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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
demi god
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20

 セシリエに言われた通り優樹は西に向かう。空を駆け、大地にあるすべての障害に遮られることなく一直線だ。西に行けば行くほど、異質な空気と力を優樹は肌で感じている。以前の優樹であれば気付くことはなかったが、今の優樹は以前よりも大きく力が上昇している。そのおかげで感じることができるようになったのだ。その異質な空気の元がセシリエの言った化け物であることにすぐに思い至りそちらに優樹は向かう。

 遠目に空に裂け目ができているのが見える。優樹はその裂け目に見覚えがある。先ほど優樹が作った空間の裂け目、そしてこの世界に来る前に見た神の男が出てきたときの世界の裂け目だ。すなわち、空にできた裂け目は世界に開けられた穴である。


「いた!」


 裂け目の方に向かっていると、大地を破壊するように暴れている巨大な怪物の姿が見える。五つの目、二つの尾。七つの足に背中に生えた三つの腕。狼の頭、炎でかたどられた人間の頭、口と鼻だけが表面にびっしりと付けられた頭を持つ異常な存在。そして、優樹はその存在から感じる力から、神に類する存在か、それに匹敵するような存在であるとわかる。

 優樹が怪物に近づくと、怪物がその接近を察知したのか優樹の方に狼の頭を向ける。そして空に高らかに吠えた。その声を合図に炎でかたどられた顔、口と鼻だらけの顔も優樹を見て、叫ぶ。その異様さに優樹の背筋に嫌な汗が伝う。怪物はその七つの足で大地を蹴り、優樹に跳びかかった。全ての足の力を込めて蹴ったことによる跳躍は普通の生物が出すような跳躍速度とは思えない速度を出して優樹に跳んでいく。そもそも優樹に比べると大きさが全く違う。


「天剣!」


 まともに当たれば原形を留めない肉塊になる、優樹はそう思い、自分に向かってくる怪物に剣を振るう。放たれた剣戟は優樹が神の男と戦っていた時よりも大きい。あの戦いのときは男と優樹に力が半分ずつに分けられていた。今の優樹はあの時の二倍の強さを持っているのである。

 しかし、怪物の大きさを考えれば針で刺した程度のような一撃でしかない。まともなダメージになっていないことを優樹は確認して大きくその場から離脱する。相手の攻撃の有効範囲が大きすぎるので二度の跳躍でようやく回避できる位置まで退避で来た。怪物は優樹のいた場所を通り過ぎ去っていく。すれ違いざま、炎でかたどられた顔がこちらに炎を吐いてくる。


「っ!」


 咄嗟に力を込めた剣を振るい、吐かれた炎を散らす。過ぎ去っていく中で吐かれた炎であるためそれほどの量があったわけではないが、それでも優樹の体を熱気で焼く。炎を散らしても大きなダメージを優樹は受けた。


「くそっ! こんな相手に勝てるわけないだろ!」


 熱気で焼かれた体を優樹はすぐに回復する。ダメージを残していたらいつ痛みで体の動きが鈍くなるかわからない。怪物は優樹を過ぎ去ってかなりの距離まで跳んでようやく止まる。だがその顔は依然優樹の方を向いている。


「天剣!」


 先ほど放った天剣とは違う一撃、神の男と戦った時に最後にはなった空間ごと存在を切断する一撃。流石に近づいたうえで全力の一撃を放つには相手の強さがとんでもなく危険なものと感じられたためできない。放たれた一撃は怪物に大きな傷を与えた。怪物はその痛みで大きく吠え、怒りのこもった視線を優樹にぶつける。優樹をみる口と鼻だらけの顔、その口から周囲に向けて光線が放たれた。


「うわっ!?」


 一瞬口の中に見えた光、それに嫌な予感を感じ優樹は全力で力を前方に向け壁を張っていた。そのおかげで口から撃たれた光線の威力を防ぐことは出来た。口は頭のいろんな場所についており、すべての口が光線を放っていた。優樹以外の方に向けられた光線は大地を割り、街を塵にして、山を貫いた。優樹もその光景を見てぞっとする。もし優樹が全力で防御していなければ同じようなことになっていたかもしれない。

 辛うじてダメージは受けていなかったものの、光線を防いだ反動でかなり後方へと飛ばされた。しかし、変わらず怪物は優樹の方を見ている。優樹が怪物の力を感じ取れたように優樹も怪物の力を感じ取れる。常にその位置を把握できるのだ。

 怪物がもう一度優樹に跳躍し体当たりをしようと足に力を籠める。


「させるかっ!」


 優樹は上空に手をあげ、自分が戦った神の男が使ったように巨大な隕石を作り怪物へと落とす。怪物の跳躍と隕石の衝突が重なり、大きな破砕音が鳴り響く。隕石が無数の破片となり、砕け散る。その中から勢いが衰えたものの、怪物の体が優樹へ向けて跳躍して現れた。


「なっ!? ダメなのか!?」


 その姿を見て回避しようとしたが優樹の動きは相手を見てからであったため若干遅れていた。怪物の体の端の方に優樹がぶつかり、退避の軌道も合わさり遥か彼方に飛ばされる。


「うわあああああっ!」


 何とか空中で姿勢制御をしようとするが、ダメージでうまくできない。何とか体制を整えたが、その時にはかなりの距離を飛ばされていた。


「これやばいかな…………」


 受けたダメージは結構なものだ。骨が何本も折れ、体の一部、まともに攻撃の当たった部分はつぶれていたり部分的に失っている。優樹は自身の体に力を籠め、体の傷の修復、再構成を行う。

 優樹の放った一撃、巨大隕石は本来の威力からかなり減衰されている。それはこの世界が優樹の世界ではないからだ。この世界を圧し、自分の影響を強め存在しないものを創造するのは強大な神でも大変だ。それでも、優樹の放った巨大隕石は優樹と戦った神の男が使ったものよりも圧倒的に強かった。だが、それほどの威力をもってしても怪物には届かない。それは何故なのかというと、そもそもの力の差が大きいからである。

 優樹は空間を裂くことができても世界を裂くことは出来ない。しかし、怪物は世界を裂いてこの世界に来た。つまり怪物の力は世界を裂くことができるほどの力である。その点からも力の差は歴然としていることが分かったはずだ。最も、そのことは優樹にはわからない。優樹にそれだけの知識を得る機会はなかった。

 怪物が再び優樹の方を見る。数回のやり取りで優樹はどうすれば倒せるのか、と考え始めたが全く打つ手が思いつかない。また跳躍の体勢をとり、怪物が優樹に跳びかかった。


「っ!」


 防ぐことに全力を注ごうとして、優樹の視界、周囲全てが真っ白に染まった。優樹には何も見えず、怪物の姿を確認できない。だが怪物の体当たりが来る様子もない。一体どういうことだと優樹が思っていると声がする。


「まさかこんなことになっているとは思いませんでした。色々な条件が重なったためでしょうけど、観察を続けていればよかったですね」


 女性の声が聞こえる。その言葉が終わると同時に周囲に満ちていた白い光は優樹の周りから去っていく。それが見えていたわけではないが、移動することは何故か感じられた。

 白い光が自分の周りからなくなり、目の前の光景が見える。空中でじたばたと暴れている怪物。そして、その怪物に手を向けて空中に浮かんでいる女性の姿だ。優樹はその女性の姿に見覚えがあった。事故ではあったが自分を巻き込んで死なせかけ、何とかして優樹を蘇生しこの世界に放り込んだ、優樹がここにいる原因の一つ、『調停と秩序の神』である。


「全く、次元獣がここまで育っているとは。ほとんどの場合は大火守がおやつ代わりに食べるかどこかの世界の世界神が殺しているはずなんですけどね」


 誰に向けるものでない独り言を彼女はつぶやいている。怪物に向けている手とは逆の手に『調停と秩序の神』は力を籠める。それは優樹の見せた巨大隕石を生み出す際に使った力がその辺の道ばたに落ちている小石程度に感じられるほどに強大だ。その力を怪物に振るう。

 音はなかった。ただ、優樹の目の前で、怪物が空間ごと消し飛ばされた。マッチの火を掻き消すようにあっさりと。

 本来それほどの力を振るうのであれば世界の反発があってもおかしくなかった。しかし、今この場所は『調停と秩序の神』が生み出した白い光に包まれた空間の中である。白い光はその光の中の空間を一時的に彼女の領域とするために使われていた。だからこそ、空間を消し飛ばすような大規模な攻撃が可能だったのである。一時的に世界を切り取ることができる程、彼女の力は強大だ。

 怪物以上の化け物が優樹を見る。自分の叶わない怪物をあっさりと滅した存在である彼女が視線を向けたことで、びくっと優樹は体を震わせる。『調停と秩序の神』はその優樹の様子を見て、小さく悲しそうにため息をつく。


「とって食べたりはしません。今回私が動いたのは別にあなたをどうこうしようというものではありません。どちらかというとアフターケアです。そうですね、この場で話してもいいですが、場所を整えて話しましょう」


 そう言って彼女は手を振って世界に裂け目を作る。その先には小さな机といすが置かれた部屋が存在した。この世界の側にたったいま即席で作った本当に小さな世界である。


「ついてきて下さい。今後のことを話しましょう」


 圧倒的な実力差のある彼女の言葉は優樹にとっては命令に等しい。無言で肯定を示し彼女についていくしかなかった。


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