1.20 恋の吉兆(空回り)
monogatary.com 2026年1月20日のお題『おみくじの恋愛運に感化されて』について投稿したものです。
ハルト、十七歳。高校二年生。
勉強はほどほど。スポーツはそれなり。
平穏無事な日常をモットーとしているが、たいてい青春はそうさせてくれない。
昨日の放課後、タクヤが予言した通りになった。
……いや、予想を遥かに超える「騒がしさ」だったと言っていい。
豪雨の中で爆睡中、枕元でスマホが激しく震えた。
時計を見れば、草木も眠る午前二時。
画面の表示は『ミホの自宅』。
深夜に鳴る相手ではない。
嫌な予感しかしねぇ……。
「……もしもし?」
『ハルト君、助けて! タクヤが、タクヤが変なの!』
電話の向こうでミホちゃんが半泣き……というより、八割がた呆れ果てている。
聞けば、この土砂降りの中でタクヤがミホちゃんの家の庭先に立ち尽くし、二階の窓に向かって何かを大声で叫んでいるらしい。
「……何を叫んでるって?」
『「俺の気持ちは土砂降りじゃない!」とか、「運命は変えられる!」とか……もう、近所迷惑で死にそう! 誰かが通報する前にお願い!』
あいつ、ついに頭のネジが全部飛んだか。
「……わかった。今すぐ回収に行く」
俺は雨合羽を引っ掴み、深夜の嵐の中へ飛び出した。
現場に着くと、ずぶ濡れのタクヤが、ミホちゃんの家の門を揺らしながら「俺の愛は防水仕様だー!」と叫んでいるところだった。
「バカか! お前の脳が浸水しちょるわ!」
強制的に自宅に連れ帰り、びしょ濡れのまま玄関に座らせて問いただすと、ようやくぼそぼそと白状し始めた。
発端は、先週の夏祭りで引いた『おみくじ』だ。
あの日、タクヤは恋愛運で「凶」を引き当てた。
そこには、こう書かれていたのだ。
【沈黙は破滅を招く。嵐の夜に決死の覚悟で思いを告げよ。さすれば道は開かれん】
「こんなの、神社の在庫処分やろ」と俺は鼻で笑ったが、タクヤの目は本気だった。
何事も慎重で、トラブルを避け続けてきたタクヤにとって、おみくじの「凶」は絶対的な神託だった。
しかも、おみくじは「凶」だったはずなのに、タクヤの中ではなぜか「吉兆」に変換されていたらしい。
昨日の放課後、あいつが言っていた「騒がしゅうなる」という予言は、他人事ではなく、自分自身の「暴走」を指していたわけだ。
事件というにはあまりにお粗末。
ただ、ひとりの男がおみくじの恋愛運に踊らされ、深夜の住宅街に羞恥心を撒き散らしただけの、あまりに騒がしい夜。
――翌朝。
雨上がりの教室で、タクヤはひどい鼻声だった。
「……おみくじ、次は大吉が出るまで引くわ」
「もう止めちょけ。お前の場合、大吉が出たら世界が滅びそうや」
俺は呆れながら、まだ少し湿っている自分の靴を見つめた。




