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勇者物語  作者: 長野晃輝
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episode1‐2 勇者のその後

 首都であるミューネルから西へ馬車で四日ほどの行った山岳地帯の麓に、小さな村があった。

 ホボイという名のその村に世界を救った勇者がいた。

 彼、レノン・カンパネルはその日も自作したベッドに寝転がり怠惰に一日を過ごす予定であった。


「眠い~」


 あくびをしながら言うので「ねふい~」と周りからは聞こえるのだが、彼の周りには誰一人としていなかったのでこの解説は無意味である。


 勇者だか何だか言ってもこの世界は情報伝達の術があまりない。国王から魔王は倒されたとの発表は有ったらしいが、何分この勇者は食料を買うため以外に外に出ないため噂話すらほとんど知らないのだ。


 レノンは冷めた目で窓から見える村の風景と天窓から見える空を見比べていた。

 彼のベッドのそばには切れ味を安定させる魔法が掛かっている愛刀が立てかけられている。しばらくこれを抜いた記憶もない。魔王討伐以来、その眷属である魔物たちも姿を消した。

 いや、洞窟の奥や森の中を捜せばうじゃうじゃと出てくるのだろうが、少なくとも魔王が健在していた時に比べ、町や村が襲われることは劇的に少なくなった。

 故に彼が剣を抜くことはないのだ。


 恐ろしいことにレノンはそれを退屈だと感じていた。

 平和を望み、そして混沌の象徴たる魔王を倒した勇者の自分がそんなことを考えている。

 その矛盾がもたらす恐怖が彼から剣を遠ざけているのだ。

 だから、レノンは今日も一日怠惰に過ごすだけ。


 バコォォォォ!!

 爆発音とともに扉が開かれた。というよりもぶっ飛ばされた。


 木製の壁がぶち破れて家の風通しが無駄によくなってしまった。


「やってくれたわねレノン!!何平和なのに家に結界張ってんのよ!!」

「いや!!むしろお前何人んち爆撃してんだよ!!」


 飛び起きたレノンが目にしたのは所々焦げたドレスを着た金髪の少女に剣を抜いて向ける。

 ……さっきまでの解説を返してほしい。


「ああん!?目の前に勇者(笑)の家があったら爆撃したらダメなの?」


 対して少女は剣を向けられているくせにおびえもせずにチンピラのように睨みを返す。

 レノンも目つきを鋭くし、少女ににらみ寄った。


「(笑)って何!?あと普通にダメだろ!!」

「何気に反射の魔法結界張ってんじゃねーよ!おかげでドレスが焦げ焦げじゃねーか!!」

「お前毒舌キャラっていうか、ただ単に口悪いだけだろう!!」

「メタなことぬかすな!!」


 その会話が既にメタである。ちなみにメタというのは物語なのにそれを自覚しているような発言や言動を指す言葉である。この場合レノンが毒舌キャラといった部分がメタなのである。説明面倒くさい。


 彼女は残念ながら王女のアスヘル・カーニバル。レノンとともに魔王を討伐に行った仲間であるはずなのだが……。


「く、旅の途中はまだお淑やかそうに振舞っていただろうが!!」


 この通りのおてんばを通り越してバイオレンスな王女だ。


「そんなもの三日でボロが出たでしょうが!」

「確かに!!!」

 この二人のやり取りは相変わらずなのだ。これを魔王の前にしてもやってのけたのだから、恐ろしい。よくこの二人が入ったパーティで世界を救えたものだ。

「「確かに!!」」

 ……地の文へのコメントを禁止する。


「いい加減に用件を話せ!!」


 アスヘルのお供の騎士たちによってロープでぐるぐるに縛られ、レノンは馬車に乗せられた。

 馬の手綱を握るのは従者かと思いきやアスヘル自身だった。


「さあ、城まで一気に行くわよ!!」

「人の話を聞けーーー!!」


 明らかに勇者の待遇ではない。

 まあ、今更そのことを気にするレノンでもなかったが。

 それから四日、王都ミューネルに到着すると、宿屋の前でレノンは剣と共に馬車から投げ捨てられた。


「ゴブ!!」

「ゴブリン登場!!」

「何言っての!?」


 顔を真っ赤にしたレノンはさすがにブチ切れた。そんなくだらない発言が王女に許されるだろうか?いや、許されない!!


「お前いい加減に……」

「ファイアボール!!」


 問答無用で容赦無く火炎弾がレノンに降り注ぐ。


「てめぇ!リフレクション!」


 半透明なドーム状の防御壁が展開された。


「だから返すな!!このクソ勇者!!」


 火炎弾から逃れるようにアスヘルは馬車を走らせて去って行った。


「やれやれ、服も汚くなっちまった」


 文句はともかくここまで引っ張られてきた以上何かあるのだろう。

 とにかく宿を押さえるかと目の前の宿屋に入ろうとしたところで両手両肩をがっしりと掴まれた。


「あれ!?」


 感触が固く冷たい。そしてズッシリと重い。そうまるで金属のような……。


「貴様、街中で魔法を使うとはどういうことだ!!」


 がしっと上から下まで銀色に輝く鎧を身に纏った騎士二人がレノンを捕まえていた。


「え!?だってあのクソ王女が俺に向かってファイアボール撃ってきたから防御しただけだろう!」

「貴様!!アスヘル様に向かって何ということを!!すぐさま牢屋に突っ込むぞ!」

「了解」

「へ!?ちょ、おま!」


 ずるずると屈強な騎士が元勇者を引きずり連行する。


「俺は無実だーーーー!!」


 必死に抵抗したが、最近の鍛錬不足が祟って逃れることは叶わなかった。

 そのままカーニバル王家が誇る騎士団によって城の地下の牢屋に投げ込まれたレノン。


(なぜだ。あいつら俺のこと知ってないのか?これでも勇者として活躍したんだがな~)


 実はどうでもいいので、硬い寝床の上でゴロリと寝返りを打つ。

 その気になればこんな檻ぐらい壊せるのだが、そんなことをしても本当に犯罪者になるだけなので何もしないのだが。


 しばらくレノンは眠ろうと目を閉じた。

 強行軍でここまで連れてこられてレノンは自分で思っていたよりも疲れていたのだ。


 ガシガシという足音で、レノンは目を覚ました。

 それは鎧を着たものが歩く際に発生させる音だとレノンは知っていた。


 旅の途中、全くその鎧を脱がなかった男がいたからだ。


 その足音はまさしくその男が鳴らしていたものと同じだった。


「情けないぞレノン。それでもお前は世界を救った勇者か?」 


 鉄格子の向こう側から懐かしい声が聞こえる。

 上半身だけ起き上がらせ、そこを見る。

 聖騎士たる証の白を基調とした鎧が、薄暗い檻の中で輝いて見えた。


「なんだよ。何か用か?」

「人がせっかく会いに来てやったのに、なんて言い草だよ」


 呆れたように笑う好青年の騎士。

 彼の名はセイマ・オルファース。

 この国の現騎士団長である。


「ほざけ。お前、俺がここに入るように仕向けたろ?」


 レノンが降りた(というより降ろされた)場所にたまたま騎士が巡回してきたはずもない。その上に町の罪人がわざわざ城の地下の牢に閉じ込められるはずもない。

 全ては騎士団長のセイマが自分を城に連れ込むために仕組んだことだと彼は睨んでいたのだ。


「……、ふっ」


 鼻で笑うなとレノンは本気で魔術を使おうと思ったが、さすがに国家反逆罪で捕まりたくない。


「お前は逃げるからな。そういう表舞台で持ち上げられることを嫌い過ぎだ」


 この男前め、とレノンは目を細める。


「今日ぐらいは勇者として褒め称えられてもいいんじゃないのか?」


 ……。


「お前が名誉欲とかで勇者になったわけじゃないと俺やアスヘル様、シロハ隊長やリリアもわかっているから」

「あのな。俺がなんで片田舎で生活しているかわからないのか?」


 セイマは顎に手を置き、「ふ~む」と考え込んだ。


「どうしてだ」


 諦めたのか牢の鍵を取出しながら、レノンに聞き返してきた。


「勇者勇者っていわれて、見世物になるのが嫌だったからだよ」


 もっともあの村はさすがに知らな過ぎて、俺を単なるプーだと思い込んでるらしいがな。とレノンは口の中だけで呟いた。

 ガチャと錆びた鉄が噛み合い鍵が開く音の後に、勇者の面倒そうな声が地下牢に響き渡った。


 牢を開けてもレノンは出る気はないと腕を組んで、どんっと寝床の上に座り込んだ。


「しかしそれでは困る。俺は国王から直々に言われてお前を城に呼んだんだ」

「……。というかその国王の娘さんがわざわざ俺をここまで配達してくれたんだが?」

「あれはあの方なりのお前への愛情表現だ」


 絶対嘘だ。とレノンは半眼になってセイマを睨む。


「いや、そんな目で見るなよ。あの方は迎えの騎士を払いのけて自分であの田舎まで行ったんだぞ?『わらわが直々にあやつを連れて来ようぞ』と言ったそうだぞ」

「……というかアスヘルのキャラ変わり過ぎだぞ」

「そうか?こんな感じだろう?」


 こいつ自分の仕える王の娘のことわかってねー!!

 悶えるように体を震わすレノンの腕を強引に掴みセイマは彼を牢から引き摺り出した。


「とにかく何が何でも、今日くらいは表舞台に立ってもらうからな。これは国王様や王女様の願いであるのだから、異論は認めない」


 セイマはそのまま無理やりレノンを連れ出す。


 歴史の表舞台に、連れ出した筈だった。

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