどういう状況なのか詳しく調べよう。もし巣か魔窟でもあるようなら早急に対処しなければならない。
翌日。村長宅で早い朝食を食べ、アルツの泊まっているマリエッタ宅を訪ねた。
「アルツ、起きてるか?」
「ん? おう! ハルト! おはよう!」
「ああ、おはよう。とりあえず飯を食べながら喋るな。全部食べてからにしろ。」
口の中に物を入れている状態なのにどうやって出さずに話しているのか不思議だ。だが、口の中のものを吐き出すことがないからと言って食べ物を入れた状態で話すのはマナー違反だろう。気分がよくないぞ。
アルツは特に変わった様子はない。マリエッタの方を見てみるが、マリエッタはむっ、とちょっと不満が見える顔だ。あの様子だと何もできなかったのか、相手にされなかったのか。もしかしたらアルツは性教育を受けていない可能性もあるし、そういうのに気づかなかったのかもしれない。
「食べ終わったら、すぐに村を出るぞ。色々やることがあるからな」
「おう! わかった!」
「え!? もう行ってしまうですか!?」
マリエッタがアルツとの会話に反応し、こちらに聞いてくる。
「ゴブリンが増えているって話だし、このまま放置するのも気にかかるからな。マリエッタも昨日襲われただろう」
「っ」
怯えの混じった表情を浮かべる。昨日襲われていた様子だ。その時のことを思い出したのだろう。
「今日もゴブリン退治だな!」
「ああ、そうだな。全滅させる気で頑張ってくれ」
「おう!」
アルツは相変わらず元気のいい返事だ。俺とアルツのやり取りでアルツがゴブリンを退治すると言ったのがよかったのか、少しマリエッタの怯えが消えている。
「朝食が終わったらでいいから、しっかり準備してから来いよ。村の入り口のあたりにいるからな」
「わかったぜ!」
ちゃんと着替えてこいと言ったのに急いで中途半端な状態来るのか。待たせてもいいからちゃんと言われた通りにしなさい、とアルツをしかりつける羽目になった。ちゃんと準備させ、村を去る。
村を去るとき、マリエッタとその家族が見送りに来てくれた。改めて助けてくれたことに対し礼を言われた。別に俺がやったわけではないので、アルツにやれと言っておいた。まあ、もうアルツにはやっていたようだ。アルツから話を聞き、マリエッタが襲われているところを見つけたのは俺だということがわかったので改めて二人に礼を言う、ということになったらしい。
そう言われては仕方がない。むずがゆい感じがしたが、しっかりと感謝を受け止め、村を去った。去るときマリエッタがアルツをじっと見つめていたが、流石にまた会うことはないだろう。
「それで、これからどうするんだ? ゴブリン退治だろ?」
「基本的には昨日と同じ。俺が探して、案内してそこにいるゴブリンたちを討伐。その過程でゴブリンたちの巣、または魔窟の存在を見つける」
ゴブリンたちが増えているのには相応に理由がある。ゴブリンたちの出る魔窟があるか、ゴブリンたちの住む巣があるかのどちらかだ。
魔窟であろうと、巣であろうとどちらでも構わないが、探して潰さないと数が増えると雑魚とはいえ厄介なことになる。探して見つからなければ、ないということになるがそれならそれでいい。
「"風よ世界に在るものを探せ"」
今日も風魔術を使う。風魔術は探知という観点においては利便性がいい。昨日使っていたのと今日使ったのは違い、昨日はある程度対象を絞った形だが、今回のは対象を広げ、地形などの把握もしている。その分、術の構築にかかる時間が伸び、魔力の必要量が増えるのだが、もともと俺の使う魔術はそこまで魔力必要としないので問題はない。
風による探知により、多くのゴブリンの位置を把握する。今回の目的はゴブリンの数を減らすこと、そしてゴブリンたちの発生源を見つけることだ。つまり、ゴブリンの数が多い方向へ行く必要がある。
「アルツ、ゴブリンたちを見つけた。もちろん戦えるよな」
「当たり前だろ」
こういう時は何も考えず戦う選択のできるアルツが頼もしい。脳筋なのは残念だが。
俺たちは何度かゴブリンと戦闘し、数の多い方向を目指す。その途中、ゴブリンソルジャーの存在を見つける。ゴブリンソルジャーは、素手の爪での攻撃を主とするゴブリンの中で武器を持つことを覚えたゴブリンだ。その程度のことなのだが、それは知能の低いゴブリンが知識を持ったことの証左だ。
ゴブリンの知識が向上する要因が巣の存在だ。魔窟ではこういったことは起きない。つまり、ソルジャーがいるということは巣の存在があることの証明となる。
ちなみにソルジャーは通常のゴブリンと基本的に同じなので、討伐証明は鼻だ。別に討伐報酬が増えるということはない。
「"風よ世界に在るものを探せ"」
ある程度の数を討伐し、減らし、もう一度魔術を使い探査をする。今度はより範囲を広げる。魔窟ではないことから、恐らくは森の中には存在しない。山側のほうに風を広げ、探査する。
「……あった」
山側、崖の一角。今いる場所から東北東の方角、そこにゴブリンたちの巣と思われる場所を発見した。