親が歪めば子も歪む 〜〜加藤の母との直接対決(後編)〜〜
前回ので私は精神崩壊しそうになりながら書きました。。
完結まで残りこの回入れて3話……。ここさえ無事乗り切れば……。
あと2話を書くのが鬼楽だから全力で書いてみせます。
一応リビングに通されたが、さっきのあの状態ではまともに取材などできないだろう。
お互いビリビリとした雰囲気だった。
私も、眞由美も。
本当に、カウンセラーとして情けないったらありゃしない。
私は自戒の念を込めた。
一つ、息を吐く。
「……私も先程は少々熱くなってしまいましたが……。お母様、どうですか。少しお話しする気にはなれましたか。」
「……どうってことはないわよ。……大体私の名誉を汚したのはアイツだから。それ以上もそれ以下もない。」
確かに「優秀な子供の親」から「犯罪者家族」に成り下がったといえば聞こえはいいだろうが、先程の話を聞いている限りだと真っ先に思い浮かぶのが「自己中心的」、「道徳心の欠如」が生じているのは目に見えている。
胃の中の胃液が沸騰している感覚が伝わってくる。
自らの「名誉」のことしか考えていないのだ、この女は。
事件から6年が経った今でも。
全く反省しておらず、加藤に責任転嫁しようとしているのが丸わかりだった。
「……貴女は若いからまだ体験してないからわからない部分はあるかもしれないけど、育児って相当ストレスが溜まるものよ。……自ら望まない性別で産まれてきた子は特に。……モチベーションも上がらないし、会社からはマタニティハラスメントやモラルハラスメントを受ける日々……。自分の子や夫にあたっていたのもそのため。……最初の方はあの子から血を見たときに我に返っていたけど……怖いものよ。だんだん感覚が麻痺してくる。『優秀な子供に育てる』、それに愛は要らないと思っていたし今でもそれが正しいと思っているわ。」
……なんだこの女は、と思った。
愛情を全く注がない親がいていいのか……。
私は絶句した。
ただの自己満足で20年以上も子育てをしてきていたのか。
異常もいいところだ。
正常なメンタルでいようと正当化すれば精神が崩壊しそうな恐ろしい言葉だ。
「……テストで問題を間違えた時も、学校で悪いことをしたときも、過剰に暴力を振るっていたというのは……?」
「……自分で何が悪いかを考えさせた。その結果が風呂に沈めたりもしたし、沸騰したお湯も掛けたりもしたわ。ただ……そうしても出来が悪かったのはあの子よ。……それで私も我を忘れて殴る蹴るの繰り返し。そんな毎日よ。逆らうことがなかったしあの子を傷つけていくたびに私も快感を覚えていくのが手に取るようにわかった。……その点伽耶は何も悪いところがなくて助かったけどね。……あの日までは。」
伽耶が複雑そうな顔をしているのがわかった。
イジメの心理と似ている。
助けたいのに止めろと自分から言ってしまえば自分も危険に晒される可能性があった。
だから伽耶は敢えて従ったフリをしていたのだろう。
そう思わざるを得ない。
「……暴力は……息子さんが東大に行ってもしていたのですか……?」
私の声も段々と怒気を孕んできているのがわかる。
この女はあまりにも無神経だ。
サイコパスの感覚にも近い。
そんな人間が子育てをしていたという事実。
何故こうも私の母とそっくりなのだろうか。
正確には多少違う部分はあるが、異常なのは同じだ。
そんな時、伽耶から落ち着いて、と耳元で囁かれる。
「基本的に無視よ。もう。あとは就職を待つ身だもの。そのあとは自己責任。……当然でしょ? 社会人なんだから。」
何故こうも、自らのことを顧みないのか。
社会人だから全て加藤が悪いのか……? そんな考えがよぎってくる。
だが、怯む気は毛頭なかった。
「………彼が社会で最悪の形で失敗した根本的原因が……貴女自身にあるとは思わないのですか……? 今の話を聞いていると……『人を傷つけてもいい』という無意識的な教育が、あの時の『加藤唐助』に浸透していたのだと思うのですが……。」
「……思わないわね。少なくとも、私が悪いとは一ミリも思っていない。だから伽耶があの時出て行った理由がわからなかった。……私が1番の被害者よ。……息子に顔に泥を塗られ…娘に罵倒されて出て行かれ…旦那には浮気をされて捨てられて……。全てが瓦解したのよ。あの事件で。」
「……何故……思えないんですか……? 人格形成は親から子へ、と聞きます。貴女のその歪んだ価値観が、、通り魔犯『加藤唐助』を生んだのではないんですか……!?」
本当に怒りで頭がおかしくなりそうだった。
何故被害者ヅラが出来るのか。
何故加藤が苦しんでいたのも、泣いていたのも理解できないのか。
ましてや自らが捨てられた原因すらも分からないとは……。
どこまでも救いようがない。
私にはとても、この「怪物」を扱うことなど出来やしない。
「私の価値観が歪んでいる……? それは貴女の感想よね……? どういうことか説明できるかしら。」
開き直るな! と一瞬言葉が出そうだった。
こんな奴に理由の説明など要らないとは思うのだが、仕方ない。
するしかない。
「……なんで……!! 自分が望んで孕んで産んだ子に……愛情を注げないのですか!! 自分のエゴだけ押し付けて!! ただ単に貴女が優越感に浸りたかっただけではないのですか!?」
もう、涙が溢れているのがわかっていた。
もう自分で……抑えきれなかった。
たとえ眞由美と思考方法が違っていても苦しいのはわかっていた。
加藤が本当に気の毒に思う。
こんな最悪な親を選んでしまった運命を哀れむしかない。
「……愛情なんてゴミよ。」
「……は?」
私は一瞬思考が止まった。
愛情を注ぐことを「ゴミ」とまで言い放ったのだから。
「……今の日本は女性が虐げられているのよ。社会によって。女性に逆らわず、且つ高学歴な人間。これが私の考える今の社会に必要な『優秀な男』。そんなロボットみたいなのを育てるのに愛情なんて余計なものよ。」
この言葉に、私は遂に堪忍袋の緒が切れた。
椅子から立ち上がり、眞由美の胸ぐらを掴むと右手で平手打ちをした。
パチーーーーーーン!!!! と、大きな音が響き渡った。
「ちょっ………瀬川さん!?」
伽耶が驚いた表情で私を止めようとしたが、もう私の怒りは止まらなかった。
悲しかった。
叫びたかった。
この怒りを。
「……黙って聞いていれば……!! 自分の子供をなんだと思っているんだ! お前は!!! 自分の子供がロボット……ですって………!? ……聞いていてよくわかりましたよ、貴女のした大罪が……!! 子供に恐怖を植え付けて……逆らえなくして!! 自らは社会に対して何もせず王様の気分で居座って……ただの裸の王様ですよそれは……! 剰え自分が何も悪くない、むしろ被害者!? ストレスを……言い訳にするな…自分の親としての責務から逃げるな!!! この悪魔野郎!!」
「ホントに落ち着いて! 瀬川さん!! 取材の途中でしょ!?」
伽耶が必死こいて止めているのはわかったが、もう私は怒りでいっぱいで、完全に我を忘れてしまっていた。
「……貴女は息子さんのことを『失敗作』みたいなふうに言ってましたけど……貴女が親じゃなければ!! 彼は間違いなく成功していた!!! 貴女より何百倍も!! なんで……貴女みたいな人がのうのうと生きていて!! 加藤唐助のような心を閉ざした人間が!! 死刑にならないといけないんだ!! ……貴女みたいな人間が……もう2度と!! 社会を語るな……女性を語るな!! そして……教育を語るな!!!!! 加藤眞由美……いや、酒井眞由美!!!」
怒りの荒息を立てる私。
まるで猛獣が威嚇しているかのように。
眞由美は唖然としているし、伽耶も私を必死に抑えていて、涙が浮かんでいるのが見えた。
一度思考を回復した私は胸元から謝礼金の入った封筒をテーブルに置いた。
「……もう話すことはありません。これにて失礼します。」
こうして私は眞由美の元を立ち去った。
「ご、ごめんね、母さん。私、瀬川さんを送って行くから!」
伽耶も私を東京まで送るために家を後にした。
そして、帰りの車内にて。
「……すみません、伽耶さん……。2度も見苦しいところを……お見せしてしまって……。」
私は記者失格だな、と思い至っていた。
伽耶に迷惑をあまりにもかけすぎてしまったなと思っている。
「……いいんです。瀬川さんが……全部言ってくださいましたから。……私が言いたかったことを。」
言葉が出なかった。
伽耶も、同じことを思っていたようだった。
「……でもこれで決めましたよ……。私は…申し入れを受け入れようと思う。あの人の気持ちを受け止めるのが……私の役目ですから。」
「……兄貴も……泣いて喜ぶと思いますよ。今まで……本当になかったわけですから……私も……言われてみたいですね、一度は……。『演技』で、じゃなくて……『現実』で結婚してください、って。」
人気AV女優でもそんな人間的なことは思うのだな、と私は思いながら、東名高速道路をドライブして行くのだった。
一方、加藤の実家では。
「……封筒……か。生活保護に引っかかってしまうから置いておけないんだけどな……。」
眞由美が私が置いていった茶封筒を開けていた。
30000円分のお金と、何やら白い紙が入っていた。
「ん? ……手紙……? 唐助から……?」
手紙の中身はこうだった。
『母さんへ
母さん、親不孝な息子でごめん。けれども、母さんがいなければ、俺は東大に行くことはなかったと思います。俺はもう、処刑されてしまうかもしれません。でも拘置所で運命的な出会いをしました。あの記者さんと。俺はもう、この手紙が届けられる頃にはこの世にはいないかもしれません。でも、母さんは強く生きてください。
唐助より』
悪びれのない、素直な文だった。
そこに憎しみも何も生まれておらず、彼本来の優しさが文の中に如実に出ていた。
手紙を読み終えた眞由美は私に叩かれた頬の感触が痛いほど刺さるのがわかった。
そしてテーブルで泣き崩れたのだった。
「唐助………ごめん………私が悪かった…………。」
感情が入り混じりすぎました。
もう自分で何を書いているのか全くわからない感覚ですww
さて、あと二話。やっと終われると思うと気が楽です。鬱展開がやっと終われるってなると。




