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『花咲く旅路のごとく』タクヤとゆかいな仲間たち ―道なきぞこの道だけど でもこんなに上手に歩いてるー  作者: もとき未明


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3.22 当たるまで回す

monogatary.com 2026年3月22日のお題『あの子の強運の秘密』について投稿したものです。



「なあ、思ってんけどさ」

 グラスの氷をくるくる回しながら、アキが言う。

「ミサキって、めっちゃ運よくない?」

「急やな」

 ユイナがストローをくわえたまま笑う。

「なんでそう思ったん」

「いや、だってさ。仕事もなんやかんやうまくいってるし、人にも恵まれてるし」

「それはアキの主観やろ」

 ナミが横から淡々と差し込む。

「えー、でも実際そうやん。なんかこう、“いい流れに乗ってる人”って感じする」

「ふーん」

 ユイナが興味なさそうに相槌を打つ。

「本人おらんときに褒めるやつ、珍しいな」

「褒めてるっていうか、分析や」

「雑な分析やなあ」

 軽く笑いが広がる。


「で、どうなん」

 アキが身を乗り出す。

「なんであの子、あんな運ええん?」

 ユイナはグラスを傾けながら、あっさり言う。


「あの子の場合、“運”ちゃう気がする」

「え、どういうこと?」

 アキが食いつく。

「なんていうか……あの子、あんま期待してへんやろ。“当たったらラッキー”くらいで動いてる感じ」

「それ、普通ちゃう? ウチらもそうやん」

「いや、普通はもうちょい期待してるで」

 ユイナはストローで氷を押しながら続ける。

「うまくいってほしいとか、失敗したくないとか」

「……まあ、それはあるな」

 アキが頷く。

「ミサキはそれが薄いってこと?」

「薄いというか、外れてもダメージ少ないタイプやな」

「そんなことある?」

「あるある」

 ユイナはあっさり言い切る。

「外れても、“あー、まあこんなもんか”で終わるやん、あの子」

「……たしかに」

 アキが少し考える。

「で、当たったら?」

「めっちゃ喜ぶ」

「それ普通やん」

「普通やけど、その振れ幅がちょうどええねん」

 ユイナは笑う。

「それで結果的に、“当たってる人”に見えるんか」

「そういうこと」

 ナミがグラスを置く。

「それ、強運やなくて“回してるだけ”やろ」

「回してる?」

「試して、外して、また次行ってるだけ」

「……」

 アキは少し黙る。

「でもそれ、けっこうしんどない?」

「しんどいで」

 ユイナはあっさり言う。

「普通は途中で止まるもん」

「ミサキは止まらんの?」

「止まるときもあるやろけど、まあまた動くやん」

「なんでやろな」

「知らん」

 また即答だった。


 ナミが小さく息を吐く。

「怖いんやろ」

「え?」

「止まるほうが」

 短い言葉だった。

 けれど、妙に納得感があった。

「……あー」

 ユイナが少しだけ目を細める。

「それはあるかもな」

「なにそれ、ちょっとかっこよくない?」

 アキが笑う。

「別にかっこよくはないやろ」

「でもさ、結果的にうまくいってるんやったら、やっぱ運ええやん」

「どうやろな」

 ナミは肩をすくめる。

「見え方の問題やろ。外した回数、誰にも数えさせてへんだけや」

「数えさせてへん?」

「当たった時だけ騒ぐから、周りには“強運”に見える。……不器用なやつが一番やりたがらん、一番効率の悪いやり方やけどな」

「……あー」

 アキが納得したように頷く。

「一回当てるために、裏で何百回も回してるってことか。……それ、めっちゃタフやん」

「そういうこと」

 ユイナが笑う。

「ずるいよな」

「ずるいなあ」

 三人で軽く笑う。

 少しだけ間が空く。

 グラスの氷が、カランと鳴った。


「……まあでも」

 アキがぽつりと言う。

「あの子がちょっと変なだけやな」

「言い方」

「褒めてる褒めてる」

 ナミが小さく笑った。


 グラスを持ち上げる。

「あれはあれで、一種の強さやろ」

「強さ、か」

「せやな」

 ユイナも頷く。

「結果的に、運よく見える強さ」

 アキは少しだけ考えて、それから笑った。

「ほな、次ミサキ来たら聞いてみよか」

 アキがいたずらっぽく言う。

「“なんでそんな運ええん?”って」

「絶対適当に流されるで」

「“知らん”って言われて終わりやな」

 三人で顔を見合わせて、くすっと笑う。


 たぶん本人は、自分のことを“運がいい”なんて思っていない。



 グラスの氷が、またひとつ鳴った。



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