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勇者物語  作者: 長野晃輝
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episode1‐3 騎士団長と勇者と


 オペラ座のようなホールに観客たちは続々と押しかけていた。

 彼らの身分はバラバラで、貴族、王族、平民とその差も関係なく争うように席を取り合った。(ただし、騎士団が見張っているので実際には争えない)


 そのホールは王城の敷地内にあるのだが、今日はあるイベントのために解放されていた。


 それは世界を救った勇者のお披露目会。

 平和を取り戻した英雄の展示会・・・だった。


「い~や~だ~。は~な~せ~」


 ……これのお披露目会である。

 セイマに引きずられ、ホールの裏口でレノンは駄々を捏ねていた。

 無駄に力強く気にしがみつくレノンだった。


「……てめぇはガキか!!」

「ガキじゃないもん!十七だもん!」

「語尾がうざい!!」


 仕舞には抜刀しかねないほどの二人の言い争い周囲で忙しそうにしていた給仕たちが一瞬ちら見して、何もなかったかのようにあくせく働き始めた。

 彼女たちは忙しいのだ。


 二人とも鞘に手を当て、今にも剣を抜こうとしながら睨みあった。


「お前とやるのは久々だな、レノン?」

「ああそうだな。今までお前が勝ったことはないけどな」

「ぬかせ。俺は今でも鍛錬を欠かしてないんだよ。てめぇとは違うんだ」

「そんでも、負ける気はしないがな」


 二人はほぼ同時に剣を抜いた。


「馬鹿な真似はやめたまえ」


 二人の剣が鞘から抜ききる寸前。突如二人の中間に白いローブを着た青年が現れた。

 

 急ブレーキをかけた二人の刃は、青年の首を切り落とす直前で止まった。


「はぁはぁ。危ないですよ。マーズ・イルマ様」


 冷や汗を流すセイマが非難めいた口調で言う。


 マーズと呼ばれた青年は冷めた目でセイマを見つめる。


「よく言う。セイマ・オルファース。貴様はもう騎士団長ではないのかね?平団員時代のようにどこでも私闘が許されるような存在ではないはずだ。違うかね」


 当然だが、騎士団に限らず、真剣での私闘は禁止されている。騎士団長がそれに反してしまえば、面目丸つぶれだろう。

 セイマは苦虫を噛み潰したような顔をして剣を鞘に納めた。


 マーズは満足そうに頷き、次に振り返ってレノンを睨んだ。


 レノンは未だに剣を下ろせずに、マーズが現れた時と同じ体勢を解けずにいた。

 彼は荒い呼吸を繰り返してはいたが、全く動く様子はなかった。

 マーズは剣に指を添え、そっと首元から外した。


「……情けないな。レノン。かつての君なら刃を止めるだけでなく、彼の剣を弾き飛ばすぐらいはできたんじゃないのかね」


 電撃に撃たれたようにレノンの体がピクッと反応した。


 実際にその通りだった。レノンは動こうとした。だが、動けなかった。

 剣が、重い。

 彼は刃がマーズに届かないように抑えるので精一杯だったのだ。

 明らかに筋力が落ちているのだ。

 情けない。マーズの言葉が、重くのしかかる。


「っく!」


 無造作に剣を納め、彼はマーズから顔を逸らした。


「……はぁ。これだからバカは」


 マーズはどこからか本を取り出して庭に植えてある木の陰へ歩いて行った。


 二人、気まずい沈黙の中に取り残される。


「……セイマ」


 それを破ろうとレノンは彼に声を掛けた。


「レノン。お前さ、いい加減認めろよ。

 世界がお前を選んだんだ。お前は立派な勇者なんだよ」


 真正面からこいつは何を言ってくれるんだろうとレノンは顔を背ける。


「でも、今のお前は違うんだな。平和になってその剣を捨てたんだな」


 どこか自嘲するようにセイマは笑った。


「……俺は」

「だけど、俺は違う。シロハさんが騎士団を離れてから、俺は団長になったんだ。誰からも憧れられ、騎士の手本として存在する騎士団長に、な。

 だから俺は必死に、平和になっても必死になって毎日鍛錬していたんだ」


「だから、なんだよ」


 レノンの心臓が、痛かった。

 この痛みは一体?

 その答えを捜すには時間が足りなかった。


「……お前も、ずっと勇者でいてくれよ。魔王をその剣で葬って、世界を救った伝説の勇者で、いてくれよ。……誰からも憧れられる勇者で」


 セイマはそのまま裏口からホールへと消えていった。

 その背に牢屋で見れた騎士団長の輝きはどこにもなかった。


 セイマとレノンは同じ村に住んでいた。

 幼少期から魔王が現れるまでは。




「さて、ここで黙っててもしょうがない」


 声でも出さない限り何もできなそうだったために声を出した。木陰のマーズがプッと噴き出していたが、もう全然まったく髪の毛の直径ほどにも気にしないことにした。気にしなったら気にしないのだ。


 とにかくこのホールに入って何をすればいいんだろう。


 不安しか抱かないがとりあえず進んでみると、そこは舞台裏のようだった。


 左手はおそらく観客でもいるのだろうか。落ち着きなく騒ぎが続き


 外見だけの天使がいた。

 それはアスヘルだった。金色の髪をアップで留めて、新雪のような白いうなじを曝し、背中の開いた大胆なドレスを着て、彼女本来の美しさを引き出すように薄く化粧している。


 一体何をしたいのかよくわからないよぅとレノンは頭を抱えた。

 アスヘルはその性格さえ無視できれば理想的な女性なのだ。

 レノンだって男だ。そりゃ当初のお淑やかなお姫様のままなら惚れていただろう。

 化けの皮がはがれた今はもう女性ではない。何というか、気の合う友人、いや、話してると楽しいやつとしか見れない。

 はずなのだが……。


(どうしたことだ。顔を直視できない)


 しかも、今は盗み見ているだけである。

 これを直に顔を突き合わせたらと考えると火が出そうだった。思春期の乙女か!!と自身に叱咤してやりたい。


 アスヘルは何か本のようなものを黙読していた。

 一体なんなのだろうと目を凝らしていると、足元の床がパキリと音を立てた。


 ギョッと一本の棒のようにまっすぐに背筋を張り、レノンは硬直した。


 音に反応したアスヘルと目があった。


「……何、覗いてんだよぁぁぁ!?」


 どこのチンピラだとツッコむ前に火球ファイアボールが飛んできたので、水球アクアスフィアで消火した。


「お前は出会いがしらに攻撃しないと気が済まないのか!?」

「あんたのそのツラを焼却処分したら攻撃しないわよ!」

「どんなけ俺の顔に恨みを持ってんだよ!?」

「恨みはないわ。憎しみだけよ」

「なお悪いわ!!」


 顔を突き合わせてながら怒鳴りあう二人は険悪というよりもケンカするほど仲がいいという言葉が思い浮かばれそうだ。


「「喋んな!!」」


 ほら、息もぴったり。


「「ほざけ!!」」


 だから時の文にツッコむなと……。



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