魍魎のような女 〜〜加藤の母との直接対決(前編)〜〜
完結までこの回含め、あと4話となりました。
母親がとにかくクズになるように意識して書いてます。
5日経った。
遂に加藤の母との直接対決の日だ。
この日ばかりは私はもう、化粧水以外で顔を着飾らないと決めた。
普段はその上にチークを塗ったりするのだが、私なりの覚悟を決めた。
できる限り「ありのままの私」で挑もうと。
伽耶が東京駅で待っているとのことで、私は東京駅まで電車で向かった。
東京駅の改札を出ると、駅のホームで伽耶が手を振っているのが見えた。
伽耶はマスクに青いキャップを被った姿で私の前に来た。
「じゃあ、瀬川さん……行きましょうか……。」
「……ええ。」
お互い覚悟を決めて、駐車場に停めてある伽耶の所有する青い軽自動車に乗り込んだ。
加藤の母の実家は静岡県熱海市に位置しているとのことだ。
観光スポットとして有名だが、そんな気持ちで熱海に行くわけがない。
バックミラー越しに映る伽耶の目は真剣そのもの。
東名高速道路をひた走っている。
カーナビケーションで位置情報を打ち込みそれに従いただ、ひた進む。
「………昨日知ったんですが……母は兄貴のことを何も反省していないみたいです……。これはお婆ちゃんに聞きました。アイツが、あの“クソオス”が私の名誉を傷つけたんだ、って。………今の仕事をやってて思うんですけど……私のやっていることを否定する人たちは母親みたいな人たちばかりだな、って思うんですよ……。だから……あの時は尖っていたなとは思うんですが、家を飛び出してよかったとは思います。確かに実行犯は兄貴です……。けれど……根本のことを考えたら悪いのは……母だと思うんです……あの事件のことは……。」
そういう伽耶の目には怒りが滾っているように見えた。
私もこれに同調する。
「……ええ。私もそういう人たちから記事のことを批判されたりしますから、気持ちはよく分かります……。ああいう人が親だと……大抵は犯罪に走ったり、社会に出た時に失敗したりしています……。『自分』の出し方がわからなくて……。だからあんな怒りが爆発すると殺傷事件を起こしていたりする、今回はその典型例です……。そして加害者家族の子世代は自殺したり将来が不利になったり、親に反発して今の伽耶さんのような仕事をしたり……。私の場合は自分でやりたい、学びたいことを見つけたので親の束縛から脱出できましたが……。お兄さんはそうもいかなかった。……だからこそ……もう2度と、あんな事件を起こす人たちが出てこないように……子供の非行率を、将来の犯罪率を減らすのは親の教育だと、記事の中で教えて警鐘を鳴らさないといけないという思いが強いんです。……虐待被害当事者として…ジャーナリストとして…そしてカウンセラーとして。」
「………ストレスが溜まっているから、といって子供に八つ当たりするのも変な話ですよ……苦しいけど、子供相手で怒りをぶつけるような人に私は染まりかけた……。ある意味兄貴に私は救われました。こんな結末を招いてしまったんだから。母が兄貴のしたことが結果的に。ただ……私は知っていて兄貴への虐待を止めることが出来なかった……。私も兄貴の唯一の兄妹ですから……家族でもありますし……。私もある意味、同罪ですよ……。兄貴の分まで自由を生きるのが私の今やれる『償い』なんですから……。」
そういった伽耶の目に涙がうっすら映っている。
後悔や自責の念もあるのだろう。
……まあ、元は真面目な性格なのだろうと私は思ったわけだが。
それが「処女」の状態でAVデビューして、更に衝撃的なデビューで一躍スター女優に躍り出たのだから、人生何があるかわからない。
「……これは伽耶さんに話すのは初めてだと思うんですが……。お兄さんは虐待痕を隠すために背中にタトゥーを彫っていました……。覆い隠したかったんでしょうね。自らのトラウマを……。気休めでもいいから、何がなんでも…。私も夏場には左腕の傷跡を……腕用のサポーターで覆い隠してますから……。そうじゃないと忌避の目を向けられますしね…。」
加藤がタトゥーを彫っている事実を明かした私。
伽耶も頷く。
「分かりますよ今なら……兄貴の気持ちが……。タトゥーを挿れているってことは…もう全てに…絶望していたんでしょうね……。貴女に会うまで。それを瀬川さんが親身になって……全力で向き合って……自らの過去という『毒』を曝け出して、兄貴も『毒』を吐き出した……。『どんな人でも見捨てない』、『取材相手の過去から学ぶ』。そんな優しさに惹かれたんだと思います……。父以外で、兄貴にそうやって接していた人って、今思い返しても居ませんでしたから……。」
そうかもしれないですね、と私も同調した。
と、ここで、熱海市に到着し、ここのETCで私たちは東名高速道路を抜けていった。
熱海市を少し車で走らせたところに加藤の母の実家があった。
どこにでもありそうな普通の一軒家だ。
駐車場は一応あるが、車はない。
所有していないのだろう。
私はインターホンを押した。
心音が高鳴っているのがわかる。
そして家のドアを開けたのは、加藤唐助の母「眞由美」だ。
同じ女性とは思えない、醜い容姿だ。
しかも、人の気を何も感じない。
まるで魍魎と対峙しているかのようだ。
怒りを必死になって抑える。
そして私は挨拶をする。
「……私は東京の方から来ました……『幽芳社』監修雑誌『アナーキー』専属記者、『瀬川晴香』と申します……。……今日は息子さんの件で、取材に訪れたのですが……。取材をさせていただいてもよろしいでしょうか。」
「何のためにアイツのことを話さなきゃいけないわけよ。……娘までたぶらかして。」
「……伽耶さんはあくまでも『仲介人』です。それでも不服でしたら、根も葉もないことを書くことになってしまいますが? ……貴女とて、謂れのないことで私なぞに叩かれたくもないでしょうから。」
「アナーキーの記者さんね……流石、やることが違うわね。『名誉男性様』は。」
完全に名誉毀損の言い草だった。
……なるほど、こういうことか。
この女はどこまでもクズだ。
カチンと来そうだった。
いや、正確にはもう既に来ているのだが。
と、ここで伽耶がズイ、と前へ出る。
「………私と喧嘩した時もそうだったよね……? 母さん。……どこまで逃げれば気が済むの!! 何が『名誉男性』よ!! 私の電話で取材を受けると言ったのはあなたでしょ!! そりゃさ、久しぶりに会ってさ! 言いたいこととかいっぱいあるよ!! でも瀬川さんを突き放すのは流石に自分勝手もいいところよ! 兄貴の親としての責任から逃げんな!!」
伽耶の抑えていたものが爆発したように思えた。
だが、眞由美は信じられない一言を発した。
「だから何? ……私は何も間違えていない。間違えたのは唐助じゃない。……そこまでして悪者に仕立てたいわけ?? この私を。それも、男に魂を売った『名誉男性』たちに? ……笑わせるわね。これだから女性は『男の食い物』にされるのよ。……ずっと、ね。」
ここまで支離滅裂なことを言われて腹が立たないわけがない。
対峙しているのは本当に人間なのだろうか。
血も涙もない。ドス黒い、何かが巡ってくる。
「ふざけたことを……言わないでもらえますか……? 何も社会に貢献していない人に拒否権など、あるわけがないでしょう?」
私ははらわたが煮え繰り返っている感覚を味わった。
人と対峙してここまでの怒りを味わったことはない。
深呼吸を6秒して怒りを抑えるやり方も、今やっても全くの無意味だ。
今にも掴みかかりそうだ。
「なぜ受け入れないといけないの? こんなふざけた取材なんかに。男に媚びを売っているからそんな考えになるのよ。」
あくまで拒否する姿勢を見せている眞由美だ。
しかも私は媚びを売っているわけではない。
その悪い教訓を未来に繋げようとしているだけにすぎない。
そしてこの言われようだ。
カッとなり、私は眞由美の胸ぐらを掴んだ。
「……私は媚びなんて売っていません。……強いて言うなら未来に媚びを売っていますから……!! もう2度と……! あんな悲惨な事件を起こさないように!! 殺人事件を……事前に食い止めるために! …私の母より酷いですよ……貴女の今していることも……加藤唐助に……幼少期に貴女がしたことも!!」
「……貴女も、あのゴミと同類とでも言いたいの?」
「ええ私はゴミですよ!!! どこまでも私と貴女の息子さんはそっくりですよ!! 逃げ場所があったかなかったかの違いだけで!!」
完全に一触即発の空気を纏った玄関前。
仲介人のはずだった伽耶は邪険な空気に呆気にとられている。
ハッと我に帰った伽耶は私と眞由美に喧嘩を辞めるよう促した。
「もうやめてよ二人とも!! 喧嘩しててもどうもなんないって!! ……母さん、言いたいこと、いっぱいあるんだろうけど、最悪私が止めるから! 瀬川さんを! で、瀬川さんは感情的になりすぎ! 気持ちはわかるけど一回落ち着いてよ!! 何のために私がわざわざ来たと思ってんの! 仕事の休みまで取ってさあ!!」
伽耶が1番大人だ。
私としたことが、感情が爆発してしまったようだ。
一息吐き、脳を一度落ち着かせる。
「……すみません、見苦しいところをお見せしました。」
伽耶に謝罪する私。
一方、眞由美は、というと。
「……まあいいわ。伽耶の顔に免じて、取材は受けてあげる。……ただし、変なこと聞いたら即打ち切るから。こっちから。」
そう言ってリビングへ戻っていった。
「……失礼させて頂きます。」
少しの怒りを滲ませながら、私達はリビングへ上がっていった。
多分……俺が晴香の立場でもああなりますね。絶対に。
本当にクズをクズらしく書くのって……こっちも怒りが湧いてきますね。
さて、次回は多分、過去最大の字数になるかと思います。残り3話、全力で書きますのでよろしくお願いします。




