政治的介入
「よしっ!」
五十嵐がほっとした顔をして、田口の首から手を離す。
「手をあげて壁につけ!」
兵士の一人が銃口を五十嵐に突きつけ、命令する。
「早くしないかっ!」
「おい、あとは任せたぞ。どうするんだ?」
五十嵐が日下部を見て言った。
「はいはい」
様々な感情が部屋中を取り巻いている中、日下部はのんきな声で答えて、ゆっくりと立ち上がった。
「なんだ、貴様!抵抗するつもりか!」
ジャキ!ジャキ!ジャキ!
手前にいた三人が日下部に向かって銃をかまえる。
「貴様も壁に手をつけろ!さもなければ……」
「さもなければ?いま、ここで俺を銃殺してしまったらまずいんじゃない?放送中でしょ?この番組は『視聴者が有罪を決める』っていうのがウリなんじゃない?勝手にアンタらが決めたら、せっかくの醍醐味がパーだよね?俺、まだどんな罪でここにいて視聴者は誰一人俺に死刑に票入れてないぜ。撃たれるわけが、いや、撃てるわけがない」
日下部は挑発するように、両手を広げながら楽しそうに言う。
「…………」
チュンッ!
一人の兵士が一歩前に出て、日下部の足元を撃つ。
「勘違いするなよ?お前達は生きていればいいんだ。逆に言えば泣こうか、苦しもうが、かろうじて生きている程度に痛めつけてもいいということだ。悪さしないように、手足を撃ち抜いてやろうか?息をするだけで痛みを感じ、自分から殺してくれと強請るようになるぜ?」
「どうぞ?君の腕では当たらないと思うけど」
日下部の前にいる兵士がムカッときたのか、銃口を日下部の太ももに狙いをつける。
「バカ!止めろ!」
チュンッ!
仲間の制止も聞かず、その男は銃を撃った。
だが、弾は日下部の身体をすり抜け、後ろの壁に着弾した。
「……は?」
「だから当たらないって言ったでしょ」
いつのまにか、日下部の姿は消えていた。しかし、どこからともなく声は聞こえる。
「どこだ!」
瞬時に六人の兵士が、仲間同士で背中を守るように円になって銃をかまえた。
だが、どこを探しても日下部の姿は見当たらない。
「き、消えた……逃げたか?」
「扉が開いた形跡はありません!」
出口の方向を向いている女性らしき兵士が叫ぶ。
「この短時間であの距離を瞬時に、部屋から抜け出すのは物理的に不可能です」
「ぶ、っつり的にねぇ」
六人が出口とは反対側のモニターから聞こえた声に反応して、一斉に銃口を向ける。
<え?言ったのはお、俺じゃない!>
素に戻ったのか、司会者があわてて両手をぶんぶんと振って叫んだ。
「こっち、こっち」
声はするが、部屋にいる者は誰一人として日下部の姿を認識する事ができなかった。
「……と、透明人間!?」
「バカな……!そんなものが存在するハズが……」
「そーそー、透明人間じゃないさ。ほら」
次の瞬間、いきなり目の前に日下部の上半身が宙を浮いているように現れた。
「ぐわぁっ!」
「馬鹿!よせ!」
ドガガガガガガッ!
兵士の二人がびっくりして、尻もちをつきながら銃を乱射する。
「きゃーっ!」
全員があわてて地面に伏せる。
立花が絶叫し、田口は恐怖で身動きひとつとれないようだ。五十嵐だけはこれをチャンスと思い、扉の開いている出口にそろそろと向かった。
「あぶないなぁ」
余裕の笑みを浮かべながら、日下部は完全に姿を現わす。
「キサマ……何者だ……?」
兵士達の視線が日下部に向けられる。
「人間だよ。化け物と呼ばれ慣れているね」
「…………」
これは隊長も予想外中の予想外な展開、喧嘩の仲裁が済めばそれで終わりの仕事つもりだったのだろう。
それだけならばこの騒動で五十嵐の暴力行為を止める事は成功したのだが、今度は自分達の手に余りかねない存在が現れてしまった。
番組の制作、放送をスムーズにというのが彼らの仕事の契約である以上、日下部の存在を無視する事はできない。
「今、人間だと言ったな?仮に、この銃で撃たれれば死ぬ……か?」
「そりゃ、撃たれれば痛いし、死ぬんじゃないかな。撃たれた事はないけど。……超能力者、いや特異者っていうのかな?」
「特異者だと?そんなの聞いた事ないぞ」
「そりゃ、いま造った造語だからね。超能力者のように、スプーンを曲げたり予知能力なんかない。霊能力者のように霊も見えない。ま、『超能力』でも『霊能力』でもカテゴライズはどうでもいいけどね」
長い口上を集中して聞いている兵士達は少しずつ五十嵐が離れ、さっと部屋を抜け出したのを誰も見ていなかった。
五十嵐が逃げ切れるように、日下部は兵士達に注目させるためにわざと長い話をしていた。
日下部の能力とは、いわば人の『認識』を摩り替える事だ。物体というものはそこにあるだけでは存在しえない。複数の人がそれを見て、『認識』することによって初めて影響を及ぼす。
一般生活の中でもよく人は脳が起こす〝認識ズレ”よって、様々な不具合を生じたりする。
注意してみなかったせいで物にぶつかったり目の前に探している物があるのになかなか見つからない、という経験はないだろうか。逆に、ススキをお化けと錯覚して脅えたり、事故で片手を失った患者に鏡で両腕があるようにわざと『認識』をずらして見せてやると、精神が安定するという実験もある。
それを意識的に起こす事、ましてや他人の認識をわざとずらす方法などありえないとされているが、日下部にはそれができた。
「それでどうする?その能力で番組をめちゃくちゃにするか?」
「そうしたいのもやまやまなんだけど、その役目はもうすぐ来るはずだから、それまで僕は大人しくしてるよ」
「ムリだな。お前の迎えは判決後に警察署まで送る車か、死神だけだ」
座りこんでいる兵士の一人が、憎憎しげににらみつけながらつぶやく。
「番組制作の護衛部長の権限をもって、君の自由を少し拘束させてもらう」
隊長らしき兵士が一歩前に出て、言った。
「はいはい、どうぞ」
日下部は笑顔で両手を差し出す。
がちゃっ
少し拍子抜けしたようだったが、気を取り直したように腰につけていた手錠を取り出し、その両手にかけた。
手錠のはまる音を聞いた途端、腰が抜けて座っていた兵士が立ち上がり、拳銃を日下部の頭に突きつけた。
「こんな奴、生きてても仕方ねぇんだよ!何人殺したと思ってやがるんだ!」
「坂木、止めろ!」
「よせ!それはまだ公開していない情報だぞ。守秘義務違反だ!」
「なーに言ってやがる、どうせ番組で放送するんだろうが、今言っても同じだ。それに、こいつは今死ぬんだぜ!」
引き金の指を本気引こうとしているのがわかる。
「……それでいいのか?」
「あ!?命乞いか?いいぜ。聞いてやるよ。この距離なら例えなにをしようが、このトリガーを引けばすべてが終わる。さっきから俺は死なないっていう余裕の笑みがむかついてたんだよ!脅えろよ!泣けよ!それから死んだ後の事考えながら、祈れ!お前は絶望しきって死ぬんだよ」
「本当にいいのか?手錠で身動きがとれなくなった相手を、六人がかりでリンチのように攻め立て、独りよがりの正義という名の暴力で殺す。それでいいのか?それを見たいと、お前達は望んでいるのか?」
銃口を突きつけられていても、日下部は脅えていなかった。それどころか、部屋に内臓されてある隠しカメラの向こう、視聴者をじっと見据えていた。
【いいわけあるか!勝手に殺すんじゃねえ!】
【製作スタッフなにやってんだ!】
【てか、こいつらなんなんだよ!撃ち殺す映像は観たいけど、俺達の投票で決まるんじゃねーのかよ】
【これって損害賠償請求できるレベルのミスじゃね?】
【だよな。このトラブルの結果次第じゃ、萎えるよなー】
【俺、警察にチクろうかなー】
【あ、今 俺は警察署前のネカフェにいるお】
一瞬で十数人のコメントが書き込まれた。
「やべえ!この後の展開次第では一気に後半の加入者が減るどころか、密告者が出るぞ!」
プロデューサーがあわてふためいた表情で叫んだ。
「おい、ヤス!止めろ!司会者に止めるように言え!殺されたら番組の信用問題になる!」
「了解!」
ヤスもあわてたように、即座に指示を出した。
<はい、ストーップ!そこまでです!銃を下ろしなさい!>
少し焦った顔のまま、引きつった笑顔で司会者が部屋に向かって言った。
<番組司会進行者として命じます。護衛班は任務完了とし、部屋が出るように。命令が聞けない場合は……>
「……ちっ、」
坂木と呼ばれた男は、さすがにここで我を貫いても意味がないと思ったのか、舌打ちして拳銃を下ろす。だが、その瞬間、さりげなく日下部の頭を角で殴った。
「っつ」
「おおっと、すまん」
倒れた日下部に、坂木はいやらしい笑みを浮かべながらわざとらしく謝り、他の五人に見張られる形で部屋から出て行った。
「大丈夫?」
立花が日下部に近づき、後頭部を撫でながら顔を見る。
「ちょっと痛いかな、身体はフツーの人間なんで」
「それにしても、姿が消せるってすごいわね」
そういいながら、コブができていないか日下部の頭を下げさせて、覗きこむ。
「俺としては当たり前の事なんだけど……あっ」
目の前に立花の胸が近づいてくる。日下部は何を思ったか立花の両手を握り、ゆっくりと離した。
「どうしたの?頭を見ないと」
「いや、いいよ。……その……今、君の胸が……」
テレながら言う日下部の顔から、自分の胸が日下部の顔にあたりそうだったのだと推測したようだ。
「あ……」
いまさらながら、恥ずかしそうに両手で胸を覆う。
「さっきみたいな場面を彼女に見られるとまずいから。やきもち焼きなんだ」
「そう。彼女さんいるんだ」
「うん、きっと彼女がここに来るから。大丈夫。ここから出られるよ。彼女達、すごく強いんだ」
得意げに笑って言った。
「おい、それより!あの男、五十嵐がいないぞ!」
田口が部屋をきょろきょろ見渡しながら叫んだ。
「五十嵐……さん?」
「そうだよ!あいつ、まさか……なんだよ?」
頭を抱えながらうなだれる田口を、日下部がちょいちょいっと指を動かして、耳を貸せとジェスチャーをする。
「さっき部屋を出ていったよ。兵士達が出て行く前に」
「なんだって!?逃げた!?」
「しっ、声が大きいっ!……あ、バレた」
部屋の外で警報が鳴る音が聞こえてきた。どうやら今ので五十嵐が逃げた事に気づいたようだ。
「……あとは彼の運次第だな」
「なんであいつだけ逃がすんだ!」
諦めたように言う日下部に、田口が食ってかかった。
「アイツがどれだけ乱暴か、見ただろ!アイツこそ刑務所に行くべきなんだ!」
「自分は行く必要ないと?」
「……アイツよりは……」
「ふざけるな!」
田口の胸倉を掴み、日下部がここにきて、初めて怒りの表情を見せた。
「自分がどれだけ少女達の心に傷を負わせているのかわからないのか。一生、男性に恐怖を覚え、男性を信じる事ができなくなっても、自分には関係ないといえるのか?言わせてもらうが、ここで一番殺したいのはお前だ」
「お、俺の事は許されないのはわかる……だが、彼女は!?彼女みたいな人が犯罪者?馬鹿な。仮に犯罪者でも、俺より軽いハズ……」
「そんな、そんな事ないの……私は……」
そこまで言って、立花が黙り込む。
「彼女の罪については、しばらくすれば番組側が語ってくれる。それまで秘密にしておこう」
「まあ、いい。それより、お前だ!お前はなぜここにいる!?間違いで連れてこられたとか言っていたが、絶対嘘だろう。お前も犯罪を犯しているはずだ!」
「うん、そう」
日下部はあっさりとうなずいて認めた。
「は?」
「2年前に起きた連続自殺事件って知ってる?飯田橋の」
国の要人が飯田橋駅付近の何箇所かで次々と毒物を自分から飲んで死んでいったという事件だ。
マスコミも謎を解き明かそうと、2ヶ月程連日のように放送していた。
「確か……九人連続で同じ毒で謎の自殺をしたっていう……?」
「そう。アレ、俺がやったの」
「なっ!」
二人の顔がひきつった。
「嘘つけ!どうやってあんな事ができるっていうんだよ!」
「自分が使用する物が毒物であるっていう認識をずらしてやれば簡単さ。誰でもラーメンに胡椒かけたり、餃子に醤油かけるだろ?」
日下部は、相手が『調味料』だと認識している、『毒』を自らの手で服用させた。と案に言っているのである。
「ば、馬鹿な!そんな事……でも、それじゃ、お前が一番悪人じゃないか!罪のない人間を毒殺なんて……だ、だが、もう皆に知られたわけだし、死刑は確実だな!奴らに処刑されるがいい!」
「いいよ。死刑になっても。彼らにそれができるならね。でも、俺が殺した人間は全員極悪人さ。それこそ、罪のない人間をペットのように扱ってる奴らばかりだった」
真っ赤な顔で罵声を浴びせている田口の暴言にも、日下部は平然とした顔で言いのけた。
「一部の政治家達は俺のことを恐れている。自分達の身が危ないっていうことは2年前の事件でよくわかったからね」
日下部は自由に動かせない両手がもどかしいのか、手錠をガチャガチャと動かしながら答えた。
「人殺しは所詮人殺し、正義など語るつもりはないけど、俺が殺した相手は大なり小なり害虫だったワケよ。わかる?本当の悪人ってのは“日常”の中にひそんでいて、自分の都合のいいように奴隷化する奴だ。お前のような」
田口をにらみつけながら言った。
「お、俺だけか?俺は小さな女の子が好きなだけだ!だが、お前らはそんな俺の純粋な思いを穢れたもののように言いやがって!俺の方が被害者……」
「だまれ」
「……ひっ!」
日下部のひとにらみで、田口は喉をならし、黙り込み顔をそむけた。
「その自分勝手な言い分は目障りだ。殺してやろうか?」
「あ、……ヶ……」
ようやく、ここでようやく田口は、自分と同じ檻の中に猛獣がいる事を思い出した。
言葉にならない悲鳴をあげ、冷や汗をかきながら少しずつ、少しずつ後ろに下がる。
「殺さねぇよ、少なくとも俺はな」
そう言って立ち上がり、田口とは反対の壁によりかかるように座り、目を閉じる。
立花だけがその二人をどうしていいのか、わからないといった表情で見ていた。
「ふう、一触即発でしたね」
ヤスと呼ばれていたスタッフがため息をつきながらプロデューサーに向かって言った。
「バカヤロウ、あのスタッフを採用したのは誰だ。あんな自分勝手な奴、この秘密組織にゃいらねえぞ。あいつのせいで番組の将来がすべておじゃんになる所だった」
この番組がここまで瞬間的に加入者急増した理由に、他人の人生を自分が動かせて、他人の不幸が蜜の味だと知っている視聴者が多いからだ。
そんな陰険な視聴者が、人の運命を自分が選択するという醍醐味を奪われたらどうするか、容易に予想できる。
目には目を、歯には歯を、玩具を盗られたら、それを入れてある玩具箱を盗りあげる。
このような視聴者の感情を主体で観せる番組ではなおさら制約が厳しい。
プロデューサーは頭を抱えてため息をついた。
「あの連中は人事課がどっかの警備会社から賄賂もらってるって噂ですよ。あくまでも噂ですけどね」
「まったく……うちの部長から言ってもらわねぇとな」
「部長は人のあげ足とり好きだから喜んで言ってくれますよ」
あきれたようにぼやいたプロデューサーに、ヤスが笑いながら言った。
「……まだ失敗するわけにはいかねぇんだよ。俺の復讐のためにはな」
「え?なんかいいました?」
「なんでもねえよ」
コンコン、
「おう、捕まえたか?」
ドアを叩く音がしたが、プロデューサーは顔もむかず、声だけで返事した。
「……捕まえた?」
がちゃりと音たてて、部屋に入ってきた人物はいぶかしげにそう問いかけた。
そこでようやく顔をドアの方に向けたプロデューサーはしまったといった表情をする。
入ってきたのは、現在番組を制作している局の資本会社の会長がそこに立っていた。後ろには二人の女性がいたが、それが誰かは彼には興味なかった。
「あ、いえ。なんでも……」
しどろもどろと言い訳を考えていると、後ろにいる二人の女性の小さい方がモニターを指差して言った。
「あ、いた!」
指を差されている人物は、がちゃがちゃと手錠を外したがっている日下部。
「アンタ、日下部の知り合いか。悪いが、手錠はあいつが反抗的で出演者を傷つけかねないと思っての判断だ。ていうか、会長!なぜこの人達を連れてきたんですか!この番組は局でもトップシークレット!場合によっては責任問題に発展しますよ」
「かまわんよ。私より先に、君の部長の方が海外の中継所に飛ばされるかもしれんがな。君とて、今後の放送次第ではどうなるかわからんぞ」
「ど、どういうことですか!?」
プロデューサーが口を開く前に、ヤスが大声をあげた。
「有料加入者3万人もいるじゃないですか!そりゃトラブルもありましたが、問題ない範囲の内です。それなのに失敗みたいに……」
「話はそんな次元の問題ではないのだよ」
「私が話しします」
絵里奈が一歩前に出て話を切り出す。
「現在進行形で番組を生放送で流しているのは存じております。ですが、それを承知でお願いいたします。日下部を引き渡していただけませんでしょうか?」
「アンタが彼の身元引受人になるから釈放しろってことか?」
「はい」
絵里奈がプロデューサーの目をじっとみつめながら答えた。
「そりゃムリだな。視聴者にどう説明しろと?『裏で取引がありましたから釈放します』とでも報告するのか?」
「……ですが、彼の性格からして少々番組でもうすでにいくつかトラブルを起こしているはず。番組の進行の妨げになる邪魔者排除の方向で、さりげなくフェイドアウトさせれば苦情は最小限で済むはずです」
絵里奈の話を聞いているうちに、笑いがこみあげてきたのか、彼はゆっくりと笑いながら、目を閉じてつぶやいた。
「あいにく、うちにはそうですかと言って釈放するメリットがないな……。だいたい、奴は犯罪者だ。知らないだろ?連続殺人犯なんだ!」
「知っていますよ。だからこそ私が来た。無罪なら弁護士を1ダースほど連れてきておりますわ。ですが、彼は快楽に酔って殺人を犯すような温い殺人犯ではありません。殺すべき対象か否かをわけております。貴方が知っている数少ない資料を見ればその片鱗くらいわかるでしょう?」
「ああ、だが、それは現在の法律では死刑に値する悪だとわかるだろ?」
「……どうしても開放してもらえませんか?」
彼女の最後の問いかけに、プロデューサーは自虐的な笑みを浮かべた。
尋常じゃない二人のやり取りに、ヤスと会長の背筋に寒気が走る。
「もちろん、断りますよ」
「そうですか。それでは……実力行使とさせていただいきますので、あしからず」
「貴女方にできることでしたらどうぞ」
「遠慮なくそうさせていただきます」
そう言って絵里奈は部屋をでた。
「あ、ちょっとっ…!」
局長もその後を追うように部屋を出ていく。
「可愛い顔して犯罪者をあれだけ庇うって事は、恋人か共犯っすよね。幻滅だな~」
「おい、そんな事より番組の進行を早めるぞ」
「え?あ、わかりました。所長は上司に弱いですからねぇ」
スタッフのヤスがいそいそと次の指示を書いたカンペを司会者のモニターに送った。