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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
demi god
121/485

E

 椅子に座り、机を挟んで対面した状態になる。


「まず、最初に謝罪をさせていただきます。申し訳ありませんでした」


 優樹は何のことだろうと疑問を浮かべる。目の前の相手に謝罪されるような何かがあっただろうか。そう思っていることが顔に出ていたのか、『調停と秩序の神』は話を続ける。


「あなたがこの世界に来る原因は私の攻撃によるものです。殆ど予測のできない事故のようなものですが、攻撃をしたという点において悪いのは私ですからね」

「はあ…………」


 今更謝られても、という気分ではある。優樹がこの世界に送られるときか、送られた直後に謝ってくれればよかったのではと優樹は思った。


「さて、まずは今後のあなたの立場について話しましょう」

「……立場ですか?」

「はい。あなたは今、神と呼ばれるような存在に匹敵する力の持ち主、もしくはそのものともいえるような存在へと昇華した状態です。そうである以上、単純に放っておけるわけではありません」


 確かに優樹の力はこの世界に来た当時よりもはるかに上昇している。神が融合した時点では神の力を得たとんでもなく強い人間、程度だったが、その後に世界樹の実、世界を生み出すほどの力を秘めているものを取り込み、その存在の強さを高め、今や神に匹敵した力を持っている。もっともそれは世界に穴をあけて外に渡るほどの力を持っていない程度だ。それでも神は不老不死、殺しても死なない存在であり、特に元々が人のような普通の生物から昇華した神は大きな成長性がある。それを加味すれば放っておけばどうなるかわからない危険な存在といえる。

 ただ、優樹は神についての知識はまったくもっていない。そういう諸々の話を知らないので、いまいち目の前の女性が言っていることを理解しきれない。


「えっと……それで、俺は一体どうなるんですか?」

「本来であればこちらが監視したり、危険があれば滅ぼすことで対応しますが、もともとあなたに関しては私が原因でこの世界に来ることになっています。ですからあなたは私の庇護、監督下に置くということになります。そのうえであなたにはこの世界の管理神になってもらうつもりです」

「この世界……元の世界に戻ったりは?」


 優樹はこの世界で過ごすのがつらい、というわけではないが、元の世界に帰りたい、元の世界で過ごしたいという欲求はある。本来優樹にとっての世界は元の世界である。その質問に対し、『調停と秩序の神』は首を振る。


「残念ながらできません。元の世界は特殊な力や能力が非常に薄い、基準世界が元である世界です。その世界においてあなたのように異常な力や能力を持つ存在はあの世界にとっては異物に近い。ですから、蘇生をしても元の世界に置くことは出来ずこの世界に送ることになりました」

「そうですか……」


 この世界に来た後、元の世界に帰りたいと思ったことはあったが優樹自身、自分の持つ力をどう説明すればいいのか、仮に帰っても元の世界でこの力を使わず生活できるのかは結構な疑問だった。そういう意味では帰れないとはっきり告げられる方が心の整理はつく。もちろん、精神的なショックは大きいが。

 いつまでも元いた世界のことを考えても仕方がない。帰れないのでは尚更だ。気持ちを切り替え、優樹は目の前の女性に質問をする。


「管理神になる、というのは?」

「この世界は管理する神の存在がありません。多くの世界は管理する神が存在しますが、無数に存在する世界全てに管理する神を置くことができるわけではありません。別にいなくてもいいですけど、新しい神が生まれ、それが自分の管理下にあるのならば遊ばせておくのもなんですからね」

「えっと……やらなくちゃだめですか?」


 優樹はいまいち自分が神であるという実感はない。だから神の仕事をやれと言われ、困ったように聞く。


「やらなくてもいいですが、その場合は本当にこちらの管理下に置かせていただきます。その場合は私の世界に来ることになりますね。あなたにはこの世界に知り合いや友人ができているのでしょう? それならばこの世界にいられる状態の方がよくありませんか?」


 つまり、『調停と秩序の神』の示す道筋は二つ。この世界に残るか、彼女の世界に行くかである。そういう話ならば確かにこの世界に残るほうが優樹にとってはいいだろう。また別の世界に行くことになると精神的にも大変だ。


「本当の意味で神として世界を管理する立場になるにはまだ早いので、しばらくはこの世界で過ごし、神として成長してもらうつもりです。その最中、私が時々この世界に来て仕事を教えることになるでしょう」

「つまりどうなるんですか?」


 大体のプランは『調停と秩序の神』の中ではできているようだが、それを話されても優樹には把握しきれない。なのではっきりと簡潔な形で今後、どうするのかを尋ねる。


「そうですね。まずは世界に神の存在を知らしめましょう」

「えっ」


 いきなりの発言に優樹は驚く。


「一度神の存在を示してあなたを世界の最上位の立場に置けば後が楽になります。いずれあなたが管理神になればこの世界の一部を自分の世界にしてそこで過ごすことになります。そうなれば当時の話は神話として残るくらいで後に問題が起きるようなこともありません」

「ちょ、ちょっとまって! 必要なんですかそれ!?」


 あまりにも大きい話というか、壮大な話というか。ちょっと大規模すぎる話で優樹には受け止めきれそうにないレベルの話だ。しかし、それを決めた彼女は優樹がどうであれ言ったことを実行するつもりである。少なくとも優樹がこの世界に残るのであれば。


「必要ない、といえばないかもしれません。ですが、あなたはすでに多くの存在に大きな影響力を持っています。あなたのいた国の王女と知り合いでしょう? それに私が介入したとはいえ、次元獣とはあなたが戦っていました。それを見た人間でも存在すればあなたのことが知られるでしょう。それ以前にも竜を倒したり、王女を守ったりといろいろしています。そこに今回のことを加えれば確実に王家の介入があると思いますよ」


 そう言われて優樹は押し黙る。確かにその可能性はあるだろう。そもそも、優樹が化け物、次元獣と戦うことになった、強大な力をつけたのはセシリエがきっかけだ。確実にアグライアの王族は優樹の情報を持っているはずだ。下手に手を出される立場になるよりは上に立って抑え込める立場になるほうがいいのは確かなのだが、やはり想像できないくらい大きな話で優樹には躊躇がある。


「まあ、あなたが残るのでなければやる必要はありません。ですが残るのであればそうします。どちらを選択してもいいでしょう。それを悩んでいる間に私はやることやってきますね」


 そう言って壁に向かって歩いていき、『調停と秩序の神』の姿が消える。


「えっ!? あっ!」


 優樹がどう言った所で彼女には関係ない。先ほど言った通り、世界に神の存在を知らしめにいったのだ。そして優樹にはこの空間から出るだけの手段がない。つまり、優樹がどう思っていたところでもう遅い。









 その後は『調停と秩序の神』が言っていた通り、神のことが世界中に知らされた。そのことに人々は色々な反応をしていた。大きな反応をしていたのは各国の王家、およびこの世界における宗教の大本である。

 とくに宗教の大本は自分たちの信ずる神以外の神は神ではない、邪神、魔の存在などと言って認める様子はなかった。もっとも、彼らはすぐに黙ることになる。数多の世界を管理する立場にある『調停と秩序の神』は圧倒的な存在だ。最初は彼らの前に現れ、話をしようとしたのだが話を聞く様子がなかった。それどころか彼女を始末しようとさえしていたのである。もちろん彼女が人間の攻撃で倒せるはずもない。ただ、攻撃を受けるのもどうかと彼女は思ったのだろう。その力の一端を見せるためにまず彼らの過ごしていた建物を消滅させた。そのあと、建物のような障害物がなくなった後に空を割るという一芸を行う。その彼女の力を見て彼らは黙って認めるしかなかった。

 王家は別に神という存在を特別嫌うわけでもない。懐疑的ではあったが、そもそも全ての存在に自身のことを伝えるという大規模なことをしているのである。魔術でもそんなことは不可能だ。神というのもある程度納得は出来た。ただ、王家という国の最上位、その上に神という存在を置くということが王家としては認めがたいのだ。

 多くの人々は神という存在についてはあまり気にしない感じである。一応宗教があるものの、本心から神の存在を信じているものは少数だ。神という存在が自分に対してどうかかわってくるか、どう生活に影響するのかの方が問題なのだ。なので多くの人々は神という存在を知っても気にせず過ごしていた。


 諸々の話を終え、『調停と秩序の神』が優樹を残した切り取られた空間に戻り全てが終わったことを告げた。そのうえで優樹がどうするかの判断を求めた。結局別の世界に行くことはせず、優樹はここに残り管理神となる道を選んだ。


「ユウキさま、これからよろしくお願いしますね」

「……なんでセシリエさんが?」


 案内されて優樹が訪れたのはアグライアの王宮、その一角に作られた『調停と秩序の神』が作った部屋である。空間的な拡張が行われ、この世界の一部でありながら若干位相と次元が違う場所である。

 多くの王家が神を自身の上の立場に置く、ということをしたいとは思わなかったが、アグライアでは少し事情が違っていた。アグライアには"予感"でいいことか悪いことかを判別できるセシリエという存在があった。実のところセシリエの"予感"は優樹の動向が分からなくなっているため、多くの事柄に作用しなくなっている。それを他の人間は知るよしもないが、セシリエが神を自分たちの上に置いた方がいいと言ったことがアグライアで優樹、神を受け入れることになったのである。


「この国では、あの神様の言ったことを受け入れ、ユウキさまを上位の存在に置くことにしたのです。そして、私はユウキさまのお世話をすることになりました」

「……セシリエはそれでいいの?」


 優樹としてはセシリエが嫌々やっているのであればやらなくてもいいと思っている。むしろ自分のやりたいことをやったほうがいい、と考えていた。その優樹の言葉の意図を理解したうえでセシリエは妖しく笑っていう。


「ええ。いいんです。だって、これは私が望んだことですから」


 優樹が神に昇華したその時に立ち合い、その圧倒的な力を感じたセシリエは優樹という存在に対して狂信に近い想いを抱いている。むしろ、優樹が今の立場になるように、セシリエが今の立ち位置に着けるようにと動いたのである。


「そうなんだ」

「うふふ、これから誠心誠意、お仕えさせていただきますね」


 一瞬優樹を前に見せた笑みは彼にどこか妖しい印象を抱かせた。優樹はこれから先大丈夫かと思いつつ、とりあえず『調停と秩序の神』に言われた神としての力を扱う訓練をすることにした。


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