7.【旧伊佐戸邸・近隣住民の証言(音声記録書き起こし)】
記録番号:第25-0610-02号
対象者:×××(黒塗りにされている)/男性・50代/S市J区在住
録音日:令亜7年6月10日
録音場所:S市J区
正一さんですか?こっちに住んでたのは随分前の話ですからねえ。
ニュースで見た時は気づきませんでしたよ、苗字が違うから。
……ええ、はい。正一さんは入り婿でね。
姓を戻してたとは思わなかったけど、まあ、跡取り息子ができれば入り婿は"お役御免"みたいな扱いだったのかもね。
伊佐戸さんって言ったらここらじゃ名家ですからねえ。“逆玉”なんて言ったら聞こえはいいけど、実際は大変だったと思いますよ。
奥方はまあ……ちょっと難しい人でしたから。とても綺麗な人ではあったんですが、少し不安定というか。資産家の一人娘でしたしねえ。
故人をまた聞きで悪く言うのは気が引けますけど、正直、良い風聞ばかりの人ではなかったですよ。
恋多き女とでも言うのかな。正一さんと落ち着くまでは結構色々あったみたいです。
お袋もどこで聞いてくるんだか、人の口に戸は立てられないってやつで。ご両親がお金で手を打ったって話は一度や二度じゃなかったとか。『都会になんて出すんじゃなかった』ってよくぼやいてたらしいですよ。実際、ここらじゃ見ないような垢抜けた美人だったしね。
……いえ、結婚してからは落ち着いてたと思いますよ。お子さんにも恵まれて。
息子の冬彦くんは僕の娘と同じ学年でしたから、覚えてます。利発な子でしたよ。あまり家にはいたくないみたいでしたけど、中学高校になったら、男の子なんてそんなもんじゃないですか。
……そうですね。上の娘さんが行方不明になって、その頃からぎくしゃくしてる感じでしたね。そりゃあショックでしょう。
僕も娘がいますから、気持ちは痛いほどわかりますよ。一人で海に行って帰ってこなかったって聞いて。ここらの子は磯遊びは身近ですからねえ、人ごとじゃありませんよ。正一さんが山の方へ引っ越したっていうのも、苦しいことを思い出したくなかったんじゃないのかな。
娘さん……秋枝さんと言いましたが、お母さんにそっくりでね。とても綺麗な顔立ちをしてましたよ。それでいて、性格はお父さんに似て穏やかでねえ。僕らにもよく笑顔で挨拶してくれたのを覚えてます。
冬彦くんですか?大学で県外に出て、そのまま帰ってきてないと思いますよ。
……そうです。奥方が亡くなってから、ご両親もパタパタと後を追うように。
屋敷の管理は業者さんに任せてるみたいで、時々人の出入りがありますね。
正一さんは……ううん、そうですねえ。正直あまり印象に残るタイプじゃなかったんですよ。奥方はなかなか強烈でしたけど。美人で気性も激しくて。
正一さんは、入り婿ってのもあったろうけど、いつも穏やかに佇んでる感じで。良い人でしたけど、奥方や義両親の影みたいな方でしたね。
おっと、女房が帰ってきた。すみませんがこの辺で。
……ええ、今日のうちに庭の手入れを済ませておきたいんです。夏は草が伸びるのが早くてねえ。手間には手間ですけど、これも必要なことなんでね。
綺麗な庭を維持するコツは、マメに雑草を抜いておくことですから。




